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成田空港に持ってきたのは古いパスポートだった #韓国

以前、ニューヨークでパスポートを紛失して大変だった話を書いた。

文章は他のSNSにも投稿したりするのだが、私の場合、TikTokが一番反応をもらう。上の記事もTikTokで結構反応をいただき、8割くらいは「面白い」残り2割は「友達にいて欲しくない」みたいなコメントだった。Tiktokはコメントフィルターが大変優秀なので、私が目にしてないだけで、本当は後者側の割合(と、もっと辛辣なコメント)が多いと思われる。

さて今回は、それでもめげずに「やはり菅原きこ氏とは旅行に行きたくない」と思われるであろう「これから海外に行くというのに、昔のパスポート持ってきた話」をしましょう。




錦糸町パラダイス〜渋谷から一本〜


予約していたのは、AM8:55成田発11:30仁川着のZIPAIRだった。

15:30からソウルの永登浦で打ち合わせが一件あったので、昼前に仁川に着いて、諸々手続きを済ませ、時間があれば空港で冷麺でも食べようかなあ……なんて呑気に考えていた。

コロナも明けて、空港バスの本数もおおよそ平常通りに戻っているが、早朝はやはり少ない。そんなわけで、成田発の時は、もっぱら成田エクスプレスのお世話になっている。

こんなタイトルの文を書いているくせに、できれば出発時刻の2時間前にはしっかり空港に着いておきたいタイプなので、この日は「始発エクスプレス」に乗車。実はこの日初めてのZIPAIR搭乗予定だったので、少し緊張していた、というのもある。

やはり海外に行くとなると、少なからず心が踊る。東京に住んでいればさほど珍しくもないスカイツリーの写真を、やっぱり浮かれて今日は撮ってみたりしながら成田空港まで向かった。

7:19空港第2ビル駅到着。ホームに降り立つと、より一層胸が高鳴るのを感じる。

占いを生業にしている友人が「東京ディズニーリゾートの空って明るいの!なぜなら、場の気は人がつくるからよ。夢を見ている人たちがつくる気は、ものすごくいいのよ〜」とこの前飲みながら言っていたけれど、私は成田空港の空も負けてないと思う。

空港特有の幅広のエスカレーターや改札をくぐり抜けると、左手に見えてくるみどりの窓口に早朝にも関わらず長蛇の列ができていて、インバウンドの盛り上がりを感じた。

ガラスの扉をくぐって、鉄道から空港のエリアへ。案内にしたがって、国際線の搭乗手続きフロアを目指す。

成田空港第2ターミナルの鉄道と空港の接続エリアは地下1階、国際線の搭乗手続きエリアは地上3階。すなわち、ここから3つのエスカレーターを乗り継いでいくことになる。この後とんでもない事実に気づくなんてことはこの時つゆ知らず、スーツケースをぶつけない様に気をつけながらエスカレーターに乗った。


ZIPAIRの搭乗手続きはほとんど無人・自動だと聞いていたので、焦らないようにパスポートだけでも先に出しておこうと思った。

1つ目のエスカレーターを降りる前に、リュックのポケットパスポートを取り出して、目に入った違和感。状況をまだ頭では理解していないのに、反射的に心臓が跳ねた。

「表紙に穴空いてる……」

見間違いかと思って、咄嗟に表紙を指でなぞる。
そしたら、明らかにボコボコとしていて、全然現実だということを逆に思い知らされた。

その穴が何かわからないわけがなかった。

ニューヨークに行く前にパスポートを更新した際、穴を開けられて返却された古いパスポートを見て「こんな無惨な姿にさせられて……」と悲しくなったのを、私はよく覚えている。

