見出し画像

『プロジェクト・ヘイル・メアリーの話』

久しぶりに非常におもしろい小説に出会った。
読み終わって既に数日が経っているし、他の小説も読み始めているのだが、いまだこの作品が私の心を支配している。こんな経験はなかなかできるものではない。

ということで、未読の方に是非ともこの作品をおすすめしたく記事を書くことにしたのだが...なんせこの小説、ネタバレ厳禁。個人的にも「何の情報も得ずに読んでほしい!!」と豪語したい気持ちである。
とは言え、「そんなこと言われてもどんな小説なのか分からないのに手を出せないよ...」という方もいると思う。なので出来る限りの範囲でどんな小説なのかを紹介しつつ、読書好きの皆さんの購買意欲を掻き立てられるよう尽力したい。

まずは基本的な情報から。

並んだ表紙がうちゅくしい🥹

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』

(著)アンディ・ウィアー
(訳)小野田 和子
(原書名) PROJECT HAIL MARY
(刊行日)2021/12/16
(出版社)ハヤカワ書房
(ページ数)328P(上)/320P(下)


単行本に抵抗のある方もいると思う。実を言えば私もそうだ。読書は移動中の電車の中が多いので、持ち運びしやすい文庫本を好む。Kindleでという手もあるが、私は断然、紙の本派である。いや、Kindleも持っているけども...。
ただしこの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は、単行本とは言えページ数がさほど多くなく、上下巻に分かれていることもあって持ち運びには苦労しなかった。大きさの問題は致し方ないが、手首が痛くなることなく電車内でも夢中で読むことができたので、その辺りを気にされて躊躇している方はぜひとも参考にしていただきたい。

続いて著者について見ていこう。

アンディ・ウィアー Andy Weir

1972年6月16日、カリフォルニアに素粒子物理学者でエンジニアの息子として生まれる。15歳で国の研究所に雇われ、現在までプログラマーとして働いている。科学、とくに宇宙開発に強い関心を寄せる。作家志望だったウィアーが初めて書いた小説が『火星の人』である。
『火星の人』は、まず自らのウェブサイトに公開され、その後kindle版を発売。発売後3カ月で、35,000ダウンロードを記録した。2014年に米クラウン社より紙書籍版が発売され、全世界で300万部を超えるベストセラーとなった。2015年、リドリー・スコット監督、マット・デイモン主演で映画化され、世界中で大ヒットを記録(映画化名「オデッセイ」)。

(https://www.hayakawabooks.com/n/na1e92e1568ed)


どこかで見かけた、『火星の人』は自身のウェブサイトで少しずつ公開しており、読者からの「ぜひ一冊にまとめてほしい!」という熱い要望を受けてKindleの最低価格で書籍化された...という話。そこからあれよあれよという間にベストセラーとなって数々の賞を受賞、映画化までされたのだから凄い話だ。
著者は『火星の人』では火星の、そのあとに書かれた『アルテミス』では月での絶望的サバイバルをリアルに描いている。

そしていよいよ、著者の長編小説第3弾『プロジェクト・ヘイル・メアリー』である。ここからは重要なネタバレはしないものの、ある程度は作品の内容について触れていくので、「何の情報もなしに読みたい!」方は是非ともここでページを閉じてほしい。私もそれをおすすめする。

———————————————

それでもまだ購買意欲が湧かない方のために、また好奇心でもうちょっと知りたいという方のために、まずはハヤカワ書房の公式ページからのあらすじを抜粋しよう。
未知の物質によって太陽に異常が発生、地球が氷河期に突入しつつある世界。謎を解くべく宇宙へ飛び立った男は、ただ一人人類を救うミッションに挑む!

