猫を拾ってから、さわれるまでに1年かかった #猫の日
4年前に子猫を拾った。
臆病すぎて、さわれるようになるまで1年かかった。
今でこそ夜は布団に潜り込んでくるようになったけれど、当初はとんでもない暴れん坊で、最初の検診も、6軒目の動物病院でやっと診てもらえたくらいだった。
保護猫をお迎えしたい人、お迎えしたもののなかなか人馴れしてくれなくて悩んでいる人などが、インターネットの海を彷徨った時に、私とテトの1年の話も目に触れたらいいんじゃないかな、と思って、2024年の猫の日にこの話をしてみようと思う。
2020年春
ニューノーマルに厳しい世界
4年前、当時お付き合いしていた方とお別れして、次の誕生日を独り身で迎えるにあたり、自分は何が必要かな、と考えて、たどり着いたのが「家」と「猫」だった。
家はとりあえず、いい感じに見つけて、いい感じに手に入れた。(今、マンションの理事会の役員になってくれと追いかけ回されているところである)
猫が、思いの外難しかった。
当初より保護猫を引き取りたいと思っていたのだが、私自身が猫を飼った経験が無かったこと、そして何よりも、独り身というライフスタイルが、予想以上に大きなハードルとなった。
最近は世間でもその基準が取り沙汰されることがあるけれど、やはり私自身に何かあった時のことを考えると、保護活動をされてる方々から譲渡先としての優先度が下がることは仕方ないと思っていた。
それでも諦めきれず、ジモティーで猫の譲渡情報を毎朝チェックしていた矢先。
世田谷代田に住む知人のマンションのエアコン室外機の裏に突然現れたのが、まだ生後数ヶ月と思しき、黒く煤けたキジトラの子猫だった。
世田谷代田に1週間通い詰めた
大家さんが猫避けを撒いて、保健所に連絡するかも……といった現状を聞いて、仕事終わりにすぐに現地に向かった。同じ時間に仕事を終えた同僚のマナミとおにぎり君は、私が猫を飼いたいと言っていたことを知ってくれて、快く一緒に来てくれた。
途中、新大久保のドンキホーテに寄って、猫用のキャリーケージと、おもちゃ、そして網みたいなものを買った。
写真だけ見ると、お前ら遠足にでも行くのかよ大丈夫かよ、と思われるかもしれないけれど、このテンションは繁忙期のハードワークにより夜遅くに仕事が終わったことによるものなので、許して欲しい。
現地に到着して早速捕まえようとしてみたけれど、子猫は予想以上に小さくてかなりすばしっこかった。慣れない私達では到底太刀打ちできず、ドンキで買ったケージは出番がなかったし、おもちゃと網は、袋を開けることすらなかった。
そしてこの子猫、逃げた後、5分くらいすると同じ場所にトコトコ戻ってくる。なのでこちらもなかなか諦めがつかず、引き上げられない。
当時は「子猫、私たちのことを馬鹿にしてる・・・!?」と思ったけれど、今思えば、子猫側も臆病ながらに、必死に距離を詰めようとしてたのかもしれない。
結局その日は捕まえられないまま帰宅することに。
そしてその日から、仕事終わりに世田谷代田に通っては子猫に翻弄される一週間が続いた。
最終的に、実家で猫を3匹飼っている猫戦士のおにぎり君が、週末に一人で現地に出向いてくれて、すごく上手に素手で捕まえてくれた。連絡をもらった時は「魔法使いなの!?」と割と大きな声で驚いたのを覚えている。
「とにかく素手で抱えてるから早めにきてほしい」と言われ、先日買ったケージを積んで車で急いで向かうと、子猫を抱いたおにぎり君が待っていてくれた。
「腕の中で最初は暴れていたけど、抱きしめたらすぐにおとなしくなった」とのことだった。
その日は、とりあえず私の家に連れて帰った。
道中も、家についてからも、全く鳴くこともなく、ジッとこちらを睨んでくる子猫は、捕まえる前よりももっと小さく見えた。
おにぎり君のお父さん(おにぎり君の実家の主なので、すなわち3匹の猫飼い)も、おにぎり君経由で色々と話を聞いていたようで、気を回して下さり
「毛布をケージにかけて安心させてやるんだ」
「冷えないように温めてやりな」
と都度、なんかやたらキザな文体の、でも優しい連絡をおにぎり君経由でくれた。
子猫、人馴れしてなさすぎてなかなか診てもらえない
翌朝、ケージの中を覗くと、子猫はケージの奥で丸まっていた。いわゆる瞳孔が開いた感じの目をしていて、これが野生の動物の目か…と思った。
所定の届出などもしつつ、とりあえず一度ケージから出してしまうともう自分で入れられない気がして、そのまま動物病院に連れて行くことにした。
一軒目の病院は小さな個人院。
ケージをのぞいて先生が一言「ああこれは…今日は人手が足りなくて、これは、うちで見るには少し、臆病すぎる子かもしれない」と、優しく断られた。そら、こんな目してたらそうなるわな。
