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知ると面白い食薬学⑥|1月7日の七草粥に入る大根とカブはどういう作用?
こんにちは。きっかけ作家のもりちです。
お時間がありましたら、読んでいただけたら嬉しいです。
タイトルの食薬学は、普段食べている野菜や果物は、薬にもなるよという話です。昔は薬がなかったから、食べ物を食べて治していました。
数値で見る西洋医学とは異なり、東洋医学のほうが感覚的で本当?と疑いたくなるのに、しっくりくることもあります。面白くて不思議な東洋医学、食薬学の世界にようこそ。
七草粥の由来
1月7日はご節句の一つ、人日(じんじつ)の節句で、別名:七草の節句、七草粥を食べる日です。
奈良時代から平安時代に中国からきた行事の一つです。
古代の中国では、
1月1日 鶏の日
1月2日 戌(犬)の日
1月3日 猪or豚の日
1月4日 羊の日
1月5日 丑(牛)の日
1月6日 午(馬)の日
これらの日に動物を殺生しない日としていました。
1月7日は、人の日で、犯罪者の刑罰が行われず、邪気を払う日として、七種の草の汁ものを食べて、無病息災を祈る習慣が日本に渡り、平安時代前期の宇多天皇が、七種の草が入った粥を
神事でお供えしたことが始まりです。
江戸時代くらいには、庶民にも広まり、今に至ります。
七草粥に入る草は、春の七草でも知られています。
(観賞目的の秋の七草も生薬として使われているものが多いので、今年は特集したいです!)
ちょうどいいので、カブと大根の話をします。
その前に、七草も合わせて紹介しますが、この七草は地域によって異なるようなので、今回は一般的に知られているものにしました。
1.セリ 2.ナズナ 3.ゴギョウ 4.ハコベラ 5.ホトケノザ
6.スズナ(カブ) 7.スズシロ(大根)
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1.芹(セリ)
清熱
利尿
止血
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2.ナズナ
別名:ペンペン草・三味線草・
バチグサ複数あります。
生薬名:薺菜(せいさい)
利水
清熱
止血
目にいい
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3.ゴギョウ(オギョウ)
別名:ハハコグサ・ホオコグサ・
ブツジグサ・ソジ・チバナなど多数あります。
生薬名:鼠麹草(そきくそう)
咳止め
去痰
利尿
今は、草餅を作る際には
「よもぎ」が使われていますが、
平安時代に3月3日の儀礼食が中国から
日本に伝来した当時は、中国と同じくハハコグサが使われていました。
室町時代以降に「よもぎ」が使われるようになったようです。
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4.ハコベラ
別名:はこべ
生薬名:繁縷(はんろう)
清熱
利尿
民間療法にハコベラを乾燥して粉末にし、塩と混ぜた「ハコベ塩」は歯磨き粉の代わりに使われていました。
塩に殺菌の効果があり、ハコベラはあってもなくても、どっちでも良さそうな感じがします。
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5. ホトケノザ
別名:コオニタビラコ(小鬼田平子)
一般的に言われるホトケノザと、
春の七草のホトケノザは違います。
春の七草のホトケノザは、
キク科のコオニタビラコです。
生薬名は特になし。
清熱
胃の調子を整える
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6. スズナ=カブ
中国・台湾では「大頭菜」とも言い、
別名:コールラビも含まれます。
コールラビはカブの実の部分から葉がでている、見た目がエイリアンみたいな野菜で、ヨーロッパでも親しまれています。
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消化を促進する
湿熱を緩和する※
(※下腹部に熱く痛みがあるような状態)
カブは温めも冷やしもせず、帰経は心・脾・胃・肺です。
カブの根は、ビタミンCやカリウム、
酵素のアミラーゼが含まれますが、
ほとんどは水分です。葉のほうが栄養価は高く、βカロテン、ビタミンB・C・鉄分、カルシウムなどが含まれています。
カブは40~60日で育つので、三国時代に活躍した軍師、諸葛孔明は、戦の際に陣をはり、真っ先にカブの種を蒔いたことから、別名で、諸葛菜(しょかつさい)と呼ばれることもあります。
戦のさなかに、兵士の体調管理として、
消化にすごく気を遣っていたのかなというエピソードです。
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7.スズシロ(大根)
大根もカブと同じで、消化を促す消食類です。
消化を促進する
化痰(黄色い痰を除去)
瘀血(血の滞り)を解消する
ちょっと冷たい性質があり、帰経は胃・脾・肺です。
根は95%が水分で、葉のほうが栄養価は高く、βカロテン、ビタミンC、K、葉酸、カリウム、カルシウムなどが含まれています。