今私が持っているこれは、まごうことなき、失効処理された古いパスポートだ。

だからこそ、何が起きたのかわからなかった。私が今から乗ろうとしている韓国行きの飛行機に搭乗するには、もちろん、有効期限内のパスポートが必要なのだ。

周りの音が消えて、風景がゆっくり動いているように感じる。走馬灯の無駄遣いも甚だしい。

暴走回転する脳に心はついていけなくて、文字通りの放心状態で1つ目のエスカレーターを降りた。少し目眩もした。

心を置き去りにして2つ目のエスカレーターに乗り、ハッと「ボーッとしてる場合ではない」と、めちゃくちゃ考えた。

「なんで???????????」

脳がフル回転しているおかげもあって、理由に思い当たるのにはさほど時間はかからなかった。

実はその数ヶ月前、これまた仕事関係で中国に行く予定があった。コロナの影響で日本人が中国に渡航するには、現在でも労働・観光関係なくビザ申請が必要となっている。

私は過去にも中国への渡航歴があるのだが、今回のビザ申請時、古いパスポートも持参して欲しいと大使館から指示があった。

そこで引き出しの奥に仕舞い込んでいた失効パスポートを持ち出したのち「中国でも提示を求められたら……」と思って中国行にも持って行ったのである。

そして中国から帰国後、新しいパスポートの上に古いパスポートを重ねてしまい込んで、今回、上の古い方だけを抜いてきた……。

「そうに違いない……」と、ガリレオごっこを終えて、2つ目のエスカレーターを降りる。別にそこを明らかにしたとて、現状出国できないという課題の解決は、全くできていない。

3つ目のエスカレーターに乗る前に「中国に行った際はパスポートを2冊とも持っていったので、今回も私は2冊持ってきているのでは……?」と、カバンの中をまさぐりまくったが、しっかりなくて肩を落とす。文字通りの死んだ魚の目で3つ目のエスカレーターへ。

どうする?届けてもらう?誰に?スタッフさんに頼み込んでいける?いや絶対無理、別室連れてかれたいの?てかニューヨークでパスポートの重要さを身にしみて感じただろ、あれないと、文字通りに基本的人権がなかったのを、身を以て体感してきたじゃん私。いやでも、今から飛行機の予約取り直して空席ある?てか予定の時間につける?てかてかてか、キャンセル料どれくらいかかるんだ……?

近づいてくる搭乗手続きエリア。思考が狭窄してゆくせいで、周りの有効なパスポートを持っている人達が全員羨ましく、ちょっぴり恨めしくも思えてくる。いいなあ、基本的人権保障されてて。

もう一度、手に持つパスポートの表紙を指でなぞってみる。何度確認しても、表紙には規則正しく穴が空いていて、やっとのことで心が現実に追いついてきた。

と、同時に、ニューヨークでパスポート無くした時のことをまざまざと思い出してきて「あの時どうにかなったんだから、今回もどうにかなるんじゃないか」なんて思えてきた。学ぶべきことを学ばず、とんでもないところで学びを発揮する。シンプルにお馬鹿なのである。

でも。それでも、なんてったってここは私の自国、日本。そして今回は、家にちゃんとパスポートがある可能性が高い。これだけで、Not Found.の文言を何度も突きつけられ、JFK空港・在ニューヨーク日本大使館・ニューヨークの警察で何往復もしたあの時に比べたら、全然勝算があると思えたのだ。

「やるしかない。また、“ドラマ”を作るしかーー」

謎に前向きな気持ちになり、3つ目のエスカレーターを降りて、庶務二課2のエンディングの江角マキコ氏の如く闊歩。テーマソングはGOOD LUCK!!のDeparture。タイトル候補は「パスポートを忘れただけなのに」(二番煎じパラダイス)

↑各所から怒られる代わりに、サントラ紹介しておくからぜひ聞いてみてほしいです。ショムニも面白いよ。


「ちょ、待てよ」


ZIPAIRのレーンはやはり人がいなかったので(正直焦りすぎてあんまり覚えてない)エスカレーター横の、お客様案内カウンターのようなところに足を運んだ。 

窓口担当のグランドスタッフさんは朝早くからモンスターと化したインバウンドなお客様と死闘を繰り広げていて、並びながら観戦する。

全然納得いってなさそうなカスタマーが立ち去ったのち、肩で息をしているグランドスタッフさんに接触を試みる。

空港や海外で私は時々東南系の人に間違われることがあるので「あの、お尋ねしたいんですけれども」と、日本語ネイティブであることをしっかりと明示したのち「端的に申し上げますと、パスポートを忘れたんですけど、私は今日、目的地の韓国に行けますでしょうか……」と、もはや日本語ネイティブなんてどうでもよくなるような問いを重ねた。

すると、あまり驚く様子もなくすぐにパソコンをパチパチし「この後でしたら13:20発のアシアナ航空の便がございます」と伝えられた。私の中では相当大ごとではあるのだが、空港だとやはりこういう出来事は日常茶飯事なのかもしれない。

数字の話になると急にポンコツ度を増す自分の脳を再びフル回転させる。15:30には先方に到着しなければいけず、となると14:00には仁川空港には着きたい。成田13:20発だと仁川に15:50着。ちょ待てよ、無理やんけ。

