「初」心
私たちは、
「初心忘るべからず」という言葉を、
「それを始めたときの初々しい気持ちを忘れてはいけない。」
という意味で使っていますが、
本当は少し違うようです。
この言葉は、
「能」を大成した世阿弥が、
父である観阿弥から伝えられた芸の極意をまとめた『風姿花伝』の中にある言葉です。
まず、
「初心」の「初」という字は、
「ころもへん」と「刀」からできています。
よって「初」は、「衣(布地)を刀(はさみ)で裁つ」という意味を持つ字で、
まっさらな生地にはじめて刀(はさみ)を入れることを示しています。
そして、
「初心忘るべからず」とは、
その「初」という字が持つ意味のごとく、
「折あるごとに、古い自己、過去のままあり続けようとする自己をバッサリ裁ち切り、新たな自己として生まれ変わる、新たなステージへとステップアップする、そんな心を忘れるな。」
という意味なのです。
世阿弥は、「能」という芸においては、
生きている限りその向上を目指さなければならないのだ、
これこそが芸を極めるということなのだ、
と伝えようとしたのです。
「初」心忘るべからず
現状に満足しないで、
常にひとつ上の自分をめざそうとする姿勢を忘れないこと。
自分への厳しさがないとなし得ない生き方ですね。
若い先生には、
自身の研修をすすめる時に
この「初」心を
意識していただきたいです。
このことは、
間違って学んでしまっていることをバッサリと捨て去って、
新たな認識を得ようとすることのできる柔軟さとも言えます。