同人誌の表紙を活版印刷で頼んだレポート(実際の手順、価格など)
(これは2020/7月に投稿した後誤って削除した記事の再投稿です)
同人誌の表紙を活版印刷屋さんのまんまる○さんに頼んだときの記録です。活版印刷屋さんは印刷料金や手順がよくわからないところが多いため、あくまで一例ですが、「活版やってみたいけどよくわからない」という方の参考になればいいなと思います。
活版印刷のざっくりした説明
私もよくわかってないので、ほんとにざっくりした説明。
活版印刷とは金属、樹脂などでできた印刷の版(印刷したい部分が凸ってる)に、インクをつけて、押す。という印刷方法。ハンコのなんかすげー強いやつ。
活版印刷の中に更に、活字活版と凸版があります。
今回やったのは活字活版です。
活字活版は、一字ずつの金属製のはんこみたいなやつを手作業で組み合わせる。もともと「活字」とはこの一字ずつのこれのことらしい。この記事のヘッダーのやつがそれ。凸版は一枚の版を機械で作るやつ。詳しくはここらへんを見てください。https://cappan.co.jp/archives/2116
オフセットやオンデマンドと違って「わずかな凹み」とか場合によってはカスレとかインクが溜まってる感じが発生し、それがかえってレトロで、「物体」特有のかわいさがあります。
印刷してもらったものと金額
①仕様
・B6サイズの小説同人誌の表紙。
・紙は竹はだ180kgのA4サイズ。
・表1に、活字9字と、飾り罫。それ以外は印刷なし。インクは基本色一色。
②価格
150部で20000円。
内訳は、
・紙代3000円
・活字代金3000円
・印刷費(送料込み)12000円
ちなみに用紙はハーフエアの場合の見積もりも取ったのですが、その場合は紙代8000円でした。
活字は活字屋さんで買ってきてもらうシステム。印刷後、活字は無料でもらえました(他の所も同じシステムかは不明です)
※紙の厚みについて補足
竹はだ180kgを使いましたが、今回薄い本(薄い本の中でも薄い方の本)だったので、表紙が厚すぎてちょっと開きづらかったです。ページ数が少ないなら、もっと薄いか柔らかい紙にした方が開きやすさという面ではいいと思います。好みですけどね。参考まで。
依頼の仕方
実際に私が行ったやりとりは後述しますが、初めての依頼で失敗も多かったので、要点を先に書いてしまいます。
①印刷所を決める
②見積依頼を出す(活字か凸版か、使う文字、サイズ、字体、紙の種類、紙のサイズ、一色刷りか多色刷り、用途、納期はいつか、を書き、ラフ画でいいので、完成イメージの画像を添付する)
です。私の場合は、「活字活版、タイトルとペンネームで9字、明朝体、9pt、竹肌180kg、A4サイズ、基本色一色、同人誌の表紙なのでトンボ付きで他印刷所に持ち込みたい、納期は〇〇ごろ」となります。(実際には初めてなのでわけがわからず、こうは書けませんでしたが……)
③書体とフォントサイズについて
それどうやって選ぶの、どういう選択肢があるの、という話ですが、活字屋さんのHPに見本があることがあります。たとえば築地活字さんは、書体見本をPDFで公開されています。装飾活字(飾り罫とか)の見本もあります。かわいい。各書体の号数というのが独特の表記で、正直全然わからないのですが、「明朝で大体12pt」とか言えば印刷所さんが選んでくれるので、そこは無知でも全然大丈夫だと思います。プロを信じろ。
見積依頼を出すと、印刷所さんがいい感じにまとめてくれるので、あとはお任せします。
参考までに今回お願いしたまんまる〇さんの納期の目安を引用しておきます。
なぜ活版をやりたかったか
ここは特に注文の参考にはならないので、読み飛ばしても大丈夫です。
活版をやりたかった理由は二つ。
①原作の時代が戦前。
せっかくなのでその当時の本に似た雰囲気にしたかった。
②原作が完結が近く、完結記念本を可及的すみやかに出したかった。
そのころ「完結したら三日で本を出す」「新鮮な感想と悲鳴を原稿にぶつけ、三日で本を出して直近の同人イベントに出る」と決めていました。三日で本を出すことに特に意味はないけど、そういうサークルがいるとなんだか景気がいい気がします。そして完結記念に本を出すなら少し凝った装丁にしたい。しかし特殊加工は納期がのびるので「三日で本を出す」の理念にはそぐわない。完結前に、凝った装丁の表紙を先に刷っておいて、表紙持ち込みで印刷するのが納期的には一番早いだろうと思われました。