その後4軒回ってみたが、同じ感じのことを言われた。今思い返したら、日曜日で急患しか対応してなかったからかもしれない。誤解ないように書いておくと、5軒とも追い返すとか相手してくれないとかじゃなくて、あの動物病院なら診てくれるかも、みたいに色々教えてくれた。
そして6軒目にしてやっと診てくれる病院に辿り着く。
こちらもケージを覗くなり、先生が内線で「応援頼みまーす」と電話すると、休憩中のスタッフさんが奥からたくさん出てきてくれた。
予想通りのとんでもない暴れ具合から、採血やワクチンはもう少し落ち着いてからの方がいい、とノミダニの薬だけをやってくれつつ、それでも色々教えてくれた。
生まれて数ヶ月であろうこと、性別はオスであること。
途中まで母猫と一緒にいたのか、人に育てられて捨てられたのかは定かではないが、とにかく臆病でニンゲンが怖くてたまらないこと。そして顔つきからして、親のどちらかは洋猫の可能性が高い、とのことだった。
絶妙な距離感の同居スタート
家に帰って、ケージの扉をあけてみたけど、全く出てくる気配はなかった。
猫も疲れていたのか、少しするとケージの奥で目を閉じていた。
初めて目を閉じているところを見て、かわいいなあ、と思った。
5時間くらい経っただろうか、ふとケージを覗くといなくなっていた。
こっそり外に出てきてきたらしい。
部屋を回し見ると、ベッドの下の隅にふわふわの毛玉が縮こまっていた。
とりあえずトイレシーツや餌を準備してみつつ、皆におすすめされたちゅーるを手に出して近づけてみたら、ものすごい顔で拒否された。
そりゃそうか、急にとっ捕まえられて、ケージに押し込まれて、6軒も病院連れ回されて急に優しくされてもなんだよお前ってなるよねごめんね・・・と思いながら、部屋に隠れられそうな場所をたくさん用意した。
こうして念願の、でもちょっと想像とは違った私の子猫との生活が始まった。
耳が大きい
数日経って、子猫は部屋の中を物音立てずにそっと徘徊するようになった。
隙間を見つけては入ってみて、入り心地を試しているようだった。
数人の友人と家族に上の写真を送ったところ、皆口を揃えて「耳が大きいね」と返事をくれた。
今写真を見返してもそう思う。本当に大きい。
そんな中、定期的にアドバイスを送ってくれていたおにぎり君のお父さんが「テト、餌は食べてんのか?」とおにぎり君経由で連絡をくれた。
おにぎり君によると、数日前から思いついたようにテトと呼ぶようになったらしい。風の谷のナウシカの、耳の大きなあのテトから来ているだろうことは言われなくとも分かった。
おにぎり君にはお世話になったし、お父さんにも本当にお世話になっているので、その命名を採用させていただき、子猫の名前はテトになった。
テト。キジトラのオス。生後数ヶ月。
写真だけ見るとリラックスしているように見えるが、触ろうとすると急に不安そうになって後退りし、隅っこで縮こまる、こちらが不安になるくらい、本当に臆病な猫だった。
人の手が届かない窓の角で文字通り死んだように寝る猫
部屋中を徘徊した結果、外も眺められて、部屋の私の様子も伺える出窓の隅をお気に入りの場所に決めたようだった。
部屋側からはあまり様子が見えないけれど、隣の部屋のベランダからだとよく様子が見えるので、私も毎日ベランダに出て、外からテトを眺めていた。
とても気持ちよさそうにしてるのに、私がいることに気がづくと窓に威嚇の体当たりをしてきた。ガラスの存在を理解できてない様子が、これまた可愛かった。
そんな風に窓際で過ごすことが増えたテト。
部屋の内側から様子を見るときは、勘付かれると逃げてしまうので、仕事の合間にそっと覗くのが習慣付いた。
しかしそんなある日。ふと窓際を覗くと、なんとテトが窓際でひっくり返ってるではないか。
猫を飼ったことがなかった私は大声を出した。
「テトが死んでる!!!」
すると私の声に驚いたテトが飛び上がった。
それを見た私はまた大声を出した。
「生きてる!!!!!!!!!!」
めちゃくちゃシャーされたけど、流石にこの時は私もシャーし返した。
猫がこんなふうに仰向けになって寝るなんて。
いや、見たことはあったけど、普段の威嚇具合から、突然仰向けで寝るとは思ってもみなかった。
この日あたりから急に、テトはこの定位置でだけ、仰向けに寝るようになった。
あまり様子を伺うとやっぱり逃げていくので、そっと写真を撮ったりした。
以下お気に入りの3枚を紹介する。
窓から見える木々の緑と空の青がどんどん濃くなって、本格的な夏が来ようとしていた。
2020年夏
家出したかと思った夏
8月の蒸し暑い朝、起きると私の部屋のドアが開いていた。
寝室からテトは出さないようにしているのに。
自分で開けたんだろうか?
