『センゴク』シリーズのエポックメイキング 歴史漫画に少年漫画的ライバルのドラマを取り込む手法

 講談社の週刊ヤングマガジンで連載している『センゴク権兵衛』がとうとう20巻、無印『センゴク』からは通算65巻(外伝であり前史である『桶狭間戦記』を加えると70巻、『センゴク兄弟』はスピンオフフィクションなので非加算)になる。日本の戦国時代をテーマにしたストーリー漫画の中では最長不倒記録に到達しているんじゃなかろうか。

 現在までに稲葉山城落城(1567)から朝鮮出兵前夜(1591)までの25年間が描かれているが、教育歴史漫画なら1巻、普通に豊臣秀吉や仙石秀久の事績を追うだけであれば20巻あればお釣りが出ているだろうし、数多ある歴史漫画の一つとして埋もれていただろう。

 センゴクシリーズを傑作足らしめている理由は、敵対勢力との決戦に際して彼ら敵側のドラマが、彼らを主役として語られる点にある。一般に歴史漫画は主役となる勢力を定めて後、敵対者は(歴史の勝者であれば)傲慢で相容れない存在として、(敗者であれば)時流の読めない愚者、憎むべき相手として描くものが多い。

そこに、少年漫画の技法である「ライバルキャラをライバルキャラ足らしめている、過去や背景を描写する」を取り入れる事で敵対勢力の魅力を高め、やがて来る彼らの敗北と死に悲壮と読者の同情を芽生えさせ、そこに挟まれる最も救いのある異説の採用が、各章の締めとして感動を齎す。

 織豊政権や主人公仙石権兵衛秀久の動きを縦糸とし、そこに対立勢力のドラマという横糸が加わる事で重厚な織物が出来上がる。この技法こそが、織豊の家臣の視点をメインに置きつつも武田の、毛利の、長宗我部の、北条のドラマを描けることを可能にしているのではないだろうか。

 尚、この横糸の技法が作中で本格的に開花するのは『センゴク』11巻、一乗谷炎上編においてである。斎藤龍興が癖のある謀将として描かれている今作において、暗愚な人物としての役割を担っていた朝倉義景が戦国大名としての自覚と対織田の決戦の覚悟に目覚め覚醒する。創作ならこのまま朝倉大勝利を目指してもよさそうな展開だが、無情にも史実通りこの後一矢報いることすら叶わず、織田家の猛攻の前に一乗谷は灰燼に帰し、義景は一門衆の裏切りの中自決する。この11~12巻の間、義景の心理描写が圧倒的に増加する。彼と側近の鳥居景近はほぼほぼこのエピソードの主役であり、彼らの死を以て章が移ると、仙石権兵衛や秀吉、信長たちの話を交えつつ次なる主役浅井長政の物語が始まるのである。

 歴史上の勝利勢力を軸に置きながらも、それに敗北した大名たちのドラマで彩られた本作は各大名家のファンにこそ読んでもらいたい。

 ただし六角・北畠・三好などに関しては殆ど描写が無いので悪しからず。


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