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《改稿版》はるきたりなば きみ とおからじ Episode 01-04

佐久間イヌネコ病院・伊達組


「水飲みてぇんだけど」
風呂場が暑かったのか、アッシュは上半身ハダカのまま居間に戻ってきた。無防備に晒された褐色の滑らかな肌に、三人の視線は釘付けに。至高の芸術品大好き雲母は何かキメたように恍惚とした表情を浮かべ、デレ顔で固まったまま動かない伊達は鼻の下が伸びている(ように見える)。そのしなやかで筋肉質な身体を彩るのは、左肩から肘にかけての繊細なブラック&グレーのイーグルタトゥー。そしてあちこちに刻まれた複数の傷痕。物々しく見えるそれすら、彼の強靭な生命力溢れる美しさを引き立てる飾にすぎない。それを目にして、ようやく設楽は我に返った。
「なに?」
「そこの、痛かったろ。傷痕」
「これか?ガキの頃に森で遊んでて木から落ちたんだ」
アッシュは平然と嘘を付き、着ずに持っていたジップアップジャケットに袖を通す。
「アッシュ見るからにやらかしそうだもんな」
「まぁな、アンタらもそうだろ?」
設楽がアッシュの分の冷たい緑茶と焼きリンゴを運んでくると、その場の空気が更に和んだように感じられた。おかわりも出来るからねえ、と言いながら伊達はさっきの「布」の入った紙袋をこっそりと棚に仕舞い込む。
「あとでエディにお披露目したろっと」
「なぁ、アイスねぇの?」
アッシュは、よく冷えた緑茶で喉を潤してから焼きリンゴを見て言った。
「大丈夫、大抵のフレーバーは揃っていますよ?」
「そんじゃバニラ、これに乗っけてくれ」
「御意。バニラで?じゃあトリプルくらい盛っとくよ」
「Thanks 気前いいな」
「It’s my pleasure」
伊達と雲母は、アッシュのついでに設楽に盛ってもらったアイスを堪能。焼きリンゴにアイス、これは素晴らしい組み合わせ、と…雲母が真面目な顔でなにやらメモアプリに入力している。するとクールな紺色の作務衣姿のエディもようやく風呂から戻ってきた。
「いい湯だった!銭湯とは違う良さがあるな」
「エディ!こっちの銭湯行ったん?」
「おう!ひとっ風呂浴びた後に街を散策してたんだ。アッシュは入れなかったけどな」
「エディさんほんと作務衣似合ってますね」
「持ってきたのかよ?」
「ハルが是非に、と貸してくれたんだ。俺にはちょっと丈が短いけどな」
「んじゃ俺らも入ってこよっか!二次会二次会」
「すぐに戻りますからごゆっくり。冷蔵庫のものもお酒も、ご自由にどうぞ」
三人が仲良く風呂に向かうのを見届けたエディは、おもむろにコタツから立ち上がる。
「そろそろ俺も準備しねぇとな」
「何の準備だよ」
「日本の宴会には余興が必須だからな」
「またくだらねぇこと考えてんじゃねぇだろうな」
「アイツらが風呂から戻ってきたら教えてくれ」
エディは明らかに何かを企んでいる顔で、静かに客間の襖を閉めた。

