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拝啓 ありがとう

アンジェラ・アキさんの『手紙~拝啓十五の君へ~』は、2008年のNHK音楽コンクール中学校の部の課題曲となった曲です。みなさんも、よくご存じの曲ですね。
当時、この音楽コンクールに向けて、アンジェラ・アキさんとの交流を深めながらに懸命に取り組んだのが、長崎の五島列島にある若松中学校の3年生たちでした。そして、時は流れて、この中学生たちが30歳となり、再び集い、NHKのスタジオでアンジェラ・アキさんとの再会を果たします。

その時のようすが、『拝啓十五歳の君へ~30歳になった私からのメッセージ~』と題されて放映され、先日、視聴する機会に恵まれました。

その番組の中では、当時の映像を交えながら、中学校卒業後のそれぞれの人生が、本人によって静かに語られました。そして、30歳の自分から15歳の自分に宛てて書いた手紙が読まれていきます。そして、アンジェラ・アキさんのその後の人生もそれに重ねられて、同窓会のような語り合いが進みます。

▲ スタジオのようす

ちなみに、
『手紙~拝啓十五の君へ~』という曲は、2つの部分から構成されています。
前半は、15歳の「僕」が未来の自分に宛てて書いた部分。そして、後半は、大人になった「僕」がその15歳の「僕」へ返信をする部分。その後半の部分は、「拝啓 ありがとう 十五のあなたへ伝えたいことがあるのです」からはじまります。この番組の企画は、まさにこの後半の部分を自らに求めることになったのです。

若松中学校の3年生たちが、
あの時の「自分」へどんな返信の「後半」をつづるのか。
十五の自分に伝えたいこととは何なのか。

中学卒業後のさまざまな人生。思うようにはならない人生とも向き合ってきた15年間のそれぞれの思いが、その「手紙」ににじみます。

次に紹介するのは、その中のひとりの大坪さんの「手紙」です。
彼女は、合唱のピアノ伴奏を務めました。大人になって、一度は島を出て会社勤めをした大坪さんですが、五島へともどってきます。そこにあった「理由」「経験」が本人から静かに語られます。そして、次の「手紙」をみなの前で読みます。

15歳の、今すぐにでも上五島を出たがっている私へ。

やっと卒業。進学が楽しみでしかたなく、「手紙」の歌詞もどこかひとごとなところがあって、不安はないし、"自分の声を信じ歩く"なんて当然だよと、やけに自信満々なのが、今になって恥ずかしいです。

この15年、そんな強気なあなたも、時には自信をなくし、なすすべがなく途方に暮れたこともありました。"自分の声を信じる"もなにも、自分の声がわかりません…、なんて場面もありました。

ややひとごとだった「手紙」の歌詞は、歳を重ねるごとにリアルになってきて、もう30歳。ただ、どうにかここまで来れたのは、この1年「手紙」を全力で歌ってくれたおかげです。あなたは、これから勇気を出して飛び込んだ世界で、自分なんて…と落ち込むこともあると思います。
でも、あなたも十分すごい経験をしているんだよ。だから、今の自分があるのは、あなたのおかげ。頑張ってくれて、ありがとう。

1年の年月をかけて仲間と先生とで全力で向き合った「手紙」の合唱。中学生の頃、そこにあったかけがえのない「今」。そのなかで得たうれしい経験、苦い経験、つらい経験…。そのすべてが、大坪さんの「ありがとう」に収れんされていきます。自分の見つめ直し。

『手紙~拝啓十五の君へ~』の中には、次の歌詞があります。

いつの時代も悲しみを避けては通れないけれど
笑顔を見せて
今を生きていこう
今を生きていこう

学校教育にできることは限られていますが、であるからこそ、子らとの「今」をともに生きることに全力でありたいと思うのです。ちょっとやそっとじゃ折れない「太さ」「しなやかさ」をつくらせたいと思うのです。


なお、
「NHKプラス」には、ここで紹介した番組(45分)が、1/4(土)17:00を配信期限としてアップされています。ぜひ、視聴してみてくださいませ。

▲ 30歳の合唱。
「手紙」の歌詞が、真にその力を発揮した心ふるえる合唱となりました。あの中学生の頃より素晴らしい合唱です。