“妥協はしないけれど、背伸びもしない” KIKIMEのブランドDNAを大解剖(後篇)
Vol.11|キキメノハナシ
プロダクトデザイナー福定 良佑×KIKIMEブランドプロデューサー立山 善規 対談
さまざまな分野で活躍するスペシャリストたちが、その人ならではの目線でKIKIMEを紐解くキキメノハナシ。今回は、2020年6月に産声をあげたKIKIMEの立ち上げ期を大きく動かし、またブランドのDNAを築いてきた二人にフューチャー。
ブランドの目指す在り方が明確になって、次は具体的なデザインと機能をプロダクトに落とし込んでいく段階へ。その頃に福定さんへ相談をされたと伺いました。
(立山さん)「はい。品揃え、サイズ感、カタチのイメージは頭の中にあったけど、具体的なデザインをどうしようと考えている中で、難しい商品開発になると思っていたので、3D表現による検証やモデルを作る必要がありました。ですが当時はアロットオブの社内に、それができるプロダクトデザイナーが居ませんでした。
外部のプロダクトデザイナーを模索していたのですが、海外進出も視野に入れていたこともあり、海外の感覚を持ち、実際に海外のクライアントとビジネスしている人…と頭の中の記憶を辿ったとき、8年ほど前にご縁あって繋がった福定さんがぱっと浮かびました。すぐさま社内で福定さんの話を持ちかけ、賛同が得られたので、福定さんの住んでいる京都へ会いに行って。」
(福定さん)「とりあえずごはんを食べましょうと、お寿司屋さんに行きましたね。」
(立山さん)「そうそう。そのあと隠れ家的なバーにも連れていってもらって。すごくお洒落なところだったなぁ。そんなこんなでデザイン話も盛り上がり、結果的に口説き・口説かれとなりました(笑)」
(福定さん)「・・・・(笑)」
(立山さん)「というのはちょっと冗談だけど、福定さんとは同い年ってこともあったし、共通点がいくつかあって、やっぱりこう感覚的な部分が合うなと感じて。翌日、改めてお願いするつもりで福定さんの事務所へ、お邪魔して、僕の頭の中をその場で紙に書いて相談したんです。」
(福定さん)「その時のメモがこれです。」
(一同、貴重な当時の資料を前に、おお!と声をあげて前のめりに・・・)
(福定さん)「もうこのあたりとか見てもらうと、すでに立山さんの中で具体的に考えていることがいろいろあって、すぐにイメージが湧きました。だからすぐに、やりましょう!と。せっかくこういう話をしてくれたので、KIKIMEのコンセプトをうまくアウトプットしてカタチにしていくサポートをするのが僕の役目だなと思いました。」
(立山さん)「うんうん。それですぐにKIKIMEプロジェクトが動き始めた。僕の頭の中身を理解した福定さんから提案が最初にきたら、もうびっくり。とんかつ屋さんとか定食のイメージが強かった網皿もすごいモダンになってて。その福定さんのエッセンスによって、どんどんデザインが研ぎ澄まされていったんだよね。お皿と網が自然に対になっていて、しかもお皿単体でも遜色なく使えるものだったら、お皿とバットの延長線ではなくて、普通にお皿として売れるだろうし、それって唯一無二だよねということで。」
(福定さん)「そう、だから細かい形状だったり色合いもそうだけど、多分一番良かったのは、網の脚を取ってフラットな形状を求めていったこと。」
(立山さん)「(メモを見ながら)この時から、本当だね、“サクサク保つフライヤーディッシュ”って書いてる。今のプレートSのサイズ感とかバリエーションは最初からイメージしてたけど、プレートの厚みなんかは、社内メンバーからの意見やアイデアも多数飛び交って、福定さんとやりとりを重ねてやっと今のかたちになった。」
(福定さん)「3Dの模型をつくって、テーブルに広げてシミュレーションしたんですよね。amimeやkoudaiのラインナップも食卓に並べたイメージをつくって、それをもとに膨らませていきました。」
(立山さん)「これが当初のamimeの断面図だね。すごい赤線が入ってる(笑)」
(福定さん)「『これじゃ分厚すぎる。』というので、立山さんが書き込んだものです。そんなに削るの・・・?と思いました(笑)でもやっぱり日々使ううつわとしては軽くて使い勝手の良いものを目指した結果ですよね。」
― このイメージの中には、他にもKIKIMEではまだ見たことのないうつわもありますね。
(福定さん)「(木目のイメージを指差して)そう、陶器だけじゃなくて、こういう木を使ったうつわもいいねと話していました。ただこれは、なかなかイメージに合うカラーリングが実現できそうになく・・・。コスト面もなかなかなものになってしまうんですよね。でも試作はいろいろ作って、やっぱりやりたいなぁと・・・(笑)」
(立山さん)「ほら、木のamimeも。(イメージ資料を指して)こういう分厚い木のうつわみたいなのもいいよね。この大きさで陶器だとちょっと重すぎるけど、木なら軽くなるし、質感も心地良い。あとこういう食卓の真ん中にどんと置くようなシンボル的なうつわが木素材なのっていいよねって。でも木素材は本当に難しい。品質を求めていくと、価格も比例して上がっていくし、いいものができたとしても商品としては成り立たないパターンが多いんです。」
