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かけら

   かけらというのは、手にしないうちが美しい。
手をすり抜けた瞬間に、きらめきながら流し目を寄越し、行先を目で追うと何故かすぐさま見失ってしまい、こちらは再び到来するのかしないのか、わからないけれど待つしかないのである。

   運良くかけらを手にしたこともある。信じられない思いと嬉しさに、手応えを感じた手を開くと、弱々しく輝きを失ったかけらがそこにある。きらめきを奪ってしまったのはこの私だ。もちろん、それに気付かなかった振りをして、こんなに素晴らしいことはかつてなかったと、思い込もうとするのだが、それはうまくいかない。

   私はかけらを埋葬するために、手を伸ばしていた死神であった。手にしたかけらは大変つまらない小石だったので、投げるとも落とすともせずに、ただ手を離した。

あばたの月面が私を見下ろしていた。
あの場所もつまらない小石だらけのように見えるのに、妖艶に輝いている。
見下ろすばかりの月は、お前も私のようになりたければ、あと幾不可思議年かやってみるんだねと、フレアに乗せて言伝を寄越してくる。
カチンときて睨みつければ月は、ああそんな人もいましたっけねとしらを切る。
私は肩をいからせ月を指差し、そんなに離れてもいないくせにと文句を言う。
そんな時に限って、月面はつるりとし尊大な女神のようである。
あらいやだ、私芥子粒の声が聞こえましたのなどと金星に話しかけている。
金星は、そんなことを言うあなたはなんと可愛らしいのだと、常套句で褒めそやす。
二つの輝きは、私の耳には届かないワルツの調べに乗って、薄雲の向こうに消えていった。

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