①と②が合体して、「そうだ活版の表紙をやろう」ということになりました。こういう事情で本の内容が決まる前に表紙を印刷したため、何を書くことになっても通用するように、タイトルとPNだけのシンプルデザインに。部数も内容もCPすら決まってないので読めず、何となく「表紙よくわかんないけど、150枚あればいいか…」と決めました。ちなみに「表紙を印刷所に持ち込む」で詳述しますが、表紙の枚数はなんとなくで決めない方がいいです。
結局ご時世がご時世なので通販オンリーで頒布したので納期もなにもなかったのですが、活版はかわいいのでオッケーです。
活版印刷所さんを決める
最初に書いた通り、活版印刷所さんのHPは詳しい料金表がありません(あるところもあるのかもしれませんが、ほぼ見つかりませんでした)。色々なところを覗きましたが、たまに名刺などの定形サイズの特定の枚数だけ金額が書いてあるぐらい。それでも親切な方で、「お問い合わせください、見積もりします」がほとんどです。紙や文字数、面積によってピンキリなので書けないということらしいです。聞けばいいんだけど敷居が高い。
今回は、一番敷居の低そうな東京のまんまる○ さんにお願いすることにしました。理由は、HPにコースターや名刺の料金表が載っていて、それがそんなにお高くなかったこと(100部 9,200 円)。Twitterで「電話が苦手」と仰ってたので、「私もインターネットの住人で電話めんどくさいからちょうどいいかも…」と思ったこと。(やりとりはぜんぶメールでした。今はコロナ禍でzoom打合せとかもされてるようです)
見積依頼~注文まで
しかし、まんまる○さんのHPにも、定形サイズ以外の料金表は書いてない。見積もりフォームがあったので、メールしてみました。
ここでメールに何を書くかの話です。一般(非同人)の印刷所や、デザイナーさんにメールをした経験がないので、何を書くべきかか分かりません。仕事でメールのやりとりをするひとは分かってくれると思いますが、メールをもらう側のとき、詳細が足りなさ過ぎて殺意を抱くことが頻繁にあります。「値段はいくらですか」だけのメールが届いて「ご連絡ありがとうございます! 恐れいりますがもう少し詳細を確認できれば…」と返信を打ってるときの殺意は結構強いです。全人類は私と同じぐらい心が狭いという想定で生きているので、せめて「殺すぞ」とは思われないようにしたい…ということを念頭に書きました。以下のメールを送りました。
<実際に送ったメール容ここから>
はじめてお問い合わせいたします。
HPを拝見いたしました、○○と申します。
同人誌の表紙に活字活版印刷でタイトルを入れたく、検索して、御社のHPにたどりつきました。
活版印刷がまったくの初めてのため、詳しくはご相談させていただければ幸いなのですが、以下に希望の仕様を書きます。
〇用紙のサイズ
本のサイズ…A6かA5
〇デザイン
活字活版印刷で、表1に5〜10文字程度の文字と、飾り罫を入れてほしいです。また、印刷所に持ち込んで製本してもらうため、四隅にトンボが必要です。
〇紙
白(または白に近い)くて、薄くも厚くもない紙がいいのですが、ご相談させてください。常備紙などがありましたらそこから選びたいと思っています。
〇納期
○○ぐらいを考えています。難しければご相談させてください。
</メールの内容ここまで>
ちょっと紙の要望がふんわりしすぎていますし字体や活字のサイズも触れてませんが、まあこれぐらい書いておけば殺意はセーフだと思います。多分。(※まんまる〇さんの名誉のために補足しますと、初心者にもとても親切です。気軽に相談しても優しくしてもらえます。殺意云々は自分の子猫の額ぐらい狭い心を基準にしています)
そのうち、
「紙のサイズは最大A4なので、A5の本は無理(B6以下ならOK)」「A4の常備紙はないけど、活版印刷に合うのはハーフエアコットンか竹はだ」「納期は仕様が決まってから二週間ぐらい」「印刷範囲で値段が変わるので印刷指示書がほしい」という主旨の返信が届きました。
※2022/6/8追記 A5まではなんとかなるそうです
幸い小説同人誌で本のサイズはわりと都合がつくので、ここで完成本をB6サイズにすることしました。そして「印刷指示書…?知らない言葉ですね…」と思いながら私が送った画像がこれです。
