とある旅
私は星の一つであるかのような振りをする。しかし常に漂い大気にあるわけで、生き物に干渉せずにおきたいけれど、ついちょっかいを出してしまって、幸福や不幸にも関与した。生まれながらの幸福、不幸になった故の幸福、その対岸も然り。
今日はつい海岸線の裾をヒラリとめくってしまい、そのために生き物が死んでしまった。罪滅ぼしとしてめくった場所に、救急進化パックを投与しておいたけれど、果たして吉と出るか凶と出るか、なるようにしかならない。
以前山の小川に投与したら、イワナが巨大化してしまって、ヒグマとの勝負に勝ってしまった。巨大化したイワナは不気味だったので、三日の命としておいたら、ヒグマが喜んで息絶えたイワナを食べていた。
私は自然を穢してしまったことを反省した。周囲の生き物を総動員して、早いとこ残骸を無くせないかと思案したものだ。
ある日私と似たような者と出会った。彼は人々の信仰によって生きていると言っていた。私もそうかもしれないと言うと、彼はそれは違うようだと言う。あなたはきっと「欲望」のようなものであろうと。私は断言できず黙っていたのだが、それこそ違うと直感していた。
彼は共に居れば明らかにできると言い、当然のごとく旅に誘ってきた。しばらく彼に付いて回った。彼は人々に大変好かれていた。確かに信仰によって生きているようであった。私は最初から、この旅の離脱を目論んでおり、彼が傷つかないタイミングを狙っていた。「欲望」であればこんな気の使いかたをしないと思う。すると彼がこう言うのが頭に浮かぶ。それは自由になりたいという欲望であると。
彼は人々に自由になりなさいと言ったり、自由は無責任であると言ったりしている。それを見る度に私という者は、「自由」なのではないかとひしひしと感じるのであった。最初のうちはなんとなくであったのが確信となった。
彼と人々が澄み切った夜空に火を焚いていた。彼らはそれをうっとりと眺めている。私は輪の外側に立ち、立ち上る煙を見上げていた。私は更に後ずさり、輪から離れたところに座り込んで、人々の背中と火柱を眺める格好になった。このように離れて見れば、共に旅をしてきたことも、刹那的な繋がりのように思えてならない。
私は今晩そっと立ち去るつもりであったけれど、どうでも良くなってしまった。寝転んで夜空を眺めた。このまま寝てしまおう。朝になって人々はいつの間にか居なくなっており、私を揺り起こすのはきっと彼なのだ。私はその時に、朝日が昼の陽光に変わるのを見ていくと言おう。彼がそれに付き合うと言えばもう少し一緒に居れば良いし、先に行っていると言うのならば、おそらくここでお別れだ。