【児童文学】どんぶりこがやってきた(終)
9.どんぶりこ?!
あっという間に春休みが終わり、五年生になって、やっと夏休みがやってきた。
また、ひめの世話をしてほしいとたのまれて、久しぶりに愛ちゃんの家にやって来た。
「ひかる、いらっしゃい。ひかるが帰ってから、ひめがすごくさびしがってたのよ」
「そっか、ごめんごめん」
ひめって、やっぱり見ているだけでいやされる。
「でもだいじょうぶ。もう一頭飼うことにしたから」
「え、そうなの?」
「ひめが連れてきてね。とってもいい子だし、仲をさくのもかわいそうじゃない。今はお気に入りの和室をもようがえして、この子たちの部屋にしてる。ひかる、もう一頭ふえたけどよろしくたのむワ」
あいかわらず、愛ちゃんにはふりまわされる。どんぶりこと似てるって、ちょっと思った。
「こんにちはー、愛さんいるかしら?」
「はーい」
「あら、お客様?」
「おいっ子のひかるよ。彼女は、となりの家を別荘にしている静香さん」
「こんにちは、ひかるです」
「静香です。よろしくね」
ぼくは、静香さんの声を聞いたことがあるような気がした。愛ちゃんと同じくらいのおばさんだけど、すごく若々しくてやさしい声。かあさんや愛ちゃんとは、ずいぶんちがう。
「あっ?」
あーー! どんガチャをやっていた女子高生だ。ひとりだけすごくひかえめでやさしい声の、あの女子高生。うそだーー
「ひかる、どうしたの?」
「いや、別に」
「変な子ねえ」
あまりにもショックすぎて、しばらくきおくがとんだ。気がつくと、なぜか元ハワイアンな和室の前に立っていた。
半開きのふすまのあいだから、高級な犬用のソファとクッション、テレビまでおいてあるのが見える。中に入ると、長い毛の大きい犬がソファでゆったりとくつろいでいた。
「おまえが新入りか?」
「ああ、そうだ」
犬がしゃべった。ぼくはショックから立ちなおれなくて、頭がおかしくなったのか?
「ひかる、わしじゃ。どんぶりこじゃ」
「えー、何で? 何で犬になってるんだよ」
「秘宝の種を使ったのじゃ。ひめがあまりにもさびしがるのでな。ひめの一大事じゃった」
「だからって種を使う? しかも犬になる?」
「それがなかなかいごこちがよくての。愛ちゃんとわしは、相性がいいらしい。それに静香さんもおるしの。だからわしは、ここの犬になることにした」
「種を使うって、そんなのずるいよ。おまけにソファとテレビまで」
「わしは、愛ちゃんに気に入られておるからの」
「えー、どうせすぐばれるだろ」
「だいじょうぶじゃ、愛ちゃんがいる時には、絶対にしゃべらないからの」
ずるい、やっぱりずるい。ぼくが、足元にあったぬいぐるみを思いっきりけとばすと、ろうかまでとんでった。それをどんぶりこが、ソファからとびおりておいかけた。どんぶりこって、しゃべれてもそういうところは犬なんだ。
「よっしゃー」
そのあいだに、部屋のふすまを閉めてやった。
「わんわん わんわん」
ふすまのむこうで、どんぶりこ犬がほえている。愛ちゃんがいるから、しゃべれないもんな。どうせすぐに、どんぶりこがしかえしをしてくる。ぼくは今のうちに、高級犬用ソファでふんぞりかえってみた。
へへ、これからおもしろくなりそうだ。
おしまい
「最後まで読んでくれてありがと!」
「わしに応援メッセージくれると嬉しいのう」
「抜けがけはズルいぞ、どんぶりこ‼︎」