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ドラッカーの「チェンジ・エージェント」論とレゴシリアスプレイメソッドの関係を考える

 ピーター・ドラッカーが2002年に書いた『ネクスト・ソサエティ』を読む機会があった。今から20年以上前の本であるが、日本社会についても幾度か触れており、ドラッカーが現在の日本社会をどう予見していたかについて、非常に興味深く読むことができた。

 その中で、ドラッカーは、ネクスト・ソサエティに備えるため、企業組織自らがチェンジ・エージェントへと変身しなければならない、と説いている部分がある。

 企業組織がチェンジ・エージェント(変革機関)へと変身しなければならない理由は、今後も技術変化や社会変化が激しくなり、企業自らが変わっていかないと生き残れないからである。

 そして「経験の教えるところによれば、既存の組織にはイノベーションを移植することはできない」と切り捨てる。新しい方法や思考を外から移植しても反発やなし崩し対応によってダメになるということである。

 ドラッカーのいう、チェンジ・エージェントとは以下のような特徴をもつ組織である。

(1)成功していないものは全て組織的に廃棄していく。
(2)あらゆる製品、サービス、プロセスを組織的かつ継続的に改善する。
(3)あらゆる成功、特に予期せぬ成功、計画外の成功を追求する。
(4)体系的にイノベーションを起こす。
(5)メンバーは変化を脅威ではなくチャンスとして捉える態度をもつ。

 このチェンジ・エージェントをどう作っていくかについて、ドラッカーは具体的に述べていないので、少し私なりに述べてみたい。

 このうち(1)が最も難しいだろう。多くの組織がなぜ成功していないのに廃棄できないかというと、主原因は製品やサービスに合わせて、担当と責任を割り振ってしまうからである。
 何かを廃棄をしようとするとその担当者は自己否定された気持ちになり、あらゆるやり方を総動員して抵抗する。強引に改変や人事異動をさせると、別の担当をする他の人も「次は自分かもしれない」と不安になる。
 そのため、チェンジエージェントになるためには、特定の人に紐づく担当領域や狭い範囲での責任を割り振らないようにするしかない。いわば全員が全体に責任を持つように近づけていかねばならない。

 これまで組織では、役割がある程度、限定されていることによって、人々は責任を引き受けやすくなり、組織の活動に参画しやすいという側面があった。対して、全員が経営全体に対して責任をもつことは引き受けにくい。それを実現させると考えられるのが、組織活動に関わる全員がコミットメントできる組織の存在意義(ミッションパーパス)であるといえる。ミッションやパーパスで人々が一致団結することによって、その観点から有効でない事業を廃棄しやすくなるということである。

(2)について、ドラッカーはトヨタ生産システムに見られる「カイゼン」をイメージしている。「カイゼン」態度の浸透のポイントはここでもインセンティブ設計である。インセンティブになるものは人によって異なる。ある人にとっては金銭的なものであるかもしれないし、他の人にとっては仕事しやすい環境になっていくことであるかもしれないし、承認や地位かもしれない。丁寧にインセンティブ設計をしていくと、それは各自の価値観やアイデンティティの問題に結びつくだろう。
 組織にとって理想的な欲をもつ人物像を作り上げて、それに合致しない人を排除していく方法もあるが、組織を構成する人々のタイプが画一的になりすぎて、イノベーションを起こしにくくなるリスクがある。

 (3)は、(1)のつぎに難しいと思われる。予期せぬものを引き込むには、今までに無い領域に踏み込んでみたり、つながりを持つ必要がある。各自が役割に縛られずに自らの活動領域を拡張するのである。ここでも特定の担当や責任の領域の割り当てが邪魔をするであろう。

(4)はイノベーションに関する考え方や手法を全員が学んでいくということであり、技術や現場への理解はもちろん、ビジネスモデルやポートフォリオのレベルまで理解をしておくということである。また、組織としてはローンチされたアイデアや新商品・サービスへの評価方法なども整える必要がある。これを妨げるのは、やはりこの領域は私の問題ではないと考えてしまうような役割や責任の分担であろう。

(5)は、その人の物事の解釈の仕方であり、やや技術的な問題である(インプロビゼーションなどの訓練で改善できる)。組織的に柔軟性を高めるのであれば、ある一つのことに解釈の仕方が広がるようにメンバーの多様性を上げていくことであろう。また、多様な解釈を収束させていく対話の技術も必要になるだろう。

チェンジ・エージェントの構築のために、レゴシリアスプレイメソッドができること

 レゴシリアスプレイメソッドを使ったワークでは、それぞれの感覚や個性、価値観を可視化させ顕現させる状態をつくることができる。これは、組織のメンバーが相互に多様性を認識するとともに、受け入れていく雰囲気を作り上げることになるだろう。また、その多様なメンバーの異なる意見を否定することなく、一つの結論へと至る経験も提供できる。その経験はチェンジエージェントに欠かせない対話技術のベースになるだろう。
 また、人々の意見を統合して共有できるミッションやパーパスを創るワークもレゴシリアスプレイメソッドは提供することができる。ただし、人数が多くなればなるほど、全員の意見を一つにまとめていくことは難しくなっていくため、小さな組織に限定される。

 一方、担当や責任の分化が強くかつ厳格で、それを重視するカルチャーが浸透してしまった組織にレゴシリアスプレイメソッドを行うことには限界がある。ワークによって全員で全体のことを考える感覚を掴ませることは難しくない。ほとんどの参加者も、日頃の担当や責任の重圧から解放された中でのコミュニケーションを心から楽しむだろう。
 ただし、職務分担や評価などの制度や組織構造をそのままにしたままでは、仕事に戻ってから、全員が全体を見る感覚は、まもなく失われてしまうだろう。その組織のカルチャーや日常行動での行動変化につなげるには、ワークと制度や組織構造の改革と変化していくための十分な時間がセットで必要である

 また、レゴシリアスプレイメソッドで直接提供することができないものは、イノベーション創出の理論や実践的なプロセスについて知ることや、ビジネスモデル構築やポートフォリオ分析、評価手法などの知識である。これらは、レゴシリアスプレイメソッドと相反するものではないため、セットで提供することでチェンジ・エージェントになっていくことを大きく促進させるだろう。

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