KIKAI College の開設に向けて
喜界島サンゴ礁科学研究所は2014年に設立した私たちの研究拠点です。
私たちは世界中のサンゴ礁を巡り、喜界島にたどり着きました。長年、研究を進めていく中で、フィールドと実際に研究成果が生み出される場所が違うことに違和感を感じてきました。発展途上国では、美しいサンゴを研究するより、もっとお金になることでサンゴ礁を利用し、研究者も試料を採取した後の研究は、それぞれの国へ持ち帰ってからやってきました。しかし私たち研究者がフィールドワークをやる時は、どうしても地域の協力が必要です。しかし、地域の人自身はサンゴの面白さや楽しさを知らないし、大人がそうだと子どもたちにも伝わらないのです。
研究所を立ち上げるということは、フィールドワークや分析から、それを一緒に議論する人も必要です。個人でできることには限りがあります。何をどのくらいまで残せるのかということを考えた時に、喜界島は既に自然と歴史が「残されている場所」だと気づきました。それらをサンゴ研究の成果を含めて、100年後に残すということを考えました。10年後だと「そんな近況の話は関係ない」という反応になるかもしれないけれど、「100年後」というと、直接の利益や利害がないので俯瞰的に見てくれて、みんなが「100年後って夢があるじゃないか」と協力をしてくれるようになりました。
では、どうやって100年後に残すかを考えた時に、やっぱり我々より確実に長生きするのは子どもたちだから、島の子どもたちにサンゴのことを教えました。すると、やっぱり子どもたちの感性はすごかったのです。少し教えただけで、今まで石ころだと思っていたものを「これサンゴでしょ?」って研究所に走って持ってきてくれました。その時思ったのは、子どもたちには本物を見て感じてもらうことが必要だということでした。その「本物」は、自然だけじゃなくて、我々みたいな研究者も本物として見せてあげることだと思いました。そうやって、きっかけを与えるだけで、子どもたちが自分で吸収することがわかったので、今度は島の中だけじゃなくて、外からも集めようということになり、サイエンスキャンプを始めました。都会から来た子どもたちも、やっぱり順応力は素晴らしく、すぐに島の子どもたちと仲良くなり、研究発表会も立派に行いました。それを見る研究者も「そういうのは楽しそうだから」って自分でお金を出して海外から来てくれました。そうして、喜界島サンゴ礁科学研究所は自然に世界中から人が集まる学びの場となりました。
子どもたちも育っていき、そして地球環境や地域、サンゴ礁に興味のある多くの大学生・大学院生が今できるアクションを求めて、喜界島にきてくれるようになりました。その中で、研究所に関わっている学生たちの成長のスピードがとても早いことに気づきました。机の上の勉強は基礎として、とても大事だけれど、その知識を活かして行動するということは、大学という限られたコミュニティーの中では限度があると感じました。普通、行政や事業者との打ち合わせに行く学生はなかなかいないと思いますが、島を拠点にしていると、人との協働の中で、暮らしや文化への理解、地域の仕組みへの理解、その中でいかに自然と共生していくか…、いろんなことが繋がっていきます。さらに喜界島に集まる学生が専攻する分野は多岐にわたっているので、研究室あるいは大学で学んでいる学生よりもいろんなことを違う視点で議論することができるでしょう。
こうして、生きたサンゴ礁とそこに住む人、そして最先端の研究を追求している研究者が集まる場所ができました。それがKIKAI Collegeです。
ここは次世代のグローバルリーダーを生み出せる場所だと私たちは考えています。リーダーとは何か、それはサンゴ礁が教えてくれます。私たちは一人の強いリーダーを生み出すのではなく、多様性の高いチームを形成し、困難に対応・適応していけるリーダーを育てたいと思っています。サンゴは5億年にわたり地球上に存在しています。その間には地球は大きな気候変動を繰り返していたでしょう。サンゴ生態系というコミュニティは一種類のサンゴが強かったのではなく、その時、その時に適応できたサンゴがコミュニティを守り、その役割をそれぞれ果たしてきました。
喜界島は地球のモデルです。ここで起きている問題は世界のどこに行っても起きているでしょう。そして、この島で学んだことをみなさんが世界中の地域で取り組んだら、地球の未来を変えられると私たちは思っています。KIKAI Collegeは100年後に残したい未来をともに考え、行動する集団です。
渡邊 剛 ・ 山崎 敦子
photographer 大杉隼平
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