トンカツストーカー
最近トンカツにストーカーされている
肉料理を注文するとトンカツが出される
洋風な店ではカツレツだ
堂々と提供されると
そのまま食べないと悪いような気がして
そのまま平らげていた
連れがいる時に聞いても
トンカツなりカツレツなりを
私が注文していたと言う
ある日またしても
この日はカツレツだったが
そんな状況で食べようとすると
お誕生日おめでとうございます
とカツレツが言ってくる
ありがとう
と誕生日からは程遠いけれど
返事をしておいてみた
お祝いにピノ・ノワールを
注文してあります
しばらくすると
本当に赤ワインがやって来た
いつ注文したのかと聞くと
リサーチ済みです
と得意気に言ってくる
あなたの好みを知るために
チャンスとあらば
あなたのおそばへ馳せ参じました
あなたはトンカツかカツレツが
大好物でしょう?
残さず食べてしまわれて
出されたから食べていただけであって
大好物だと言われるとよく分からないな
しかし嫌でしたら下げさせますよね?
店に気を使っていたのが
トンカツなりを助長させていたようだ
正直トンカツは飽きてきたよ
君が付きまとわなければ
他のものを食べていたさ
しばらくの沈黙ののち
残念です
わかりました
お気持ち煩わせてしまって
すみませんでした
私とあなたの絆を
断ち切る呪文を教えましょう
いいですか
トンカツノーサンキュー
と唱えてください
あ、ピノ・ノワールは私の奢りです
トンカツとの絆?
話を聞きたい気もしたが
話を打ち切るのが
最善のように思われたので
トンカツノーサンキュー
と言ってみた
すると皿ごと消えていた
ワイン代はしっかり請求された
カツレツに言われた絆とやらが
気になって仕方がない
しばらく肉料理の注文は
避けたりしていたが
もうトンカツの付きまといは
なくなったようだ
そのうちに
トンカツとの絆について話を聞きたくて
トンカツを頻繁に注文するようになった
知り合いにトンカツが好きな人と
認識もされるくらい続けているが
何せたまにトンカツに話しかけているのを
目撃されている
未だトンカツとコンタクトできていない
とある日に残暑見舞いのハガキが届いた
トンカツからだった
納沙布岬にいます
だだいま婚活中です
と書いてあった
所々油シミがかなり付いていた
どうやって住所を知るのだろう
トンカツの情報収集能力に感心する
トンカツの住所が分かれば
カラシでも送るのにと思う
トンカツでは婚活は上手く行かないだろうと
私は未だトンカツを注文し続けている
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