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140字小説まとめ 冬

星々という140小説のコンテストに投稿している。月ごとにお題の字が決まっていて、上限が5作/月。少し溜まったのでまとめた。(2021/11~2022/2)


11月(お題は書)

あー小説書くのしんどい。脳内を直接出力する機械があったらいいのに。誰でも一度は思うことがほんとになって、サンタが箱型の機械をくれた。私の頭の中の壮大なSFも下調べが大変な歴史小説も、箱がすらすら書いてくれる。私が書くよりずっと面白い。なんだか腹が立ったので分解した。中身は空だった。

他人の不幸と酒が大好きだった大富豪。彼の遺言は一年後に遺書を公開すること。親戚達は墓に高級酒を供えて自分の分け前を楽しみに待った。公開された遺書には「全部孤児院に寄付したよ」。親戚達は怒り、嘆き、遺書をビリビリ破いて燃やしてしまった。その煙はもくもく登り、大富豪に届く。甘露甘露。

真夜中、祖父の病室にいた。看護師が長い長い心臓マッサージを諦め、当直の医師がのろのろ現れ時刻を読み上げ、紙に書き留めた。あの夜私は祖父の死の瞬間を見届けたのだが、生死の境目があまりにもシームレスだったため、未だに死んだという実感がない。多分中国あたりで趣味の絵を書いていると思う。

入院した。お湯に近い粥や、塩気も形もない野菜を啜る日々。しかし最近ついに粥らしい粥が出た! これがしみじみ美味で、思わず「粥、うま…」という言葉が口から飛び出て、しばらく笑っていた。今頃外の世界はゾンビだらけかも。いざという時は私の部屋のDX日輪刀を使ってくださいと姪に手紙を書く。

予告状はいつも手書き。筆跡鑑定にかけられてもいいように毎回筆跡を変えている。私の正体は誰も知らない。ーーはずだったのに、ある朝、刑事が隠れ家に踏み込んだ。にやりと笑って、○○警部様へと書かれた一通の予告状を見せてくる。ああそうか。彼の名を書く時だけは、ほんとの私の字だったから。

12月(お題は光)

恋人と喧嘩した。優しいけど大雑把で、ウルトラセブンをウルトラマンセブンと言う。そう居酒屋で管を巻いていると、隣の客が困ったように囁く。いやあ私達は光で会話しますから地球の言語の些細な違いは気にしませんよ。ああ大将、お勘定。顔を上げるとそこには誰もいない。全部忘れて恋人に電話した。

生きた伊勢海老をもらった。冷蔵庫に入らないから床に置く。発泡スチロールの小さな海でちゃかちゃか蠢く音がする。蓋をずらすと蛍光灯を反射してぬるりと光っている。光ちゃんと名付けよう。無責任な人間なので生き物を飼わないと決めているが、ペットができるとやはり嬉しい。明日は光を茹でて食う。

私は幽霊。すみかは築40年の事故物件。幽霊なのでエアコンの掃除はできないし、カーテンは24時間開いたまま。ヒビが入った窓も放置している。だから冬はずいぶん冷えるけど、幽霊なので気にならない。真夜中、冷たい窓に頬を預けていると、どこかに光るものがある。雪の死骸だ。きれい。死んでいても。

祖父は常に何かしらのお菓子を持っている。おじいちゃんそれちょうだい、と一声かけて茶菓子を奪う。おっ今日のは高橋屋の煎餅だ。これおじいちゃん好きだもんね。ねえコーヒー飲む? コーヒーを祖父にあげて、すぐに奪って自分で飲む。仏壇の写真は蛍光灯を反射してぼやけているけど、多分笑ってる。

紅白が蛍の光で幕を下ろすのを呆然と見ている。いよいよ今年が終わる。何もしてないのに信じられない。2021何もなかったぞ。とほぼ全国民が思っているのだろう。でも大丈夫!一昨年までは夢や希望に溢れた日々だったかというと、それは錯覚なので。みなさんよいお年を。来年もなんとなくやっていこう。

1月(お題は結)

一生に一度は結婚というものをしてみたくて、友人の紹介で入籍した。夫は良い人で初めての結婚は最高に楽しかった。一年で離婚して別の人と結婚した。翌年にはまた別の人。離婚と再婚を繰り返す理由を聞かれ「結婚楽しかったから何回もやりたくなっちゃって」と答えると、最初の夫は眉を下げて笑った。

死んで転生した先は乙女ゲームの悪役令嬢だった。「婚約破棄だ!」と怒鳴る王子様。その隣で震える美少女…の背後に立つ庭師の男! あれこそ前世の私にハニトラを仕掛け刺し殺し、私の部下に銃殺された女スパイ! 「ではわたくしあの庭師と結婚しますわ」と指差すと虫を見る目で睨まれた。好きー!

