レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドで人々の「行動探求」を支援する（３）組織化する方法としての行動探求

行動探求――個人・チーム・組織の変容をもたらすリーダーシップ

　ビル・トルバート著『行動探求』についての、以前のNoteでは個人でもできる「話し方」について、レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドでの支援方法も含め考察した。これは個人で行動探求（行動しながら評価することで状況適応を実現する）を行うための基本となるものである。

　今回は、組織での行動探求について扱っていく。

　まず、個人と組織ではどう変わるのか、という問いが出てくる。この問いに対して、本書では、組織においては持続可能性が求められ、時間や空間を超えて、人、知識、資源などを扱っていく必要があると考えている。
　いま目の前にいない人や、今後も実際に知り合うことがない人のことも踏まえて考えていく必要があるということである。このような条件の下での行動探求は、客観の行動探求と呼ばれている。

客観の行動探求の体験領域とリーダーシップ

　客観の行動探求では以下のような「４つの体験領域」があるとされる。

①組織の使命を明確にし、使命ー戦略ー行動ー結果を一貫して描くビジョンの策定をする
②戦略の策定をする
③役職に応じて定められた日常の業務を実行する
④外で起こった出来事を評価し、タイムリーに対応する

　これら４つの体験領域ごとに生まれてくる課題がある。そしてそれらの課題に対処するためには、必要となる力がそれぞれ異なっている。

⑴説得力のある組織の使命やビジョンを策定または修正し、メンバーによる継続的な行動探求を生み出すこと。
　⇒変容をもたらす力と以下の⑵～⑷で出てくるすべての力を適切に織り合わせる。
⑵真に意欲を引き出す戦略を策定すること、および長期的な戦略を実施すること。
　⇒前者については、先見の力が必要である。後者については⑶～⑷で出てくる力を組み合わせる
⑶割り当てられた役職等にひもづく日常の決まった仕事、短期的なプロジェクトを遂行すること。
　⇒納得の力（仕事に納得して手伝ってくれるようにすること）と論理の力（望ましい成果を得るために所定の構造内で体系的に理由付けができること）を使う
⑷目の前の機会や緊急事態に対処すること。
　⇒一方的な力を使う。

　4つの体験領域で生まれるそれぞれの課題は、同時に組織の中で進み、重なり合い、お互いに影響しあっているので、長期間にわたって効果的にマネジメントすることができるリーダーはそれぞれの課題に対してリーダーシップをとり、そのバランスをとる必要がある。

　このうち、変容をもたらす力がどうやって生まれるかについてが、やや分かりにくい。本書では明示されていないが、変容はそれぞれのメンバーが持っている枠組み（考えの前提や注意の向け方）を意識し、その枠組みを変えていくことを通じて進むので、ここでは、「枠組みが課題を克服するための障害になっていることを気づかせること」とするのが良いと思われる。

　ここで、改めて組織の行動探求におけるポイントをまとめてみると以下のようになるだろう。

・組織活動の持続可能性が高まるように、自分が知らない人も含めて人と知識と資源を適切に組みわせることを目指す。
・人と知識と資源の適切な組み合わせの問題は４つの領域で異なる課題の形で現れる。ビジョン策定、戦略策定、日々の業務実行、機会や緊急事態の対処である。
・それぞれの領域から生まれる課題に対処するために、リーダーは、変容をもたらす力、先見の力、納得の力、論理の力、一方的な力を課題に応じて使うことができるようになる。

レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドで組織の行動探求をどう支援できるか

　組織の行動探求の実現を、リーダーとしての成長の課題から考えると、大きく２つに分けることができそうである。

（A）課題解決に必要な各種の「力」が使えるようになる
（B）具体的な課題に「力」を使って持続可能性を高めることへと導く。

課題解決に必要な力を高める

（A）について「力」を持つためのポイントはそれぞれ以下のようになるだろう。

「変容をもたらす力」：枠組みの前提や考え方と問題を結び付けることができる
「先見の力」：全員が幸せでかつ課題を解決できるストーリーを作ることができる
「納得の力」：お互いに助け合おうという信頼関係を構築することができる
「論理の力」：情報をもとに合理的なストーリーを作ることができる
「一方的な力」：力を行使する権限が付与されており、責任感を感じていること

