システミックデザインをレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでサポートする
「システミックデザイン」という考え方に基づく書籍の日本語版が発売された。
システミックデザインとは
「システミックデザイン」は、耳慣れないことばであるが、この本の帯に端的にに示されているように、システム思考とデザイン思考を掛け合わせたものである。
「デザイン思考」のツールを使って、人々の心や見ている世界を断片的に把握して集積させたのち、それらを組み合わせ、大きな問題解釈のマップをつくっていく。
それを「システム思考」のツールを使って分析し、どのように働きかければ最も効果的かを考えるとともに、起こしたい変化を育てていくための手順をデザインする。
本書では、それを円滑に進めるためのツールが紹介されている。そのツールの多くは、「デザイン思考」ベースのものである。デザイン・スプリント方式などの、短期間で効果的に物事を進めるためのワークショップで見たことがあるツールが多い。
下記の本のように、分析ツールの詰め合わせ的なものは色々と出ており、その多くが重なっている。
出てきた言葉の隙間を埋める
これら開発されてきたツールは、問題や状況を分析するものであるが、いずれのツールも、問題状況のある一面のみを切り取るものになる。
例えば、本書でも紹介されている「コンテクスチュアル・インタビュー」では、ある状況においての人間の行動の心理や環境要因を主にみる。
「ステークホルダー・ディスカバリー」では、どのようなステークホルダーがいてどんなことに関心をもっているかが描かれる。
どのツールも問題を考えるヒントや、問題理解のポイントを浮かび上がらせる。ただし、これらのツールで浮かび上がってきた情報を総合する必要がある。そこで「システム思考」によりそれらをつなぎ合わせることになる。
このとき大変なのは、それぞれのツールから出てきる情報が実に多様で様々なレベル(社会全体のことから、身近な人の関係から、個人の内面で起こっていること、人間以外にも社会制度から物理的な環境、モノに使われている技術特性や素材のことまで)で生まれてくる。
そこで、それは単に積み上げるだけではなく、一つの大きな図式の中に落としていくために関係者が同じように理解できる「意味づくり」の作業が欠かせない。
このとき気をつけなければならないのは、使っている言葉が同じでも心の中に抱いているイメージが異なる可能性があるということである。それを埋めるために、言葉だけでなく色や形をともなったイメージ表現があったほうがいい。
簡単なところでは、言葉にイラストが加わっているだけでも、お互いの言葉に含まれているイメージがずれにくくなる。
この使う言葉の含むイメージをしっかりと表現して共有するために、レゴ®︎ブロックによる表現は、かなりの効果を発揮する。実際に、上掲書『システミックデザインの実践』でもレゴ®︎ブロックを使っている写真のほか、粘土や身近な材料を使ったイメージ表現などの例も入っていた。
特に、イメージを伝えるために作った表現に意味をつけて周りに共有するという点においてレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドは、しっかりと標準化がされ、優れている。
多様なレベルの表現を総合してシステムにする
また、さまざまな情報を組み合わせて、ひとつの「システム」として表現するときもレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドのためのブロックセットは非常に役に立つ。
コネクション・キットと呼ばれる専用キットには作品を結び、連結させるためのパーツが多数収蔵されていて、システムの表現にはもってこいである。
このコネクション・キットで作った問題のシステム・マップのモデルのイメージとしては、以下のようになる。
この写真の表現そのままだと、それぞれのつながりが何を示しているかについて外部から見てわかりにくい(作った当人はよく分かっている)ので、実際には、この作品のポイントに説明のことばを載せたふせんなどを貼り付けることになるだろう。
また、システム思考の考え方でいう、影響の方向(矢印)や、時間の流れによる変化予測なども直感的に掴みにくい。
実際にはホワイトボードなどとも組み合わせて議論を進めたり記録をとったりすることになるだろう。
少し手間がかかるようにみえるが、物理的なブロック作品というモノがあって立体的なので、作品を見る角度を変えたり、要素(ブロックの部分表現)の全体の中での配置を変えてみたりすることが容易にできる。
この角度を変える、配置を変えるということはシステミックデザインでいう問題の解決の手掛かりになるリフレーミング(情報の意味の大きな捉え方そのものを検討する)のきっかけにもなる。これはホワイトボードに書かれた図やメモなどではできない、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドによる効果である。
現状を踏まえてどうしたいのかを描く
問題をめぐる現状が何らかの方法で、システムで表現されたとして(レゴ®︎ブロックを使わなくとも)、その次に出てくるのは、そのような現状を踏まえて、自分たちが何を目指したいのか、どのような状態を作りたいのかということを考えるということである。
こうしたものを描くには、単なる現状に関する意味付けだけでは不十分である。そこに自分自身の持つ価値観をより明確に反映させなければならない。
つまり、自分自身の内面に深く潜り、自分自身の欲望を引っ張り出す必要がある。それが掴めないとき、すぐに言語化できないときには、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドに従って、手を動かして自分の目指したいことのイメージを徐々に形にしながら、いきなり語ろうとするのではなく、作品で作ってから語るという方法である。
まとめると「システミックデザイン」のなかで
参加者の言葉の裏にあるイメージのずれを防ぐ
ワークで出てきた多様なレベルの情報をひとつにとりまとめる
自分自身の価値観を引き出し、現状の問題と重ねてビジョンを示す
ことにおいてレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドは効果を発揮しそうである。