急いで起きて、家中を探し回ったけど、全くいる気配がしない。
もう一度改めて家の中を隈なく探そう、と思う一方で、外に逃げ出したんじゃないか、という不安がどんどん大きくなっていた。
脱走対策もしているが、本来のすばしっこさを考えると、何かのタイミングで外に飛び出して逃げた可能性も、猫を飼ったことがなかった私には否定はしきれなかった。
ネットで検索すると、家猫が外に飛び出して歩き回るのは半径500m以内くらいで、捜索は早ければ早いほうがいい、と書いてあったので、たまらずちゅーるを片手に家を飛び出して、名前を呼びながら辺りを歩き回った。
この頃には、テトが普通の猫の集団では生きていけなさそうな性格をしていることが、猫初心者の私でもなんとなく分かってきていた。
家の中に出た蜘蛛にもビビり散らかして、手も出せなかったテト。
肉や魚よりも、少し土っぽい香りのする野菜に反応して食べたがるテト。
テトがいつから一匹で外の世界に居たのかは知る術もないが、あまりの臆病具合に縄張りから追い出されたんじゃないだろうか。狩りもできなくて、その辺に生えてる雑草を食べて生き延びてきたんじゃないだろうか。
今年の春生まれで、最近の日本の厳しい夏をまだ知らないテト。
そんなテトが家に帰って来れなかったら・・・。
「猫を飼うって簡単なことじゃないですよ。その自覚と覚悟があるんですか?」
テトを迎える前に、誰かに言われた言葉を思い出しながら、3時間くらい歩き回った。何の手掛かりも見つからなかった。
半泣きになりながら、また拾った時のように近くに隠れて様子を見ていて、頃合いを見てトコトコ帰ってくるんじゃないかと思い、家の近くにちゅーるをおいて、トボトボ帰宅した。
朝早くに飛び起きたので眠気にやられ、泥のような寝落ちをして、夕方。
悲しくても腹は減る。何か作らねばならない。
そう思って台所にたち、調味料を取ろうとしてしゃがんだら、棚の下から尻尾が見えた。
驚いて覗き込むと、そんなところよく入ったな、という10cmもないくらいの隙間に、なんとテトがいた。
耳を最大限に倒していて、ほぼ水平になっていた。口もきゅっと固く結んでいる感じから緊張感が伝わる。
寝室のドアを開けたのか、開いていたのかはわからないが、とりえあえず寝室の外の世界に出たくなったみたいだった。出てみたら知らない世界すぎてパニックになり、台所の棚下にダッシュ。そのまま全部が怖くなって、出られなくなったようだった。
本当に臆病で、その割に好奇心旺盛なんだなと思った。
朝カラカラに干からびた心が一気に潤った瞬間。それと同時に二度とこんなことにならないようにしようと思った。以来私は窓の鍵は常時締めるようになり、窓やドアを開けるときは都度指差しネコ確認をするようになった。
次の日、仕掛けたちゅーるを見に行ったら、丸々消えていた。
いつも見かける外猫が持っていったようだった。
やっぱりテトは、外じゃなくて、私と一緒に暮らしたほうがいいと思った。
2020年秋
捕獲機を家の中に設置して捕獲
その年の秋。
テトより少し前に、テトよりもサクッと簡単に手に入れた家への引っ越しの期日が迫っていた。
猫は環境の変化に弱いと聞くし、テトは人一倍、いや猫一倍そうだと思うのでなんとか影響を最小限にしてやりたい気持ちがあった。
それまでに触れるようになるかな……と一縷の望みを託していたが、全然無理だった。
一方で、この頃には、毎日一緒に過ごしていてもわかるくらいに身体がどんどん大きくなってきていて、ワクチンも採血も、そして去勢手術も早めにしてやりたかった。
とりあえず、引っ越し前にワクチンだけは打ってやりたいが、病院に連れていくのは難しい気がして、自宅に往診してくださる先生を探した。その先生にも「素手で触れない猫は診れない」と断られていたのだが、相談を重ね、最終的に捕獲機を家に設置して捕獲できるなら診ます、と言ってもらった。
そこで、捕獲機を買った。
