連作 春生まれではない(四十首)
まなうらの息のできなさ 恋と愛 悲鳴のようにネイルがずれる
ままごとのよう心臓に感情を覚えさせたくなかった夜明け
中指のブラックリングが揺らいでる海の深さで窒息をする
隣室の住人みたいに遠ざかる星 なにひとつ手に入れられない
深々と抱きしめられる 黎明のような毛先でわらってくれるな
君という感情 春の階段を上がった先に靡かない骨
直立のうつくしいひと 頑なな鎧のようで最初の萌芽
落涙の跡をぬぐっていくような低い声から生まれる酸素
リネンでも拭き取れなかった横顔の君をあらわす数