「んえぇ!」と声が出て、はからずしも私もある種のモンスターになりかねない状況の中、さすがプロ、進化の気配を察知したのか、そうはさせるかと「アシアナ航空の予約はこのカウンターでは承れず、あちらのアシアナの窓口の方へどうぞ」と言われ、モンスターになり損ねた私は、とぼとぼスーツケースを引いてアシアナ航空の窓口に向かった。

しかし結論、窓口ではパスポートの現物がないと予約できないらしく(そもそも窓口で航空券予約できるなんて知らなかったよ)どのみち有効なパスポートを取りに帰るのが最優先事項だとアシアナ空港の日本語が流暢なお姉さんに教えてもらう。しかも、ネットならパスポート番号だけで予約できるし、値段も安いから、帰りながら予約するのがいいと思います、と懇切丁寧に教えてもらい、まずはその「帰宅エクスプレス」の予約をせねば、と搭乗口フロアを後にした。


登ってきたエスカレーターを、こんなに短かったかな、と思いながら降りた。この時点で7:45。予約した帰宅エクスプレスは8:13成田発。1本前は7:40発で乗れなかった。

鉄道エリアに戻ってくると、みどりの窓口の列は来た時よりも伸びていた。発車時刻まで時間があったので、向かいのファミマでコーヒーを買った。既に予想外の損失を計上しまくってるのに、疲れを癒すべく高級ラインのモカブレンドを選ぶ。でも、スタバじゃないからいいよね。

成田空港の駅のホームでは、大体迷える海外観光客に「この列車は成田エクスプレスなのか?そうだとすれば、自分のチケットのどれが号車でどれが席番号なのか?」を聞かれる。乗ってからも聞かれる。これ私だけじゃないと思う、毎回平均3人くらいを助けている。いつもは特に何も思わないけど、この日ばかりは「私も人を助けている場合ではないのだが」と思った。

やっと自席に着席したのち、飛行機を検索しまくる。できれば今日の、早い時間にソウルに着きたい。

すると、アシアナ空港の「羽田12:05発 金浦14:25着」に1席空きがあるとでた。金額は55,770円。窓口で案内されかけた6万円の便よりも早い到着で、安い。やはりネット社会なんだ、と思いながら、即予約した。

金浦空港の利用は初めてになる。仁川よりはソウルに近いけれど、15:30に永登浦につけるのかな?鉄道?タクシー?・・・

とりあえず、家に帰って、有効期限内のパスポートがあることを確認してから考えようと思った。

窓からは、始発エクスプレスでたくさん撮影した東京スカイツリーが見えたけど、この時ばかりは撮影する心の余裕はなかった。




首都高速トライアル

駅に着いて、タクシー乗り場に向かいながら、自宅からタクシーを呼ぶ。上京したての頃はタクシー1台捕まえるのにもビクビクしていたのに、今や一度に2台のタクシーを押さえるなんて、随分偉くなったもんだと思った。えっへん。

駅からタクシーで自宅に向かう車内で、自宅から羽田に送迎してくれるタクシーが見つかった通知がスマホに届いた。確認すると足立ナンバーで、いつもは「スピード狂だったらどうしよう」と思ったりもするのだけれど、この日ばかりは「しめたぞ」と思った。

自宅に帰って来てすぐに思い当たる引き出しを確認。あった。わたしの、在ニューヨーク日本大使館で再発行したパスポート。とりあえず、定刻までに羽田空港に辿り着けば、出国する資格がある証明の一つは手に入れた。

私の出張を察知して明朝までスーツケースに立てこもっていた猫が目をまんまるにして「おいおいどうした人間」という顔でこちらをみている。「猫よ、おまえの飼い主、本当にやばいよ」と頭をなでなでしていると、スマホにタクシー到着の通知が来たので、猫にキスをして再び家を出る。

タクシーに乗り込んで、首都高に乗る。パスポートはどちらか1冊にすると何かを忘れそうで、結局2冊とも持ち出した。

道中、本日3度目のスカイツリーが見えた。人生でこんなにいろんな地点からスカイツリー見るの今日くらいだろうな、と思いながら、今度は写真を撮った。

足立ナンバーの運転手さんは、速度違反も無駄な回り道もない、総じて良い運転手さんだった。スカイツリーを無心に連写していたあたりで、話しかけても無害そうな人間だと思われたのか「どこかいかれるんですか」と聞かれたので「はい、韓国に行く予定で成田まで行ったんですけど、パスポート間違えて、一回帰ってきて羽田から別便で行きます」と伝えると、これまた驚く様子もなく「大変ですね」と労ってくれた。タクシー運転手さんも、毎日きっとたくさんのドラマを目にしているのだろう。

