【児童文学】どんぶりこがやってきた①
1.愛ちゃんの家へ行く
春休み最初の日、朝ねぼうをしても怒られないはずの日に、いきなりかあさんに起こされた。
「ひかる、起きなさい。あんた春休みに何もやることないんでしょ。愛ちゃんがひめの世話をしてほしいんだって」
「愛ちゃんが?」
「そう、なぜかひかるによくなついているからって」
「えー、どうしようかなあ」
ひめは、ブルテリアっていう種類のメス犬。短い毛でがっちりした体に、のっぺりした顔のぶさかわ犬。かわいいって言えばかわいいけど。
「四月から五年生になるっていうのに、ガラクタばっかり集めてないで、少しは人の役に立つことやったらどうなの。体ばっかり大きいんだから」
「ガラクタじゃないよ。ツーピースのフィギアだよ」
「世話してくれたら、おこづかいあげるって言ってたわよ」
え、おこづかい? フィギアもっと買えるじゃん。
「はい、行きます」
ぼくは、すぐに返事をしてしまった。
インテリアコーディネーターの愛ちゃんは、ぼくのおばさん。一人ぐらしでほとんど家にいないのに、どうして犬を飼うんだろう? ひめもかわいそうなもんだ。まあいい、行けば、口うるさいかあさんの小言を聞かなくてすむ。
ぼくは、家から車で一時間、少しいなかの愛ちゃんの家に、一週間行くことになった。
天気もいいし、広々とした古民家でごはんつき、ひめの世話をしてりゃおこづかいがもらえるんだから、楽勝だよなあ。ぼくはひめの散歩をしながら、のんきにそんなことを思っていた。
散歩のとちゅう、コンビニっていうかなんでも屋があって、店の前にガチャマシンがおいてあった。
「え、これ、ツーピース? どこも品切れのやつじゃん」
ラッキー、やるしかないでしょ。ぼくは、ポケットから百円玉をふたつだして、ガチャマシンのダイヤルをまわした。
「何だこれ?」
開けてびっくり。カプセルの中身は、えび天が二本のっている天丼ストラップ。ぜんぜんちがうのが入ってるじゃないかよ。しかもツーピースのより小さいカプセルだし。もんくを言って、お金をかえしてもらおうと思ったけど、店番のおばあさんが気持ちよさそうにウトウトしていたからやめた。
「まあいいか。な、ひめ」
ひめがおすわりをして、小さいしっぽをふりまくっている。
「いいなあ、おまえはお気楽で」
ぼくは、天丼ストラップをカプセルにもどして、パーカーのポケットにしまった。
「ワンワン ワンワン」
いきなり、リードを持っている腕がグイッとひっぱられた。
「どうした、ひめ」
見あげると、カラスが何かにおわれるようにジグザグにとびながら、こっちの方にやって来る。いやな予感がした。
「来るな! あっちへ行け」
ぼくの願いはとどかず、ちょうどま上あたりに来た時、小石みたいなものが落ちて来た。やばい! せっかくよけたのに、それが木の枝にぶつかって、ぴったりぼくの脳天にヒットした。
「いってえー」
ぜったい血がでてる。と思って頭をおさえた手を見たら、何もついていなかった。よかった。って、そんなわけない。ズキズキする頭をさすると、たんこぶがみるみるふくらんだ。あのカラス、頭にくる。いったい何を落としたんだよ。ぼくは、木のまわりをあちこちさがして歩いたけど、どこにも見つからない。
「ちくしょー」
きょうはろくでもない日だ。散歩はもうおしまい。
ひめは犬なのに、こんな時ぜんぜん役に立たない。人の気も知らないで、しっぽをプロペラみたいにまわしながら、家にむかって走りだした。
つづく