トンボは某同人印刷所さんのをお借りましたが、まんまる〇さんで普通にトンボ入れてくれました。これで許されたので、これから依頼する方も気楽に依頼するといいと思います。手書きで書いたものを写真で添付とかラフ画とかでも多分許されます。今改めて見返しましたが、いいかんじの罫線ってひどいな……。
「いい感じの罫線」というのはレトロな感じの飾り罫にしたいという意味だったので、見本を送っていただき、そこから選びました。
この間もいろいろと(私の不備と無知に由来する)メールのやりとりがあるのですが、とにかくずっと親切に対応していただきました。
さて、デザインと金額についての合意ができたので、決済をします。前払いで、銀行振り込みとカードが使えました。便利な世の中ですね。あとはワクワクしながら待ちます。
私は字書きで、表紙もわりと自分で用意する(絵は描けないので素材とかフォントでなんとかする)のですが、会場で段ボール箱を開けて完成品を見た時、「わあかわいい!大成功!」という時と「色味間違えたしセンスがないしもうだめだ」という時があります。印刷所から完成品を待ってる間、ワクワクとハラハラが交互に来て死にそうになります。ところが活字活版単色インクは絶対にかわいいことが保証されているので、ずっとワクワクしながら待っていられて、ハッピーでした。
そのころ最終回が近い原作では大変なことになっていましたが……。推しが死んだり……。腕が……。いろいろありました……。
完成品が届く
かわいい。優勝した。あと活字がもらえてうれしい。特に何に使うあてもないけど。
表紙を印刷所に持ち込む
持ち込みは初めてなので、表紙持ち込みをしてくれる印刷所さんを探します。B6だとかなりしぼられてきて、日光企画さん、大陽出版さん、ラック出版さん、ちょ古っ都製本工房さん(ここだけオンデマンド)を検討して、最終的にちょ古っ都製本工房さんにお願いしました。
ここで、表紙枚数はてきとうに決めてはいけないという話をします。
せっかくだしオフセットで印刷しようと思っていたのですが、ここで罠が。オフセットで表紙持ち込みの場合、「納品数+予備」の枚数が必要で、それが大体30~40枚ぐらいです。
オフセットの部数の単位って、50,100,150,200,300,400…って感じになってますよね。つまり本を100部作りたいなら表紙は130枚、150部作りたいなら180枚ぐらいいります(印刷所や部数によって違います)。
私が刷った表紙は150枚。150部刷るには足らず、100部刷るには20枚多い。もちろん150枚送って「これで100部お願いします」と言って、余部が多めに来ることを祈ってもいいのですが、「もったいないな…」と思ってしまいました。
オンデマンドであるちょ古っ都さんは、必要な予備は10部でした。また、オンデマンドなので、発注部数も10部きざみです。つまり150枚の表紙を持ち込んで140部の本を作ってください、と注文することができます。
なので今回は、ちょ古っ都さんにお願いすることになりました。出来上がりにはとても満足してるしお願いしてよかったのですが、「枚数はちゃんと考えた方がいいな…」と反省はしました。次回に生かしたいと思います。読んでくださってる方も気を付けて、と思って書き残します。こんなことするの私だけかもしれませんが……。
ちょ古っ都さんは発注フォームに「表紙は他社印刷を持ち込む」という選択肢があるので、それを選んで発注し、自宅で保管していた表紙を送りました。とても簡単で、特に確認事項もなく無言です……っと納品してくれました。ありがとうございます。ちなみにこの本は結局三日では書けず、一週間で書きました。
できあがった本の印刷部分がこれ。印刷部分がわずかに凹んでるのがお分かりいただけるでしょうか。触るともっとわかります。かわいい~~!!
優勝!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
自分の本がかわいいに越したことはありません。活版印刷、ハードルが高いイメージだったのですが、想像よりリーズナブルなお値段で、依頼も簡単でした。ほかの人の活版表紙も見たいので、やってほしい。あと帯が活版とか、本文1ページ目だけ活版(持ち込み口絵)、とかもやってみたいですね……いつか……。お金があるときに。
まんまる〇さんは、オンデマンドとかオフセットもできるそうなので、オンデマンドの上に活版とかもしてみたいです。箔押し感覚で。お金があるときに。お金があるときにね……。
活版はいいぞ、というレポートでした。あと推しは生き返りました。