(立山さん)「当時は結局あれこれデザインをしていただいたにも関わらず、商品化・生産段階のことなど考えると断念せざるを得ないデザインも多くて。それから社内で1から考え直し、社内メンバーからの素材提案で、ペーパーウッドという色のついた紙を挟み込んだ木素材に辿りつき、それを脚に使ったozenシリーズだったり、ヒノキと磁器が組み合わせたhanaukeもアロットオブにジョインしたプロダクトデザイナーによって生まれました。」
(福定さん)「(最初の立山さんのメモをみながら)キーワードに“セクシー”って書いてますね、立山さん。」
(立山さん)「あー・・・!なんで書いたんだろう・・・。ただモダンでかっこいいデザインではなく、“色気”が欲しいってことで、セクシーと書いたんだと思います(笑)メモに書いてある、『はちみつポット』や『竹ざる』とかもデザインしてもらいましたね。」
(福定さん)「発泡スチロールで作った1分の1のモデルをテーブルに並べたところから、一気にイメージが広がっていきましたよね。」
(立山さん)「そうそう。いろいろなシリーズが集合したときの、高さのリズムみたいなのも3Dだから直に感じることができて。」
― 今、販売しているKIKIMEのアイテムは、シリーズを横断しても使い勝手が良く、どこかまとまりが出るなと感じます。“食卓のリズム”を生み出している要素のひとつが、うつわの高さの妙だと思うのですが、それに代表するkoudaiシリーズも昔ながらの高台とは一線を画していますね。
(立山さん)「高台って昔からあるんだけど、あまりメジャーなアイテムではなかったし、現代でも骨董品だったり、絵付けのものとか、和っぽいものというイメージがありました。KIKIMEとして、ニッチな商品提案をしていくときに当時目指したのは、一家にひとつも持って“いない”もの。必要な食器(必需品)はすでにたくさん持っていると思うので、食卓を飾れたり、視覚的に楽しめたり、心が潤う“必潤品”を目指しました。みんなが持っていない食器(=ニッチなもの)が食卓の“効き目”になるのでは、と。」
(福定さん)「koudaiはこの脚を真っ直ぐに、というのはこだわりました。お膳やコンパクトな食卓の日本の文化においては、高台という形状のうつわ自体に、空間を活用するという機能がありますが、古来の末広がりの形状よりも、真っ直ぐでソリッドな印象にすることで現代のモダンな食卓で活きるカタチにしました。」
(立山さん)「このレリーフも、はじめは側面から見た時に美しくみえるよう外側にデザインされていたんだよね。でも、3Dの模型をテーブルに並べたときに、食卓で実際食べるときって上からうつわをみるから、食べる本人は折角のデザインを愉しむことができない!ということに気がついて。」
(福定さん)「そうでしたね。ボウルは形状と他サイズとのバランスをみて、脚にレリーフを施してますが、プレートSとLはアロットオブさんの気づきによって、内側の立ち上がりにレリーフ位置を変更したんです。リムプレートのようなイメージですね。」
― 立山さんの得意とされているマーケティングの部分と、それをデザインに昇華する福定さんのタッグあってのKIKIMEですね。立山さんの構想に対して、福定さんのエッセンスを加えていくときに、特に意識したことはなんでしょうか?
(福定さん)「さっき言っていた“キーワード”はもちろんなんですが…。やっぱり形の取り方とかはモダンにしていきたいっていうのがあって。“等身大の暮らし”“妥協はしないけど背伸びはしない”っていうKIKIMEのコンセプトにすごく共感できたし、自分のライフスタイルもそうだなと思ったので。そこを僕なりに表現しつつ、“自分が使いたくなるもの”とう視点で考えました。」
(立山さん)「amimeもkoudaiも買ってくださって。使い勝手はどうですか?」
(福定さん)「なんていうんでしょうか。やっぱり実際に使ってみて改めて感じたのは、食卓のグレードが上がるということ。普段使っている普通のプレート皿よりも、これを置くことで確実に充実感が増します。あとkoudaiなんかは、食卓以外のシーンでも使っているんですが、これをひとつ置いておくだけでスタイリングが完成して。」
(立山さん)「購入してくださったお客さんの中でも、アクセサリー置きにしたり、玄関先で鍵や貴重品を置いておくのに使っていたり、インテリアシーンで使っていただくことも多いのがkoudaiです。」
(福定さん)「そうやってテーブルウェアの域を越えたインテリアアイテムとしての使えるのって、やっぱりプロダクトデザインの考え方だなと思います。」
(立山さん)「あとは結果的に、贈り物としてもKIKIMEを選んでもらえているのは、贈る相手もこれは持っていないだろう、という明らかに他と被っていないものとわかるから。デザインが未知なものということではなくて、福定さんのエッセンスによって、なんかこうシンプルなんだけどモダンで。和と洋のバランスも本当にいい塩梅をここ!というところに差し込んでくれているなと思います。」
― “ええ塩梅の和洋折衷”が表現できるのは、イタリアでお仕事をされていた影響が大きいのでしょうか?
