140字小説(2023)
星々コンテストというお題をもらって140字小説を書くコンテストに応募している(してないときもある) 2023年のまとめ。六本木の地名の由来は諸説あるらしいです。
2023春(お題は「明」)
家に棲む明治の女学生の幽霊によると、気になる人がいたらハンカチを落として拾わせ、お礼にお茶に誘い、文通に持ち込むらしい。私は令和の高校生だからそんな遠回しな告白はしない。レトロな便箋を買い筆をとり、力強く「好きです!」と書く。好きな人と私の流儀、妥協点は、ラブレターの姿をしてる。
夜空が明るい気がして自席を立ち窓に近づくと、流れ星が光った。ここ最近ニュースを見る余裕もなかったが、流星群の日だと思い出した。昔天文学部だった。一人きりの深夜残業で痺れた脳では願い事も思いつかず、ただ死にたいと思った。光を見上げながら口を開くと、「いきたい」と出て、びっくりした。
黒魔術に手を染めた母は妙に明るくなった。疲れと肩こりが消え、前向きになり、一切怒らなくなり、体重は半減した。隣人の死体を庭に埋めつつ「人間って重いわ!私、軽くなったから介護する時楽でしょ。黒魔術に感謝」と笑うので、黒魔術士って介護されるんだ、と言ったら激怒された。少し嬉しかった。
2023夏(お題は「遠」)
遠国にお嫁に行くお姫さま。お供は兄妹のように育った従者だけ。「一生ついていきます」「良くってよ」しかし夫となる王様は姫ではなく従者と恋に落ちました。姫は祝福しましたが、王様が踊り子と浮気したため、王様に毒を盛って殺しました。二人はまた旅に出ます。それはそれで楽しい一生なのでした。
パブリックビューイングでサッカーの試合をやっていた。手を祈りの形に組み画面を見守るユニフォーム姿のサポーター達。一斉に肩を落とし、腕を振る。おもちゃみたい、と少し遠くから眺める。輪に入る人間も、入れない人間もいて、せめてどちらに対しても冷笑しないようにと神ではなく自分自身に祈る。
遠い星に行ってしまった友人のことを思う。夏の夜。酔っぱらっている。アポロチョコと午後ティーで晩酌をする。友人は美しい人だったので真夜中のチョコレートのことを軽蔑するだろう。口を極めて罵るだろう。でも私はお前のことなど気にしない。ざまあみろ。夜空は曇っていて、星のひとつも見えない。
2023冬(お題は「広」)
なんとなくで馬頭琴を始めた。モンゴルの楽器らしい。最初は自宅で弾いていたが、馬頭琴が狭いと嫌がるので、河川敷に出た。草がないと言うので野原に。羊を恋しがるので富良野に。やがてはるばるウランバートル。馬頭琴は広い草原にひとしきり喜んだ後、帰ろうと言った。今までで一番美しい音だった。
次は広瀬通一番町、広瀬通一番町。アナウンスで目が覚めた。黒のバッグを持って慌ててバスを降りたけど、本当はここで降りるはずではなかった。バス停の前には今はもうないはずの石鹸屋と、もう死んだはずの猫。もう会えないはずの恋人。もう剥がれたはずの薔薇のタイル。もうどこにもいないはずの私。
六本木には名前に木のつく家が六軒あったらしい。じゃあ広尾は?と調べてみた。江戸の昔、それはそれは長いしっぽが、4里四方をふわふわ覆っていたのだとか。水はけが良いから米も育った。いつしかしっぽは消えたけど、悲しい気持ちで広尾の街を歩いていると、見えないしっぽに頬を撫でられるという。
星々小説コンテスト
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