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【エッセイ】『周防錦帯橋』
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東京新橋の駅前広場を通りかかると、古本市をやっていた。急ぐ訳でもなくふらふらと見て歩きながら、年代物の絵葉書がたくさんある店で足を止めた。
花や女の子が描かれた絵葉書に紛れ、右から左へ『周防錦帯橋|』と印刷された文字が見える。十枚組の写真絵葉書だった。明治か大正時代だろうか? 周りの景色は違うが、写真の中の錦帯橋は五連のアーチを描き、今も岩国城の麓を流れる錦川にかかった錦帯橋と、変わらない姿をしていた。
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写真絵葉書に切り取られた人々は、着物を着てゆったりと錦帯橋を渡っている。観光で訪れ錦帯橋のアーチを満喫しているのか、吉香神社でお宮参りを済ませ赤児の無事を祈っているのか、欄干にもたれ景色を眺めながら何を思うのかと、想像は尽きない。錦帯橋を渡る人や河原にいる人の風景は、私が幼かった頃も、また今も、この絵葉書の時代からそんなに変わっていないことが懐かしく嬉しかった。
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山口県出身の私は何度も錦帯橋を訪れ、お花見など楽しかったことがたくさんあったにも関わらず、少々苦い思い出が蘇った。数十年経った今でもいちばん印象に残っている。
小学生になって初めての遠足で錦帯橋に行った時のこと。橋の上は低い段々になっているが、アーチ型に沿っていくらか傾斜がある。背が低く慎重派の私は、いつも親と手を繋ぎ一段ずつ立ち止まるように渡っていた。ところが、みんなで列になって渡り始めると、私の何倍もの速さで進んでいく。誰もゆっくり渡る子はおらず、初めて自分の遅さに気がついた。
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ひとクラス四十人位が二列になって渡る。第一橋のアーチはまだ緩やかで、もたもたしながらもなんとかついて行けた。ところが、角度のある第二橋は、一段ずつゆっくりでないと進めない。前の方にいた私はどんどん追い越され、あっという間に列の真ん中辺りになった。
当時は、列から離れることが学校の規則を破ることのように思えて、転びそうになりながら縺れる足を必死に動かした。アーチのてっぺんに近づくと傾斜が緩やかになり、頑張って前に出る。もう少しで追いつくと思ったら、今度は下りの傾斜に阻まれ、最初にいた席は手の届かない場所になった。
すぐに第三橋が続き、とうとう列のいちばん後ろになって、もう自分のいた場所に戻るどころではなくなった。それでもアーチはまだ終わらない。後ろのクラスにも追い越され、半泣きで誰か助けてと念じながら横を見と、“なにやっちょるん” という顔が通り過ぎて行った。この時ほど、反り返った五つのアーチが果てしなく長く感じたことはなかった。
その後、河原の石を拾って遊んだ楽しい記憶も鮮明に残っている。渡ってしまえばこの上なく安堵したことを思い出し、我に返った。
有名な画家の絵葉書がたくさんある中で、おみやげ用の錦帯橋の写真絵葉書に興味を持つ人なんてほとんどいない。けれど私は、岩国から離れた東京の真ん中で錦帯橋を見つけ、触れた。
この『周防錦帯橋』は、長い間その時を待っていたのかも知れない。
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