あまり小さいと逃げられるかもしれないので、少し大きめを買った。
本当は踏み板タイプにしたかったけど在庫がなくて釣り餌タイプ。
1週間くらいは仕掛けを止めて、慣れさせた。先生は私が本当に捕獲機買ってくるとは思ってなかったらしく、えらく感心してくださった。
引っ越しの前日に仕掛けを発動させて捕獲。
先生から「バスタオルを20枚ほどご用意いただけますか?」と言われていた。
「捕獲さえできれば、入り口からバスタオルを詰めて猫を固定、ワクチンを打ちます。」とのことだった。
画像はワクチン打たれたあと「やっぱりニンゲン信じられない」の顔をしているテトです。
この後、捕獲機ごと詰めたバスタオルででくるんでやって、引っ越し。
一気にワクチンと引っ越しは可哀想かもしれない、と思ったけれど、捕獲機で捕まえる回数が少ない方がいいんじゃないかと考えた結果だった。
新居にビビり倒すテト
新居に引っ越してから、家具の設置よりも何よりも先に、すぐにテトが好みそうな居場所をたくさん作った。
が、そんなものには目もくれず、テトは設置前の家具の間に逃げ込んだ。
おかげで家具の設置は後回しになった。
その日の夜から三日三晩、慣れない環境がストレスなテトは、本気の夜鳴き大暴れをかました。
私も三日三晩ほぼ一睡もできなかった。声が枯れるまで鳴き続けるテトを見ながら、回らない頭で、申し訳ないことをしたなあ、ということと、猫は本当に環境の変化が苦手なんだなあ、と文字通り痛感した。
3日目の朝、祭りのフィナーレと言わんばかりにクローゼットに入り込んで暴れ散らかした。設置したばかりの突っ張り棒を引き摺り下ろして、服にがんじがらめになったテトの写真。もはや何かの宗教のイベントなんよ。
猫を落ち着かせるためにやったこと
猫を落ち着かせるための方法を片っ端から試した。
ジルケーン、猫用ミルクも導入してみた。
個人的な感想だが、ジルケーンは多少効いた気がする。猫用ミルクは飲んでくれなくて、ほとんど丸ごとシニア猫飼いさんに譲った。
あと、家ではずっと猫が落ち着くBGMをかけていた。落ち着く感じの曲調のものが多く、猫が落ち着くというより、私が落ち着いた。
Spotifyの2020年の年末ランキングに食い込んでくるくらいにお世話になった。
あと、@setzerhiro6120 さんの猫専用動画もおすすめ。種類もいろいろあるけれど、音あり超LONGバージョンが今はヘビロテ中。テトはオープニングのイントロ流れただけで走ってくる。作者である@setzerhiro6120さんが定期的にSNSを巡回されていて、リアクションつけながら、新作出されてるのも好き。ただし、猫、だいたい大興奮して画面に飛び込むので大型テレビとかは注意。私はiPadにジップロック2重にして再生してます。
再び捕獲機で捕まえて去勢手術
さて、夜鳴きもだいぶおさまってきた頃、ついに去勢手術をすることにした。もう冬も近づいてきていた。
去勢手術は、ワクチンの時に往診してくださった先生が、捕獲機でテトを捕まえた心意気を買ってくださり、やってくださることに。また捕獲機で捕まえて、バスタオルで固定して麻酔を打つとのことだった。
ただ、今回こそ学んだぞ、と言わんばかりにテトは手術当日朝になっても捕獲機に入ってくれなかった。この機会を逃したら次はない気がする、と思った私は、二の腕まである厚手の手袋をして、テトに立ち向かった。勢いで洗濯ネットを投げたらそれがテトにたまたま被さり、暴れたテトがそのまま洗濯ネットに入った。急いでチャックを閉め、それを捕獲機に入れ、なんとか「捕獲機で捕まえた」形に仕上げた。
当日までも丁寧に、そして動物ファーストで色々とご指導くださり、先生には感謝しかない。
にしても恩人の先生にケージごと体当たりするとかマジでテトほんま。
この後、捕獲機はインテリアにしておくにはあまりに大きいので、保護活動をされてる方にお譲りした。
ちゅーるに狂う猫とニンゲン
