バーチャル食べ物、頭で食べるか、指で食べるか【VRインタラクションを見てみよう:食べ物の食べ方編】
この記事をはじめとする「VRインタラクションをつくろう・見てみよう」シリーズは、私がVRコンテンツを触る・作るうえで特にこだわっている「インタラクション」の部分を自ら解説・明文化することで、私が発信したい「VRインタラクション」というテーマを明確に示すこと、ひいては後進のVRコンテンツ開発者の一助になることを目的としている。
なお、ここでいう「VRインタラクション」とは、「市販のVRデバイスに付属するコントローラーなどを使ったVRコンテンツ特有の操作方法・演出・表現」という意味合いである。
今回は、VRChatをはじめとするVRSNSや、その他VRゲームでもよく見られる「食べ物」のインタラクションに焦点を当てて解説・分析してみようと思う。
イントロ
昨今のVRコンテンツにおいて、「食べ物を食べる」という表現は比較的メジャーな部類であると思われる。VRChatをはじめとする各種VRSNSはもちろん、戦闘を扱うようなVRアクションゲームでも回復や強化の手段としてたびたび見かけることもある。
特にVRChat向けアセット「ヨドコロちゃんのポテトチップス」が「バーチャルマーケット2023Summer」の湖池屋ブースで採用されたことは、記憶に新しいVRChatterも多いのではないだろうか。
ところで、VRコンテンツにおける食べ物の食べ方には、採用されやすいものだと大きく2種類に分類できる。一つは実際の摂食行動に近い動きを行う必要があるタイプ、もう一つは何らかの操作(ボタン・トリガーなど)を入力する必要があるタイプだ。
この記事内では便宜上、どこで判定を取るかに基づいて、前者を「頭で食べる」タイプ、後者を「指で食べる」タイプと呼ぶことにして、2種類のタイプの特徴や違いについて解説・分析をしてみようと思う。
本題に入る前に、改めてこの記事で取り扱う概念の定義づけをしておこう。
「頭で食べる」
食べ物を口に近づけるなど、実際の摂食行動に近い動きを行うと「食べ物を食べた」ことになる。
「指で食べる」
食べ物を掴んでいる状態で、何らかの操作(ボタン・トリガーなど)を入力すると「食べ物を食べた」ことになる。
結局、どっちがいいの?
先に結論を述べてしまうと、どちらかが優れているとは一概には言えない。しかし、どちらでもよいというわけでもなく、それぞれが効果的に使えるシチュエーションが存在する、と私は結論付けた。
ここからは既存VRコンテンツの例を交えながら、どちらを・どのような状況で使えば効果的なのかを分析してみる。
「頭で食べる」タイプ
事例1:ルインズメイガス
VRアクションRPG、ルインズメイガスでは回復アイテム「ポーション」を使用する際に、実際に飲み物を飲むような動作を行う必要がある。このように、戦闘を扱うゲームにおいて食べ物を食べる行為はもっぱら回復など、戦闘で有利になる効能を得られることが大半であろう。
「頭で食べる」タイプの最大の特徴は、やはり「現実感(リアリティ)」を表現したいときに効果的に使えるという点だ。また、食べ物を食べる表現に重要な意味づけをしたい場合にも、実際の摂食行動に近い動きをとらせることで、単純なトリガー操作よりも印象深い体験を提供できるだろう。
ところで、ルインズメイガスのような戦闘を扱うアクションゲームでは、「頭で食べる」動作は戦闘行為を中止し、食べる動作に意識を向ける必要があるため、敵に隙を見せる行為とみなせる。
つまり、「頭で食べる」タイプの回復・強化手段は、「隙を見せてしまう」という「リスク」、「回復・効能が得られる」という「リターン」の関係につながり、「ゲーム性」を演出しやすい(下図参照)。また、「指で食べる」タイプより複雑な操作を強いられるため、リスクの大きさを感じさせやすい利点がある。
以上の理由から、「頭で食べる」タイプの食べ物は、戦闘を扱うようなアクションゲームにおいて、回復などの手段と結びつけることで効果的に使用できるだろう。
「指で食べる」タイプ
事例2:メタバースヨコスカ(VRChat)
横須賀を再現したVRChatワールド、「メタバースヨコスカ」には、横須賀グルメの「ヨコスカネイビーバーガー」を実際に調理、食事できるギミックが実装されている。完成したハンバーガーはトリガー操作で食べ進めることができ、大きなバーガーをわずか3口でペロリと平らげてしまう豪快さを楽しめるのも面白いポイントだ。
トリガー操作のような「指で食べる」タイプは、「頭で食べる」タイプと比較すると必要な動作が少なく、任意のタイミングで食べられることがメリットである。そのため、作品の体験をなるべくストレスフリーにしたい場合や、食べる行為にあまり手間をかけさせたくない状況において、その効果を発揮できるだろう。
以上の点を踏まえると、「メタバースヨコスカ」の事例は非常に合理的であるといえる。「指で食べる」タイプの食べ物は、「手軽に楽しめる」かつ「映える」ことが重要視される、VRSNSで効果的に使用できるだろう。
まとめ
以上、2種類の方法について、どのようなシチュエーションで効果的に使えるか、という視点で分析を行った。
注意してほしいのは、今回述べたシチュエーションはあくまで一例であり、本質的には、作品のコンセプトに応じてどちらの方法が効果的かを分析し、採用することが重要だと言える。私も今回の分析を通して、制作者として漫然と手法を選ぶのではなく、明確な根拠に基づいた手法の採用を心掛けたいと感じた。
いずれの方法を使うにせよ、VRコンテンツにおける「食べ物」はそのコンテンツを彩る1要素として積極的に活用したい表現である。
最後に、ここまでに分析した両者の特徴をまとめる。
「頭で食べる」タイプ
実際の摂食行動に近い動きによる「現実感」が表現できる。
特に戦闘を扱うゲームと相性が良く、回復手段と結びつけることで「ゲーム性」を演出でき、複雑な操作によりリスクの大きさを感じさせやすい。
「指で食べる」タイプ
必要な動作が少なく、手軽に実行できるのがメリット。
ストレスフリーにしたい・あまり手間をかけさせたくないシチュエーションで効果的に使える。
参考にした既存作品
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