タクシー代は12,480円だった。「気をつけていってらっしゃい」と言われた。本当に、気をつけたい。

ハッピーフライト

搭乗手続きは始まっていて、手荷物検査も結構ギリギリだった。

本当は預け入れにしようと思っていた荷物を、到着後待ってる暇がないので持ち込みにしたら、コスメデコルテのリポソームが液量NGで引っかかって没収された。

安いものではないので、落ち込みながら搭乗口に向かっていると、奇しくもコスメデコルテのアンバサダーを務める大谷選手(の広告)に「お前が悪い」と追い討ちをかけられる形となった。本当にすみませんでした。

席は、座席指定する時には絶対に取らない真ん中の席だった。

いつもずっと見ている窓の外も見えないので、映画でも観ようとパネルを操作してると、ディズニーの「リメンバーミー」が入ってて、再生してみるのだが、字幕を英語にしても日本語にしても、どういうわけか中国語字幕しか表示されなかった。

仕方ないので字幕の読める漢字を繋ぎ合わせてなんとなくの内容を拾いあげてたのだけど、さすがディズニー、登場人物の大半が表情筋を持たない骸骨なのに、骨だけでもめちゃくちゃ表情豊かに仕上げられているおかげで「悲」みたいな漢字の字幕が出てる時、骸骨はしっかり悲しい表情をしていて、それがとてもよかった。(話の内容はあんまりわからんかった)




デリバリーマン

おおよそ定刻通りに金浦空港に着陸。コスデコを犠牲に荷物は全て手荷物にしたので、飛行機降りてから一目散に入国手続きへ。でも、金浦なめてた。さすがソウルの中心街に近い方の空港。長蛇の列。初めてあんなに並んだと思う。

ロビーに出て来れたのが14:50。永登浦に辿り着きたい時間は15:30。並んでいる間に鉄道を調べたけど全然間に合わなさそうで、タクシー乗り場に直行。最後の試練がスタートした。

この日、打ち合わせの都合で、荷物をホテルに置いていく必要があった。本当は仁川空港からホテルまで、荷物配送の予約をしていたのだけれど、空港が変わってしまったのでなくなく当日キャンセル。すなわち、荷物を置きに。一度ホテルに寄る必要がある。しかし、ホテルは約束の場所より先だった。しかししかし、寄っている時間がない。まあそもそも、辿り着いてるのが奇跡みたいなところもあるけれど、お相手側はそんなの知ったこっちゃないだろう。

私は毎回韓国を英語で乗り切る女なのだが、空港やホテルやスタバ、タッチパネルはそれで乗り越えられても、コンビニやタクシー運転手さんはなかなか英語が通じないことが多い。

そこで、翻訳機を使って運転手さんに「お金は払うから、ホテルに荷物を持って行ってくれませんか」とお願いをしてみた。言い訳させてもらうと、普段だったらこんな無茶なお願い絶対にしない。そもそも、海外で荷物を見知らぬ人に預けるとか無防備すぎる気もする。でも、切羽詰まりすぎて、後ろめたさとかの閾値が壊れていた。画面を見たタクシーの運転手さんが韓国語で色々話すのはほとんど聞き取れないけれど、機内で中国語字幕のリメンバーミーを通して鍛えた表情から内容を読み取る力で「僕が予約者じゃないから、ホテルに連絡を入れてみてほしい」と言ってるように思えて、ホテルに連絡。電話口で英語で私の名前と予約番号を伝えたのち、タクシーを一旦停車してくれた運転手さんが電話変わってくれて、事情をより詳細に説明してくれて、持っていってくれることになった。これはまたどこかで書きたいと思っているけれど、私は韓国に行くたびに優しい、お節介そうなおじさまに助けられている。

正しく打ち合わせの場所で、私だけをおろしてくれた。いくらお渡しすれば良いか相場が分からなくて、向こうもあまりわかってなさそうだったので、50000ウォンお渡ししたら、笑顔だったので、まあ不機嫌になる額ではなかったのだと思いたい。

そんなわけで、なんとか目的の永登浦に時間通りに辿り着いたのでした。この後、帰国してからめっちゃ高熱出しました。笑 失効したパスポートには大きく「失効」って書いたので次からは間違えないと思います。

P.S.
#忘れられない旅  にエントリーしようと思ってたんだけど締切終わってました。笑 せっかく書いたので置いておきます。笑





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