根には、でんぷんを分解する酵素アミラーゼ、
タンパク質を分解する酵素のプロテアーゼ、
脂質を分解する酵素リパーゼなどが含まれています。
焼き魚とか、天ぷらなどを食べるときに、大根のすりおろしが添えてあるので、大根が消化に役立つという知識があるのは、成分などが分からない昔からの食薬の習慣が残っているためだと思います。
咳が多かったり、喉が痛いときに、
大根のおろし汁を飲む習慣もそうですね。
空腹時に飲むと、ジアスターゼという酵素で、胃がチクチクするような痛みがでたり、その刺激で血圧が低下したり、ふらっとしたりする人もなかにはいるので、食べていないときのおろし汁は危険もあるようです。
大根の種子を萊菔子(らいふくし)と言います。
消化を促す
気を降ろす
化痰
日本で販売している漢方薬で、
萊菔子が入っているものはないですが、
中国では消化不良のときに「保和丸」
痰の多い咳で食欲不振があるときに「三子養親湯」という方剤に萊菔子(らいふくし)が入っています。
カイワレ大根は、大根やカブの新芽(スプラウト)で、1970年頃まではお寿司や料亭で使われる彩野菜、高級食材でした。
本格的に生産されるようなったのは1980年代後半です。
干し大根はあるけれど、干しカブは聞いたことないなと思い、調べてみたら、個人的に作っていらっしゃる方は多かったですが、製品としてはなかったです。
干すと、ビタミンCや酵素は少なくなりますが、反対にビタミンD、B、カリウム、カルシウム、鉄分などが多くなります。
七草を準備するには…
七草のパックがスーパーで売られていますが、普通に購入できるのは、大根とカブ、(芹)の2~3種類です。
それ以外の草はビニールハウスなどで栽培されており、自然に育ったものではありません。
新春の自然の芽吹きを食べることで、
邪気を払い、無病息災を願う日ですが、
旧正月は1月の末で、そこから7日くらい経つと、2月上旬ころ、それくらいにならないと、本当の自然ではみつけられないです。
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作るときのお囃子
七草粥を作る際に草を刻むまたは叩く?ときに歌うお囃子(はやし)があって、
「七草の囃子詞」「七草囃子」「七草たたき」と呼ばれています。
まな板を用意し包丁の背で、7回まな板をたたくのが始まりです。
切り方が、1種7回お囃子を歌う、
7種類なので、全部で49回歌いながら刻みます。
気が遠くなるし、想いが強すぎる気がします。
YouTubeでその様子が見られますが、
お囃子のバリエーションは沢山あります。
一部紹介します。
「七草なずな、手につみいれて、こうしとちょう」
「七草なずな、唐土の鶏が、日本の土地に、渡らぬ先に、ストトントン」
「唐土の鳥と、日本の鳥と、渡らぬ先に、何々たたく、トントント」
この唐土の鳥は、大陸=中国から渡った鳥が疫病をもってきて、
田んぼで悪さをしないでほしいという意味が込められています。
最後に…
話しはちょっと変わります。ほぼ独学に近いカタチでしたが、私は薬膳学校の通信課程で学びました。
そのなかで薬膳料理のレシピ19品を提出する課題がありました。
お題の一つで「冷え性」に対し、
病気の見立て(証しょう)を「脾陽虚証」とし、治し方(立法りっぽう)を「温中補脾」とし、鶏肉とカブの煮物を作り、写真と作り方・レシピを提出しました。
証とか立法とか、四字熟語のよく分からない言葉の羅列に???
今でも証、立法を含む弁証論治はできないです。
笑ってしまうレシピですが、当時は必死でした。
添削を終えて返却されたレシピに、
カブに「×と補気類と相悪の関係です」
と赤ペンが入り、再提出でした。
レシピのなかには5回再提出したものもありました。
教科書に大根と鶏の組み合わせが
ダメな理由は記載されていましたが、
「カブも駄目なの?」くらい理解してはいませんでした。
薬膳料理、薬膳茶、漢方薬などの配合は作用が無効になる相悪(そうお)と呼ばれる組み合わせは避けないとダメです。
イメージはエネルギーUPの補気は矢印上で、消食類の大根とカブは気を下すので矢印下です。
「七草粥は薬膳だ!」と言われる方がいらっしゃるのですが、米はエネルギーUPの補気なので、
「相悪じゃない?」とその組み合わせに、異議を唱えても、正確なところは分かりません。
個人的には季節行事の食習慣を楽しむことに、薬膳を求めなくてもいいように思います。
話が変わるシリーズでもう一つだけ。
春の七草のうち、
セリ
ナズナ
スズナ(カブ)
スズシロ(大根)
この4種だけ、家紋があります。
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これは私の考察ですが、ひと昔前の日本では、草や野菜などの植物などが家や人の象徴であり、草の存在が身近で、効能をある程度、理解しており、
薬膳なんていう言葉すらない時代においても、不調は食べ物を食べて、自分で治したのではないかと思います。
今は薬があるのが当たり前になりましたが、
その薬が身体に合わなかったら?
治らなかったら?
昔の人が出来たことは、今もやろうと思えばできると個人的には思うのです。