さて、ここまで読んでいる人からしたら「無理やり触ればいいじゃん」と思うかもしれないが、物理の触れると、心の通った触れるは違うのである。
この頃も、テトのペースを崩すような近づき方をすると、明らかに距離をとられた。そしてそのいつもより疎遠な感じが、3日くらい続くのだった。そしてそれが私のメンタルを予想以上にボコボコにした。去勢手術の後とか1週間くらい私にビビってた。私は辛かった。
それでも、テトの温もりを感じられる唯一の瞬間があった。ちゅーるを上げる時だ。お迎え初日こそ拒否されたものの、やはり猫たるもの、ちゅーるの誘惑には勝てないようで(イナバ食品まじですごい)結構早い段階から、ちゅーるを用意している時だけは私の近くに寄ってきていた。
最初はちゅーるを袋から舐めながら、時々思い出したかのように私を威嚇していたのが、次第にちゅーるを食べている時だけは、ちゅーるに夢中になってくれるようになった。(食べ終わるとハッとした顔して逃げていくけど……)
どうしても猫の温もりを感じてみたかった私は、試しにちゅーるを手の上に絞り出してみた。すると、最初はすごい戸惑っていたものの、少ししてから、恐る恐る手のひらのちゅーるを舐めてくれたのだ。
これが、初めてテトが温かいというのを感じたタイミングだった。正直ちゅーるの匂いが得意ではないが、テトにさわれるならそんなのどうでも良かった。噂に聞いていた猫の舌のザラザラを、思う存分堪能した。今なら思い残すことなく死ねると思った。
のに。ニンゲンたるもの、生きていればどこまでも欲張りなもので。最初は手のひらだけでいい、なんて思っていたのに、すぐにこの温かい生き物が、膝の上に乗ってくれたらどれだけ幸せだろう、と思ってしまった。
最初は顔にでもちゅーるを塗ろうかと思ったけれど、そこはニンゲンとしての理性が打ち勝ち、結果、ゴミ袋を被ってその上にちゅーるを塗るという奇行をかました。
テトには変な目で見られた。
私もちゅーるに狂わされたのだと後から気づいた。
2021年冬〜春にかけて
#そろそろ俺に抱かれろよ
年が明けた1月ごろから、やたらと視線を感じるようになった。
物陰から私のことをじっとこちらを見ている。
一定の距離をとって、私の後ろをついてきてる感じもある。
振り返るといつもだいたいこの距離感だった。
部屋から出ようとしたら覗き込んでいたり。
時にクローゼットの隙間からじっとこっちを見ていたり。
挙げ句の果てにはモニター後ろから、仕事をする私をじっと見つめることも増えてきた。こんなん仕事できるか!
最終的にはお風呂やトイレ、別室から出てくるのを外で出待ちされる待っているようになった。
恋愛でいう付き合う直前の感じ? 浮かれた私は #そろそろ俺に抱かれろよ というハッシュタグをつけてこの距離感のテトをインスタに投稿し続けた。
一方で知らない人家に入れるとブチギレる
その一方で、知らない人には相変わらず容赦がなかった。
ガスやエアコンの整備士さんがくるとクローゼットに立てこもり存在感を消すし、年末コロナで帰省ができなかった地元のお友達が泊まりにきた日は、お風呂に立てこもってしまい、テトはバスタブの中で年越しをし、三が日のほとんどをバスタブで過ごした。
後日、この日の写真がiPhoneに2021年の元旦の出来事として定期的におすすめ表示されるように。忘れられない年越しになったねテト・・・
邪な思いから猫カフェに通う
最近のテトの思わせぶりな態度にニンゲンは翻弄されていた。
触れそうなのに触れない。
抱けそうなのに抱けない。
でも無理させたくない。じれったい・・・
もはや曲が書けそうなくらいに焦らされる毎日。
次第に「猫ってどういう感触なんだろう?」ということばかりが頭の中をぐるぐるして、夢にまで見るようになった。
小さい頃の、空って飛べるのかな?曇って柔らかいのかな?と思う気持ちに近いと思う。
でもここで、大人の私は思いついてしまう。
お空の雲は触れないけど。
猫には触れるんじゃないか?