　「変容をもたらす力」を付けていくためには、自分自身の前提や考え方と問題を結び付けて考えるような経験やトレーニングが必要である。そのために（a）自分自身の前提や考え方に気付くワーク、（b）前提や考え方が問題を生み出していると認識するためのワークとさらに二つに分けることができそうだ。
　（a）については、このシリーズのNoteの「話し方」の枠組みを如何にして知るかという点について考察している以下のNoteを見てもらえれば幸いである。

（b）については、U理論をヒントに私が開発したレゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドを使ってのワークが効果的ではないかと考えている。これについては、書いていると非常に長くなってしまうので、今回は割愛する。興味のある方はご連絡いただければ幸いである（4~5時間ぐらいのワーク）。

　「先見の力」については、一人で行うよりも関係者と一緒に、レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドを使って、組織の目指したい未来像の共有モデルを作るワークをするのが良いと思われる。それを通じて全員が納得するストーリーを如何にして生み出すのかについての基本的な考え方を体験的に知ることができる。

　「納得の力」については、日ごろからの人間関係の構築を進めておくことが何よりも重要であるといえる。こちらも「先見の力」と同様に、レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドを使って、お互いのこと（仕事に対する考え方とか目指したい組織の姿など）を知るためのワークをするのが良いだろう。

　「論理の力」は、レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドよりも、ロジカル・シンキングのようなトレーニングの方が向いてそうである。

　「一方的な力」については、権限の付与が一番であるが、必要なときに責任を回避せず、権限の行使を行えるように、レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドなどで仕事の価値や意味を考えるワークをすることは考えられる。そこまでしなくとも、お手本になりうるメンバーがいれば、その人に仕事の考え方について皆の前で語ってもらうだけで十分なのかもしれない（その人による）。

具体的な課題を「力」を使って考える

組織の行動探求から見た典型的な課題について改めて挙げてみる。

⑴説得力のある組織の使命やビジョンを策定または修正し、メンバーによる継続的な行動探求を生み出すこと。
⑵真に意欲を引き出す戦略を策定すること、および長期的な戦略を実施すること。
⑶割り当てられた役職等にひもづく日常の決まった仕事、短期的なプロジェクトを遂行すること。
⑷目の前の機会や緊急事態に対処すること。

このうち、⑴については、非常に抽象的でかつメンバーの一人一人との内面と向き合う性質が強い課題であることもあり、レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドで対応できる。
　レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドには、組織の置かれた状況を作り、そこに変化を起こしながら、組織のメンバーがその変化にどう対応するかを感がるリアルタイム・ストラテジーというプログラムがある。
　このプログラムは基本的に2～3日かけて行うものなので、なかなか実施に踏み切れない組織が多いかもしれない。逆に言えばそのくらい意識を高め取り組んでいかないと⑴の課題は対応できないともいえる。著書では対応に7～11年ぐらいかかると書かれている。その時間を短くしていけるならば2～3日は非常に小さいと思われるが、ここは人によって意見が分かれるところだろう。

　⑵のうち戦略の策定に関しては、魅力的な戦略の策定の皮切りとしてレゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドを活用して、組織のメンバーが心から望んでいることや感じている問題点などを明示化することができる。また、戦略の中核となるコンセプトを、共有モデルの作成という技術を使ってその場で作り出すこともできる。これはリーダーが「先見の力」を使うための補助としてレゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドを使うことができるということである。

　⑶⑷については、まさに日々の直面する問題に対応していくということであるので、その対応のときに、いちいちレゴ🄬ブロックを広げてワークをするわけにはいかない。ただ、日々の業務の中でため込んでいる経験をそのまま沈ませず、全員で定期的に振り返って対応からの教訓を引き出すという場のためにレゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドを使うことはよさそうだ。作品を作ったり、それについて話しているうちに大切なことについて思い出したり確認するためにレゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドは大いな力を発揮するからである。