子供部屋の窓が結露していた。小さな頃はよく指で絵を描いたものだ。懐かしい。そうだ、猫とかお花とか、猿神様とか。そう思って首を傾げる。「猿神様ってなんだっけ?」窓を指ででたらめになぞると、結露が溶け窓の向こうが見える。窓に顔をべったりつけて子供部屋を覗く白目のない目と、目が合った。

猿神様という、この地域に伝わる民話がある。猿神様は猿に似た姿の、子供好きの優しい神様で、人間といくつも約束を結んでいる。猿神様はきちんと祀らなくてはならない。月に一度、大量の食事とお囃子を捧げなくてはならない。夜は社の火を絶やしてはならない。猿神様を呼んではならない。特に子供は。

凶の御神籤は境内の枝に結ぶのよ。そう祖母に言われていたのに、僕は持ち帰った。子宝に恵まれると書いてあったから。次の夜から、妻がうなされるようになる。病院に連れていくと妊娠が発覚した。不妊治療が実を結んだのだ。猿神神社はご利益がある。妻の顔色はひどい。家のどこかから獣の匂いがする。

※急に始まった猿神様シリーズ。あとで猿神様で調べたらオカ板のまとめが出てきたけど、それとは特に関係なくて急に思いついたものです。何か猿っぽい架空の神(=妖怪)で、子供が好きなんでしょうね。退治されるといいですね。なにも知らんけど…

2月(お題は並)

それではみなさま、故人のお体の周りに花を置いてください。黒服がしんみり言うので、なんとなく一列に並んで、順番に、遠慮がちに、籠から花を取る。頭から爪先まで花をそっと置く。花が余り、なんとなく一列に並んでもう一周する。もう二周。まだ余る。最後の方はザカザカと投げるように入れていく。

葬式というものが、わりあい好きだ。故人がどれだけ嫌われ者でも一応の礼節をもって扱われ、弔辞など読まれる。特に火葬がいい。老いも若きも悪人も善人も、愛する人も憎い仇も、みな骨になってなんだか長い箸で拾われるのだ。白く砕けた骨を盆に並べると、ため息が出る。二、三日はよく眠れるだろう。

寝ずの番は私だった。通夜の夜、柩と布団を並べて、蝋燭の火を絶やさず守る役だ。枕元には白木の鞘の刀が置かれている。「あの刀、何のためにあるんだろうねえ」と呟くと、柩の中から「それ私も不思議に思ってたの。お化けでも出るのかな」といらえがある。「出たじゃん」笑いながら蝋燭の火を消した。

人間に生まれた奇跡に感謝しましょう。幼稚園の先生の口癖だった。お昼寝のたびに夢を見た。昨日園の庭で殺した蟻は、蟻のすがたの私。野良猫の私。サバンナのハイエナの私。宮殿の椰子の私。ブラジルの男の子の私。たくさんの私は並行して存在する。お昼寝の時間、ブラジルの私は目を覚ましている。

吹雪の山荘に滞在している。仕事で山に来たが雪で立ち往生したのだ。燃える暖炉。陰鬱なオーナー。わけありの7人の男女。裏口の斧。チェス盤に並んだ駒。ミステリが好きなので密かに興奮する。殺人犯が潜んでいて電話線が切られてたりして。ワクワクして寝て起きたら、手に血まみれの斧を握っていた。

<ここから与太話>2月は親族の葬式があったので半分は日記です。大往生だったのでおおむね明るい葬儀でした。通夜でおいてある刀は守り刀らしいのですが、何から守るんだろう…と調べてみたら「魔物」「猫も魔物の一種」「猫は金属を嫌うので猫除け」という情報が出てきました(あまり深くは調べてません)。じゃあ水の入ったペットボトルでも代用できるのかもしれない。猫好きなので、私が死んだら守り刀は置かないで、体の中に猫が入ってくるのを待ちたいと思います。</ここまで与太話>


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