そうなのだ。地球がやばいのだ。この作品は地球を救うミッションものだと思っていただいて相違ない。ただそれだけではない。それだけでは、ない。(重要なので2回言った)

ストーリーの始まりは、主人公のグレースが目覚めるところからだ。真っ白な部屋、病室だろうか。見知らぬロボットアームによって看護され、長い間眠っていたようである。しかし、自分がなぜここにいるのか、自分は一体何者なのか、グレースは思い出すことができない。それに同じ部屋には2体の死体が寝かされていた。死後、かなり時間が経っているようである。彼らは一体誰なのか。
彼は何か手がかりがないかと、室内を調べ始める。少しずつ蘇る、断片的な記憶。そしていくつかの実験により分かったこと。

ここは地球ではない。宇宙船〈ヘイル・メアリー〉号なのだ。

現在と過去の2つの時間軸で物語は進んでいく。地球は未知の物質により絶滅の危機に陥っている。それを救うための宇宙ミッションに自分は携わっているのだ。

太陽に影響を及ぼす未知の物質は、他の惑星にも同じように“感染”していることが分かった。しかしその中にひとつだけ、例外の星が見つかる。そこに行けば地球を救う手がかりが見つかるのではないか。そうして始動したのが「プロジェクト・ヘイル・メアリー」だ。

“ヘイル・メアリーはラテン語のアヴェ・マリアにあたるが、アメリカンフットボールの試合終盤に、劣勢のチームが一発逆転を狙って投げる”神頼み“のロングパスを「ヘイル・メアリー・パス」と呼ぶ。つまり、プロジェクト・ヘイル・メアリーというのは、「イチかバチか計画」と言った意味。”

本書解説より


今やこのミッションを達成できるのは自分しかいない。2人の仲間は死んでしまったのだから。こうしてグレースは、徐々に無くした記憶を取り戻しながらミッションに挑んでゆく。

上巻前半はわりと難しい単語や科学っぽい知識が多く並べられ、私のような科学に疎い人間には「はて?」とやや苦痛な時間が待ち受けているかもしれない。それでも他のSFに比べれば比較的わかりやすく読みやすい部類だとは思う。

しかしそこで諦めてほしくない!このあと物語はガラッと様相を変える。グレースすらも「うっそだろう!」と叫ぶほどだ。そしてそこからはもうノンストップである。ここから先はいくら知りたいと言われても私は絶対に口を割らない。あの底知れぬワクワクをどうか貴方にも味わってほしい。

その瞬間以降の本作は、SFファンタジーと言ってもいいかもしれない。読み進むにつれて膨らむ想像力。そして物語に対する愛着までも湧くであろう。途中で投げ出すことなどできなくなるはずだ。グレースの記憶が全て戻った時の心情もまた胸を打つ。
そして終盤には涙さえするであろう。それは心温まるものであるだろうし、その後にはまた物語の行方が心配になりハラハラもすると思う。
緩やかなジェットコースターのように感情が揺さぶられる展開なのだ。
そして待ち受ける結末。ここには賛否両論あるかも知れない。しかし私はあれでよかったとも思う。ぜひこの辺りは読了した方と語り合いたい。「良い、良い、良い!」

そして本書は何より、ユーモアに富んでいる。科学的な難しい用語も出てくるが、ところどころでクスッと笑わせてくれる表現が多いのだ。その辺りもこの作品の読みやすさに貢献していると思う。

前半で訪れるネタバレ厳禁の展開に対するワクワク感も、読後のこの何とも言えない満たされたような気持ちも、ぜひとも読書好きの皆さんに味わっていただきたい。こんなに絶賛してしまったら、ハードルを上げてしまって実際に読んだ時にがっかりさせてしまうのではないかと勝手に心配もしたのだが...それでも私はこの作品を激推ししたい。
そしてこの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は、ライアン・ゴズリング主演で映画化も進行中とのことである。ライアン・ゴズリングといえば、「ファースト・マン」(2019年公開)で人類で初めて月面に足跡を残した宇宙飛行士ニール・アームストロングを演じている。こちらも非常に楽しみだ。

ここまで読んでいただき、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』に興味を持ち、「読んでみよう!!」と思ってくれる方が1人でもいたら私は嬉しい。がんばって記事を書いた甲斐がある。また全力でおすすめしたい作品に出会ったら記事にしたいと思う。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集