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佐宗邦威『経営理念2.0』とレゴシリアスプレイメソッドとの関わりを考える

 経営理念、ビジョン、パーパス、ミッション、ストーリー、ストラテジー、経営方針など企業や組織全体の方向性をどう定めるかについての言葉はあちこちに溢れている。ビジネスの新しい言葉を聞くたびに、「またVUCA時代に方向性を見出すための新しい用語か」とうんざりする人も少なくないのではないか。

 佐宗氏の『経営理念2.0』は、そうした最近出てきた「似ている言葉があるけど、どうちがうの?」というところを、大胆にかつ説得力の高い整理をしている一冊である。

 この本の中心になっているのは、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」「パーパス」の4つである。それに紐づいて「企業理念」「経営理念」「ストーリー」「ヒストリー」「カルチャー」「ナラティブ」という用語が位置付けられている。

 佐宗氏は、おおよそ以下のような整理の仕方をしている。最後に書かれているのは、本質を理解するためのメタファーである。

(1)ビジョン(どのような世界を実現したいのか:風景)
(2)ミッション(ビジョン実現に向けての中心的な活動:矢印)
(3)パーパス(ミッションが向かう先の社会的に形成された基準点:北極星)
(4)バリュー(ミッションのためにお互いに力を合わせる方法:群れを作る力)

 これらはバラバラになっていると力は発揮されない。それをまとめて一つの相互関係を説得力ある形で示したものが「ストーリー」である。

 そして、(1)〜(3)をまとめた「ストーリー」が「企業理念」である。

 さらに、(4)を加えた「ストーリー」は「経営理念」と呼んでよいだろう。
 
 なお、本の中では経営理念と企業理念はほぼ同一のものとして扱われているが、企業理念は外部に向けて示されるもの、経営理念は従業員に向けて示されると考えれば、言葉的にしっくりくるのではないかと感じている。

 さらに、企業家(社長)個人の思いで作ったものを「経営理念1.0」、組織に関わる人々全員で作ったものを「経営理念2.0」と呼んでいる。本書のタイトルからも分かるように目指すべきは「経営理念2.0」である。

 そして、経営理念は主に従業員に向けて作られるものであるが、佐宗氏は、その説得力を高めるために重要になる要素を混ぜ込んでいくことを提案している。
 それが「ヒストリー」「カルチャー」である。要は、会社の歴史とそこから生まれる独自の文化である。これ受けてを従業員一人ひとりが自分の経験や思い入れを入れ込んだ語りが「ナラティブ」であると佐宗氏は位置付ける従業員の「ナラティブ」は「ヒストリー」の一部になり、「カルチャー」をますます豊かなものにしていく。

 これが高まると、「ヒストリー」「カルチャー」「ナラティブ」に共鳴する人が集ってくる。もちろん、一方で共鳴しない人は組織を去っていくが、基本的にはミッションの遂行力を高める(組織が強くなる)。

 この「カルチャー」「ヒストリー」「ナラティブ」が魅力の高いものになると顧客にも訴求する。顧客が企業のファンになり、ミッションに積極的に協力してくれるようになり、顧客も独自の「バリュー」を持つようになる。すなわち製品やサービスを応援してくれるようになるということだ。それによって、経営はさらに安定するのである。

レゴシリアスプレイメソッドと『経営理念2.0』

 まず、書名にもなっている「経営理念2.0」は、組織に関わる人が全員で作っていくことを目指しているという点において、レゴシリアスプレイメソッドは非常に相性がいい。
 レゴシリアスプレイメソッドを通じた会話は、それぞれの考えについての理解をお互いに深めるとともに、一つにまとめていくこと、それを「ストーリー」という形でまとめていくことを得意としているからである。

 本書の議論に沿って、それぞれをまとめていく際にレゴシリアスプレイメソッドを使うと以下のようなプログラムが考えられる。

(A)ビジョン・パーパス・ミッションを創るプログラム
 その企業の従業員および外部のステークホルダーを含め、どのような社会を作っていきたいかについてモデルを作り、共有し、テーブルの上に浮かび上がらせる。レゴシリアスプレイメソッドを活用した「未来を旅するワークショップ」を応用することで、未来志向の強いビジョンを策定することができる。

 ビジョンがテーブルの上に表現されれば、その中で、その企業が最大限に貢献すべき場所はどこであるかをステークホルダーも交えて議論することができる。それがパーパスとなる。
 そして、そのパーパスに向けて、ビジョンから時間を巻き戻して、バックキャスティング的に現在の組織が取り組むべき活動もモデルで示すことができる。これを私は「絵巻物的展開ワーク」と勝手に名づけている(呼び方がイマイチなのでそのうち変えるかもしれない)。
 そこで現在の時点まで巻き戻した時に、その企業が注力すべきことが見えてくる。それがミッションである。

 このワーク全体で、レゴブロックのモデルという形でビジョン、パーパス、ミッションが明らかになるので、それらを説明した語りが企業理念のストーリーの原型となる。

(B)バリューを定めるプログラム
 バリューを定めるプログラムは主に従業員が参加しておこなう。
 まずは、それぞれの従業員が仕事に対してどのようなことに喜びややりがいを感じているのかをモデルで表現してもらう。それをお互いに話していくだけでも、相互理解が深まり、一体感が出てくる。
 また、佐宗氏も指摘するようにその組織で働く上で「してほしくないこと」「すべきではないこと」のネガティブイメージも掘り出していく。レゴシリアスプレイはそのようなネガティブな感情に関することについても表現しやすい。
 これらに加え、組織のヒストリーを聞かせてもらったり、調べたり、資料を読んだりしてインプットしたのち、その中から自分が引き継ぎたい考え方は何かについてモデルで作って共有してもらう。

 こうしたアウトプットは一見、ポストイットなどでもできるように感じるし、実際に、単なるアウトプットであればできなくもない(引き出し方はレゴブロックを使った方が深い傾向にあるが、アイデア出しなど、深いところまで必要ない場合もある)。

 しかし、レゴシリアスプレイメソッドが真に力を発揮するのは、それらをまとめたり整理したりするとき場面である。

 それぞれの意見の相互の関係(共通性・差異性・連関性)を考える時に、レゴブロックのモデルのほうが圧倒的に手がかりが多い。表現上の言葉の上では同じでも、モデルでは他の表現の言葉をつけられたモデルの方が、意味が近かったというケースは少なからずある。また、複数の意見を一つにまとめるときにも、レゴブロックで表現されたモデルは多くのヒントを与えてくれる。手がかりが多いのである。
 最終的には、参加者が作成したモデルを集約した、複数のバリューを表現したモデルとそのストーリーがアウトプットとして残ることになる。

(C)経営理念を俯瞰するプログラム
 (A)で作ったミッションを表現したモデルおよび(B)で作成したバリューを保存しておけば、さらに相互の関連性を考察でき、参加者の理解を深めることができる。
 ビジョンのモデルも保存しておけば、「(未来の)ビジョンとパーパス」ー「(現在の)ミッション」ー「バリュー」の一貫性を示す大きなモデルを示すことができるだろう。

 なおこのNoteで書いているプログラムは、構想のみであり実際に試したことがないため、もし興味のある方(組織)があればご連絡ください。ご一緒にトライアルさせていただければ嬉しいです!

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