【児童文学】どんぶりこがやってきた④
4.カプセルの実
トイレからでてくると、ひめがどんぶりことじゃれあっていた。もう手なずけたのか。どんぶりこおそるべし。
「さてと、種も見つかったし、わしは帰ることにする。あとはひめと仲よくやってくれ」
どんぶりこは、着ているパーカーのポケットからカプセルを取りだして、すきっ歯まるだしで笑った。
「え、種? カプセルの中にあったのか?」
「それがの、このフードの中にあったのじゃ」
どんぶりこは、ぼくがきのう着ていたパーカーを着たまま、フードをつまんだ。
「ってことは、ぼくの頭をちょくげきして……フードの中に入ったのか。じゃあずっとここにあったんじゃないか。何だよー」
「大事な種だからの、カプセルにしまって持って帰ろうと思うての」
えっ、まずい。
「ちょっと待て、じゃあぼくのごはんはどうなるんだよ。どんぶりこが作ってくれるんじゃないのかよ」
「悪いの。黒天女に見つかる前に、寺に種を持って帰らねばならんでな」
黒天女か何だか知らないけど、帰るって言われたら、もう食べられなくなるほかほかごはんのことで頭の中がいっぱいになった。何か言わなきゃ。
「その種、ぼくのパーカーの中からでてきたんだぞ」
「ほう」
「だから、そ、それはぼくのだぞ」
「見つけたのは、わしじゃ」
「いいから、種をこっちによこせ」
こうなったら、力ずくだ。ぼくが、どんぶりこの腕をつかもうとしたら、くるっとターンをしてかわされた。
「やるな、ダンス教室にでもかよっているのか?」
じょうだんなのに、調子にのったどんぶりこが、むだにくるくるまわっている。年よりって、そんなことがうれしいのか。パーカーのフードが、ぼくの腕をふわっとかすめた。すきあり。ぼくはフードをつかんでグイッとひっぱった。
「うっ」
「あ、ごめん」
強くひっぱったつもりはなかったけど、どんぶりこが大げさによろけ、持っていたカプセルが、ろうかの方までとんでった。
コローン コンコンコンコン
こうなったらひめがだまっていない。長いろうかをどこまでもおいかける。
「待つのじゃ、ひめ!」
ひめとどんぶりこの、うばい合いがはじまった。
ひめがカプセルをくわえた。おいついたどんぶりこは、ひめをヘッドロックすると、口に手をつっこんで、力ずくでうばい取ろうとした。ひめだって意地でもはなさない。
「負けるな、ひめ」
とうとう、よだれまみれになったカプセルがツルンとすべって、そのまま納戸の前の、ろうかのふし穴に落ちてしまった。
「わあー!!」
どんぶりこは、ひめより早くふし穴をのぞきこみ、細い腕をつっこんでカプセルを取ろうとしている。
「むりやりひめからうばおうとするから、こんなことになるんだ」
カプセルに手がとどかないのか、どんぶりこはいつまでも床下をのぞいていた。
「あちゃー」
「どうした?」
「種から芽がでてしもうた。ひめのよだれがついてしもうたんだなあ」
「どこ?」
ぼくものぞいてみたけど、まっ暗でよく見えなかった。
「よし、作戦変更じゃ。願いのかなう実ができるまで、ここで育てることにする。ひかるは、わしにもっといてほしいだろ? 帰るのをやめて、この家にいてやることにする」
「へっ?」
さっきまで帰るって言ってたのに。いてやるって、ここで育てるって、つまりこの家で願いのかなう実ができるってことか? しかもごはんも食べられる。ひめ、おまえはえらい。
「わしの部屋は、こっちのモダンな部屋にする」
どんぶりこは、何もなかったかのように、ハワイアンな和室のふすまを開けた。
ぼくとどんぶりことひめ、ふたりと一匹の共同生活がはじまった。
居間でねてしまったぼくは、その夜、ガチャマシンのダイヤルをむげんにまわす夢を見た。何回まわしても、カプセルに入っているのは天丼ストラップなのだ。まわしすぎてもう腕がずっしり重い。
気がつくと、ひめがぼくの腕をまくらにしてねていた。
「もう朝か」
ところがだ。こたつの上に、ガチャマシンのカプセルが山のようにつんであった。夢じゃなかったのか? カプセルの中身はやっぱり天丼ストラップ。いや、よく見ると、かつ丼、牛丼、親子丼もあって、シークレットの海鮮丼まである。
「起きたか、ひかる」
「何だこれ? どうしたの?」
「知りたいか? きのう、秘宝の種から芽がでたであろう。そこからとれた実が、このカプセルなのじゃ」
「このカプセルが秘宝の種の実だって? 笑わせるなよ。しかも、きのう芽がでたばかりだろ」
「どんぶりガチャのカプセルの中に入れたまま発芽したからの、カプセルの実がなってしもうた。それに特別な種だからの、成長も早いのじゃ」
「うそだろ。どこから持って来たんだよ」
「うそだと思うなら、こっちに来るのじゃ」
朝はにがてなのに、ぼくは力の入らない体を引きずり、どんぶりこのあとについてハワイアンな和室に行った。
ヤシの木をよく見ると、ツルがからみつき、ツルのところどころに、どんぶりストラップの入ったカプセルがくっついている。
「何だこれ!」
ツルは、たたみとたたみのあいだをこじ開けて、床下からのびてきていた。
「これでわかったであろう」
わかんないよ。えーと、ってことは、床下に落としたカプセルから、このツルが生えているのか。
「あ、じゃあ、このカプセルって願いがかなう実ってこと?」
「それはちがうのじゃ。願いのかなう実はひとつだけしかできぬ。それを作るには、小銭が必要での。そこでじゃ、今からどんぶりガチャで小銭をかせいでくる」
「小銭が必要? 何で?」
「まあ、楽しみにしておれ」
ね起きの頭でボーとしてて、これ以上頭が働かない。じゃあ、楽しみにしておくか。
どんぶりこは、台所からゴミ袋をひっぱりだし、カプセルをつめてでて行った。
つづく