(福定さん)「そうですね。イタリアだけでなくいろんな国のデザインも見たし、それぞれ違っていて、それまで見ていた日本のデザインもヨーロッパのデザインを見てからとでは、また見え方も変わってくるというのを実感しました。外からみるその国のデザインというか。でもやっぱり日本のデザインはミニマルな方向の発想が多い。こういうのだったらもう全部真っ白にしてしまうとか、そういう発想が多い。」
(立山さん)「そういうところが日本の美というか、セクシーさだよね。」
(福定さん)「なんて言うんですかね、今、日本のプロダクトデザイン界では、削ぎ落とされたデザインだったり、そういう教育とか影響が大きい。それはそれで僕も意識はしているんですけど、そことはまた違うオリジナリティみたいなものを出さないといけないなというのはあります。釉薬の掛け方とか、そもそも色味の再現性とか。そこはアロットオブさんがあれこれ大変な調整をしてくれました。」
(立山さん)「そこは今思うと胃が痛くなる話ばっかり(笑)量産品の本来のやり方とも違うし、もちろん作家ものでもなくて。でも目指すものはあるから、そこに描いたものを目指してひたすら、あーでもないこーでもないと、型屋や釉薬調色、窯元の職人さん、それらを束ねて進行管理する商社さんと詰めていく日々でした。陶器は焼くと収縮するし、季節でもそのパーセンテージは変わるから、そこの判断も難しい。つるっとした白い磁器だったらもう少し楽なんだけど、やっぱり目指す雰囲気のものとは程遠くて。」
(福定さん)「温かみがなくなって、機能が目立ってしまう感じですよね。」
(立山さん)「そう。やっぱり雰囲気が全然ちがう。僕たちが作りたいのは、マスマーケットにあるものとはちがう、ニッチな商品だからね。調理器具・ツールとしての機能性もありながら、うつわとしての美しさを両立させたプロダクトなんです。」
― 構想段階からとても苦労を重ねて、今や7シリーズをラインナップするKIKIMEがあると思うのですが、これから先のブランドの未来に期待することを教えてください。
(福定さん)「今、スタートしてから2年半くらいですか?ブランドがローンチされてから、少しずつ世の中に広がっていっているのかな、というのは話を聞いたりしていて感じています。このペースで、もっとKIKIMEの魅力をいろんな人に伝えていって、もっとじわじわと広がっていってほしいなと思います。amimeやkoudaiみたいにとてもアイコニックな商品がラインナップされていて、“ニッチ”を攻めるという話ではありましたけど、ずっと長く続けていれば、多分それがスタンダードになれるんだと思うんです。だからひとつでも、ロングライフデザインみたいな、それくらいのものになれるくらいに育てていってもらえたら嬉しいなと思います。それこそとても大変なことだと思うんですけど。」
(立山さん)「生みの苦労もあるけど、それを続けていくってめちゃくちゃ大変なこと。だけどやっぱり思い描くのは、日本の市場で認知が広がり、さらに海外の市場にも出て行って、世界のKIKIMEになれたらいいなと。」
(福定さん)「立山さんも多分もっともっとやりたいかもしれない。インテリアカテゴリで広がっていくのでもいいなとも思うし、日本のテーブルウェアブランドとして、KIKIMEっていう名前がぽんって出てくるくらいになったらいいなって。」
(立山さん)「そうだね。ありがたいことに大手百貨店やライフスタイル系の複合施設などでもPOP-UPをやらせてもらったり、デザインストアやインテリアショップでもセレクトいただいていたり、エンドユーザーとの接点も広がっていっているので、その部分も大切にしながら、“東京発”日本のKIKIME、世界のKIKIMEになれるように実直にブランドを育てていけたらなと思っています。」
フィールドは違えど、プロダクトとひたむきに向き合ってきた二人を結びつけた“KIKIME”。ブランド誕生の背景、当初から貫かれてきたモノづくりへの姿勢、これからの未来に託された想いにいたるまで、KIKIMEを構成するDNAを紐解くことができました。つくり手側にとっても、商品を手にとってくださるお客さまにとっても、改めてブランドの背景を辿ってみると、また新しい視点で捉えることができるのではないでしょうか。
INTERVIWER|brand editor 武本 麻梨絵
▼ KIKIME公式オンラインショップ ▼
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