三十分後、風呂から飛び出してきた伊達を追いかけながら設楽がやってきた。きゃっきゃっと居間の中を逃げ回る伊達はすばしっこく、湯冷めしないようルームウェアを着せたい設楽はなかなか捕まえられずに苦戦している。しばらくして居間にやってきた風呂上りで艶っぽい雲母は声を掛けようともせず、にこやかに彼らを視線で追っている。
「おい、サムライ。トノが風呂から出てきたぜ」
コタツテーブルに肘を付いているアッシュは、元気に部屋を走り回る伊達を眺めながら言った。
次の瞬間、客間と居間を仕切る襖が音を立て左右に開かれた。そこに立っていたのは真っ赤なフンドシを粋に締め、胸の前で腕を組み仁王立ちのエディ。アッシュが呆れた様子で溜息を零したその時、エディと同じくフンドシ一丁で部屋を走り回っていた伊達が、思わず立ち止まり歓喜の悲鳴を上げた。
「ウアアアアアアア!エディかっけえええええ!」
「俺らフンドシブラザーズ!」
アッシュ同様筋肉質な身体をしているエディは、笑顔で走り寄ってきた伊達と並んで両腕をあげて上腕二頭筋を盛り上げる。続けて腕を腰の前に押し当てポーズを決める。次々と野生的で筋肉が美しく見えるボーズを披露していく。その度に雲母が二人に賛辞を送りながら喧しくカメラのシャッターを切りまくる。まるでモデルとカメラマンのような三人の構図を一瞥。笑いを堪えつつ設楽は二次会の支度をしに台所へと向かう。
少し軽めな、それでも肉中心のチョイス。ジビエのサンドウィッチ、ビーフガーリックピラフ、フライドポテト。定番ビール数種類とあっさりしたライトボディの赤ワイン。コタツテーブルにセッティングが整っても、まだ筋肉ポーズ大会は続いていた。設楽はフンドシ一丁でエディとポーズ合戦を繰り広げる伊達が風邪を引きやしないかと心配しつつも、楽しんでいる伊達を諌めずに見守る。
「サムライ。そろそろやめねぇと、トノが風邪引くぜ」
「おぉ、そうだな。城主に風邪を引かせたら切腹もんだ」
「シダラ、アンタの出番だ」
「助かったよアッシュ、あれじゃ朝までやってそうだったからな」
設楽が用意していたのは、肌触りが滑らかなモコモコ素材を使用した上下が可愛らしく、お洒落な者に人気があるルームウェアだ。無論三人はお揃い色違いで所持している。フンドシカッコよかっただろ設楽!はいカッコよかったですから早く着て下さいコラ。上機嫌の伊達に白のモコモコを着せてやる設楽。伊達さんとってもキュートですよ♡早速雲母に触りまくられ伊達は更に上機嫌。ラベンダー色のモコモコの雲母、白モコモコ伊達、そして紺色作務衣姿のエディは三人でピラフをシェアしながら、日本の伝統であるフンドシについて熱いディスカッションを交わしている。インイングリッシュ。
ようやく一息付けた設楽に、アッシュがプルトップを開けてやり缶ビールを手渡す。
「まぁ呑めよ。っつっても、トノんちの酒だけどな」
「ああ助かった、って何回目だろうな。ありがとう」
「なぁ、ガレージにあったゴツい車はアンタのか?」
設楽の愛車はアメリカ製の大型SUV車だ。
「そうだ。でも良く分かったな?」
「アンタら三人の中で乗りこなせそうなのは、アンタくらいしかいねぇからな」
「ははっ。確かにあの二人だと線が細過ぎだ」
「カネ持ちだな、アンタ」
「そうでもない。あれは兄貴が持て余してたやつを貰ったんだ」
「あの車は維持費がバカにならねぇからな」
「確かに。オレは気にならないが、車も動物も手をかけてやると喜ぶ気がするんだよ」
その後は追加オーダーでたこ焼きに世界各国の度数の高い酒が登場し、盛大にチャンポンしてしまった伊達は、白ふわもこで全身を包み、雲母に凭れ掛かりながらそれでもグラスを離さないでいた。
「なぁ、あの白いモコモコそろそろ限界なんじゃねぇの?」
「シダラ、トノを寝かせてやってくれ」
「俺もっと呑むう~」
「あのさ、お前らって川の字ってやつで寝るのか?」
「まあ、時と場合によりますが…一緒の時は川の字が基本形ですね」
「客間にお布団をご用意しました、ちょっとお待ちください、後片付けを…」
「御三方、後片付けは俺とアッシュに任せな!」
「ンフ。そうですねエディさんのお心遣い、今夜は有り難く受けさせて頂きます♡」
伊達を軽々と抱き上げた設楽は器用に足で襖を開けると、さながらお姫様抱っこで廊下へ出た。もっと呑むう~、尾を引きながら遠ざかる伊達の駄々。あれですごくご機嫌なんですよ伊達さんは。二人に微笑み掛けながら、それじゃおやすみなさい、雲母は設楽の後に続き廊下に出ると、そっと居間の襖を閉めた。








2023/06/06 改稿
※「Memento mori side」の台詞Heidi執筆


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