そうだ、猫カフェ、行ってみよう。
思いついた翌日に行ったと思う。
猫のあまりの近さにビビる私。
本来の猫ってこんな距離感なの?
ねえ、私が一緒に暮らしているのは本当に猫なの?
夜18時のごはんタイム。悶絶。尊死する。全てが浄化される。一生幸せでいてくれ。
人慣れした猫というものがどういうものなのかを学び、今後に活かしたいと強く決意し、帰宅。
そして、少しワクワクしながらの帰宅。
猫カフェに行くと飼い猫にバレてヤキモチ焼かれるという噂を聞いたのだ。
髪切ったの気づいてくれるかな、ネイル変えたの気づいてくれるかな。
そんなのと同じ気持ち。
「テト、私が猫カフェ行ったの、気づいてくれるかな?」
部屋のドアを開けると、私がサイズ間違えてテトの身体には少し小さいペットカーペット(ごめん)の上に寝そべるテトが、すんごいだるそうにこっちを見てた。
いいも〜ん・・・
でも、この時も実は、少しずつ、少しずつ距離は縮まっていたみたいだった。
急に膝の上に乗ってきた2021年4月
まあいつかどうにかなるでしょ、と思っていた春。
それは突然訪れた。
この頃はドンキに通い、毎月5000円くらい猫用のおもちゃを買っていた。ふわふわでコロコロしたおもちゃにはどうしても反応してしまうのが猫のサガ。大量のおもちゃを買うことでテトの気を引いていた。
この日もおもちゃを仕入れたての日だった。いつものように床に座り、新作のおもちゃをくるくるしてテトの気を引いていた時。
テトが急に、私の膝の上に片手をかけたのだ。
初めて感じる肉球の柔らかさ。そして何よりも温かさ。
当たり前なんだけど、目の前にいるテトは、本当に生きているんだと思った。
テト側も、この一線を越えるのにめちゃくちゃ勇気を振り絞ってる感じもあった。まだ踏み込むのは怖いらしく、恐る恐るだったので、私は歓声を上げたいのをじっと我慢して、絶対に怖がらせないように頑張って息を殺した。
私の膝の上にゆっくりとひとつずつ手足を乗せていく。平らではないので、バランスを取ろうとするテトの爪が少しだけ私の足に食い込んで少し痛くて、これが夢じゃないことを教えてくれた。
全部乗せたあと、ゆっくりとその上に丸まって、私を見上げてきたテトと目が合った。黄色の中に綺麗な緑も混じっているんだな、と思った。
嬉しすぎて、すぐにいつも相談に乗ってくれていた友達や獣医さんに連絡した。
私の生きる意味
テト側も踏み出してからというものは早かった。
その後、仕事中も膝に乗りたがるようになり、横で寝たがるので仕事椅子を長椅子に変えた。熱を出した日に、起きたら横で添い寝してくれていた。そのうち、気づいたら布団に潜り込むようになった。最近は朝方布団に潜り込んでくるので、抱きしめて二度寝する。
今でも夜大暴れすることもあるし、買った家はそこらじゅうが引っ掻き傷だらけになった。観葉植物は片っ端から食べようとするので置けない。そんなテトと、あと30年くらい一緒に元気に過ごしたいなあ、という生きているからこそのニンゲンの欲が、また出てきている。
私の生きる意味、テトとの最初の1年の話でした。
最後に
触れない猫ちゃんと過ごしている人もたくさんいると思うのですが、触れないままでもきっと良くて、でも、こうやって少しずつ心を開いてくれる猫もいるんだなって知っててもらえたら、何かの時に役に立つかなと思いました。皆様、良き猫の日をお過ごしください!
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