「SGPは戦略である」が、なかなか浸透しない理由ーレゴ®︎シリアスプレイ®︎の戦略論
レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの中のコンセプトに、「SGP(Simple Guiding Principles)」と呼ばれるものがある。これはリアルタイム・ストラテジーという手法によって導き出されるものである。
日本語訳が難しく、最近出された蝦谷氏の本『LEGO 競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方』では「本質的な判断基準」、石原氏・蓮沼氏の本『戦略を形にする思考術』では「シンプルな行動原則」と訳されている。ここではあえて訳さずに略称のSGPとして話を進める。
レゴ®︎シリアスプレイ®︎のコンセプトのほとんどには、学術的な裏付けがあり、そのコンセプトを活用しているのがわかるのだが、このSGPについては、まだ見つけることができていない。そこで、今回はロバート氏から聞いた話も含め、それらを大胆に整理して私なりのまとめ方をしてみたい。
SGPは戦略である
SGPの位置付けについて繰り返し語られているのが、「SGPは戦略である」という命題である。
そのような命題が生まれる背景の一つは、リアルタイム・ストラテジーという一連の戦略構築プロセスを通じて生まれてきたものだからである。
もう一つは、変化する環境の中で長期的な行動計画を立てようとしても、その計画の想定していた状況がどんどん変化してしまいその計画が役に立たなくなるということがある。
したがって、変化にどう対応すべきかを示すSGPは、長期的な活動計画に代わるものとして想定されている。
これを組織の全員が共有すれば、状況変化に対応しつつ、組織が目指すべき場所へと到達できるというわけである。
「SGP=戦略」への違和感の正体
ただ「SGPは戦略である」という考え方に違和感を持つ人もいるだろう。
例えば、以下のSGPの例を見てほしい。
<SGPの例(組織や集団によって異なる)>
・自分の邪魔をしない。
・返答するだけではなく、会話を進める。
・スピードを落として、息をすいこむ。
Kristiansen, Per; Rasmussen, Robert. Building a Better Business Using the Lego Serious Play Method (p.174). Wiley. Kindle 版. を参考に作成。
この違和感は「戦略」と聞いた人が、頭の中で「目的」と「計画」の2つの要素を含むように考える場合に生まれやすい。判断基準だけでは、その場その場の切り抜けだけで、目指すべき方向に向かっているか不安だという気持ちが生まれてくるのである。
さらに、その混乱を生みやすくしているのが、SGPが説明される時に使われるメタファーである。
一つは今回のタイトル写真にもある、鳥の群れである。この鳥の群れはお互いにぶつからず、統一された行動をとり外敵からも最小限の犠牲で自分達をまもることができる。それを支えているのは非常に簡素な3つの行動基準であるといわれている。
確かにこの動きによって、「種の繁殖」という目的が達成されるように全体が動くが、3つの基準には「目的」が含まれていない(基準の表記を見るだけで理解できない)のである。動物行動のメタファーだと、人間の判断よりも単純で低レベルという偏見もあるかもしれない。
戦略の概念に「目的」は含まず、「計画」のみの狭い概念(長期的で視野が広い計画)であると割り切れれば(割り切れた人は)理解しやすいが、実際には目的を含めて考える人からいわせれば「戦略にとっては目的の方が大事なのではないでしょうか?」というのではないだろうか。
※そもそも戦略の概念がどうして混乱してしまうのかについては、日本を代表する研究者の一人である加護野忠雄氏の論文「経営戦略の意味」が参考になる。
また、「目的」もまた状況によって変化するという考え方をする人もいる。大きく条件が変われば「目的」そのものも変わっていくのではないかというわけだ。そうすると「目的」の策定も含めて戦略としたほうがいいのではという意見が前に出てくる。
現在はその時代の変わり目を感じる人が増えてきており、特に企業経営においては、「パーパス経営」というものも登場してきて、パーパスと戦略を結びつけることを求めることに注意を引かれている人も少なくないのではないだろうか。
そのような理由によって「戦略=SGP」という考え方がなかなか受け入れられない状況が続いているのではないだろうか。