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#5 竹迫順平|笑いは人生のスパイス

今回のゲストは極楽カリーの店主、竹迫順平さんです。極楽カリーは鎌倉にある人気のカレー屋さんで、竹迫さんは三日三晩仕込んだカレーの提供から、お店の経営、掃除までの全てを一人でやっています。

お店に入ると、スパイスの香りは勿論。そして周りに彼が描いた掛け軸があったり、読んた本が置かれていたり、ずっと通い続けても飽きない刺激が沢山あります。

今回のエピソードは、竹迫さんの美味しいカレーを頂いた後、彼がカレーを作り始めるきっかけや、横浜のお店のオーナーから「強制的に独立させられた」経緯、そしてお店のインスタで下らない話しかアップしない理由など、ジョーク全開でじっくり話してくれました。皆さんも是非お楽しみください。

撮影:Hirano Kimoto

竹迫さんとの対話の抜粋

— ご馳走様でした。今日は今年の初営業日で、すぐ完売しましたね。

お陰様で忙しかったですね。

— 今日のために、一昨日から仕込み始めましたか?

そうですね、二日間をかけて、昨日も夜10時ぐらいまでずっと煮込みました。大きな鍋で80人分を作って、一日目は30人分、その次の日も30人分、残りの20人分はECサイトで売る感じ。

— 量が少なくて貴重ですね。

だって一人でやってるから、鍋の大きさも決まってるし、それ以上大きくすると重くて持てない。腰弱くて、腰痛持ってるからさ(笑)。

— スタッフを増やせば?

僕は元々オーダーがすごく嫌いですよ。指示する、されるのも好きじゃない。好きにしたらいいと思うから、組織の人としては向いてないよね。お店がちっちゃいし、二人になると邪魔(笑)。

「これだけで精いっぱいから、他のカレーを作るキャパシティがない。」

— カレー屋さんになるきっかけは?

6年間ぐらい、エスニックファッションを輸入する会社で、中南米のアクセサリとかランプとかハンディクラフトのバイヤーをしてました。奥さんも同じ会社で。そして2011年の東日本大震災の時、もし会社が倒産したり、何か大きなダメージがあったら、サラリーマンの二人ともクビになったり仕事を失ったらマズイと思ったんですよ。

「手に職を付ける」という言葉があるじゃないですか、やっぱりそういう時に自分で何か作れた方がいいと思った時、偶々奥さんとよく通っていた横浜のカレー屋さんがお手伝いしてくれる人を探していたので、僕が手伝いますって言って、それがきっかけです。

最初はサラリーマンしながらお手伝いしてて、でも中途半端でお店に行ったり会社行ったり、カレーの作り方が全然分からなかった。ずっとお店にいないと分かんないから、会社を辞めるしかないなと思った。師匠からやめるなって言われたけど、カレーのことを覚えたくて辞めちゃった。お金は全然なかったけど、奥さんがまだその会社に勤めてたから、何とか生活はできた(笑)。

そこで一年半ぐらい見習って 、今度は「カレーを作れるか作れないか関係なく、お前は自分でお店を持たないと見えてこないステップがあるから、もう自分でやりなさい、明日から来るな」って言われた。もう、強制独立ですよね。次の日からお店探しを始めました。勿論最初は納得いかなかったけど、「やれ」って言われたから、素直にやりました(笑)。

「カレーはスパイス入れなくてもシチューみたいにはできるけど、スパイス入れると凄い魔法みたいに味、香りとかチェンジする。それと一緒で、笑いも人生の中にちょっと入ると、普通の人生に魔法がかかって、よくなると思う。」

— 「やれ」って言われたら、「やろう」と思えるのは凄いですね。実際にオーナーとしてやってみたら、やっぱり見方が変わりましたか?

勿論ですよ!お金の事にしても、色んな契約にしても、責任を取ってくれる人がいないから。何かトラブルがあっても自分で対応しなきゃいけないし、カレーの味のクオリティコントロールにしても言い訳ができないんですよ。いいことも悪いことも全部自分で受け止めるというのは、自分でお店を持ってみて初めて感じだことだ。

2014年に、最初由比ヶ浜の方でお店を始めて、もう凄く大変でした。二年ぐらいずっと赤字で、いつ辞めようかと思ってました。メニュー一個しかないから、最初のお客さんはびっくりするんですよ。「他のメニューないの?」とか「ベジタリアンのカレーを作ってよ」とか、「お酒をいっぱい置いてよ」とか、でも本当に僕はこれしかできないから、全部断った。

— 何でメニューが一個しかないのですか?

「これ以外作っちゃダメ」って言われてたから。簡単に言うと、一人でやるんだったら、これプラス他のカレーを作るキャパシティがない。これだけで精いっぱいですから、エネルギーを他に注ぐことが僕はまだできない。

— 同じメニューをやり続けて、飽きると言うか、変えてみたいな気持ちがありますか?

ないです。同じことをやってると思ってるうちは、まだまだなのかもしれない。一日一日違うでしょう?昨日の自分と今日の自分は違うし、舌のセンサーも違うから、毎回、毎日、毎秒違う。今僕は、もう10年ぐらい作ってるけど、型ができているから、その型をどう動かすかだけで、頭はあんまり働かせてはいないです。体が覚えてるから、ただやってるだけ。考えながらやってたりしたら、多分「同じことしてるな」って思うかもしれないけれども、そんな思う余裕ない。一人でやってるから(笑)。

あとは、味噌汁って毎回味ちょっと違うでしょう?味噌を適当に目分量で入れてから、たまに味が薄いとか、塩っぱいとか、同じ味噌汁だけど毎回違う。カレーも同じ。味噌汁のように測らないから、同じレシピだけど毎回ちょっと味が違う。昨日作ったカレーと同じような塩っぱさとか辛さにしようと思って作ってないです。

だから、同じ味にしようってまず思わない。そういう意味でも飽きないからね。

— これは興味深いですね。お客さんから見ると、「極楽カリーの味」が固定してるかもしれないけど、竹迫さんは同じ味にしようと思ってないですね。

厳密に言うと、出来上がってからの味調整はしない。今日はちょっと味が薄いから塩胡椒を足すとかはしない。全部一回入れて終わり。失敗したことがないから、それは自信を持って言えます。だけどやっぱり、最初の3年間は少し不安で、思ったような味にできてるかなって、途中でコントロールしないから、できてみないと分かんない。

— 竹迫さんの本、【極楽語】の表紙で、「笑い人生のスパイス」という言葉が書いてますが、どういう意味ですか?

人生って、喜怒哀楽はデフォルトであるじゃないですか。だけど笑うっていうのは、一人だとできなくないですか。カレーも多分スパイス入れなくてもシチューみたいにはできるんだけれども、スパイス入れると凄い魔法みたいに味とか香りとかチェンジする。それと一緒で、笑いも人生の中にちょっと入ると、普通の人生に魔法がかかって、結構チェンジする、よくなると思う。

— このお店を通して、どのような場を提供したいですか?

ネガティブなお話をしながらご飯を食べてる人がいない場所?楽しいことを話してたり、リラックスしてハッピーに食べてもらえてたら、それだけで十分。嫌なことを話しながら食べてるご飯はおいしくないから。

— それこそ、「極楽」の場所ですね。

その通りだ。

以上は竹迫さんとの対話のほんの一部です。アンデスミュージックへの興味から、インスタへの日々のくだらない投稿、寄生虫が私たちの心と体を支配していることまで、爆笑し続けた会話があちこちで繰り広げられますので、ぜひポッドキャストへ!


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