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イヤイヤ期の思い出と、過ぎ去った今のこと

娘のイヤイヤ期はなかなか壮絶だった。

返事は基本的に「いや!」、もしくは「〇〇じゃない!」と私が言うことの否定系ばかり。
目が合えば「見ないで」。
近づけば「こないで」。
手をつなごう、と触れれば「さわらないで!」と、
いったい何度言われただろう、数えきれない。
気に入らないことがあればところ構わずずっと大声で泣き続け、絶対に自分の意志を通そうとする。

この服は嫌。
オムツ替えはママじゃなきゃ嫌。
朝ごはん、このお皿は嫌!!と
登園前の時間がない中でもお構いなし。
真冬にパジャマで登園していた時期もあった。
些細なことで1時間近く泣き叫び続けることも、路上でごろごろと転がりながら泣かれるのも何度か経験した。(抱きかかえようとすると、いや!さわらないで!!と転がりながら逃げていく。危険。)

漫画でよくある怒っている人から湯気が出ているような表現がまさしくという感じで、怒りに震える娘の顔は真っ赤、暑いと服まで脱ぎ捨て(冬なのに)、頭のてっぺんからつま先まで全身をわなわなさせながら
「ぜ っ っ た い に い や !」
と表現していた。
大人になるとあんなに怒っている人をなかなか間近で見ることがないので、怯んだ。

その頃、娘はまだ後ろ髪を一度も切ったことがなかった。
美容院に連れていくなんて想像するだけで疲労困憊だったし、はさみを取り出せば「娘ちゃんがやる!!」と言ってややこしいことになるのが目に見えていたからだ。(前髪は夜寝ている間に切っていた。)
もちろん結ぶのも嫌がるのでいつもダウンヘア。
腰まで届きそうな生粋のナチュラルヘアーは、昔沖縄旅行に行った時に見た妖精(妖怪)『キジムナー』に似ていた。不揃いにはねた毛先が娘の野生味と、“手に負えなさ”をいっそう強調しているように見えた。

これは所謂「イヤイヤ期」というやつで、成長の証であり、きっといつかは終わる。
そう頭では分かっていても、日々不安と疲労感でいっぱいだった。
どうしてうちの子はこんなにこだわりが強くて癇癪持ちなのか?
このままずっと怒りっぽい性格だったらどうしよう…
と本気で悩んでいた。
娘と同じ歳くらいの子が母親と手をつないで仲良く歩いているのを見ると、羨ましくて眩しくて、涙が出そうだった。

因みに自分自身は幼少期から現在に至るまで、基本的に感情の起伏が少ない、思ってもあまり表に出ないタイプだ。
昔母に聞いたところによると「あなたは本当に大人しい赤ちゃんだった。まるでお人形を抱いているようで、あまりに静かなのでちゃんと息しているか心配になった」とのことで、おそらくイヤイヤ期もさほど激しくなかっただろう。

そんな自分からこんなエネルギーに溢れた子が出てくるなんて…!

嵐のように荒れ狂う娘を前に私はただただ圧倒されるばかりで、できるだけこの人を怒らせたくない…どうか穏便に…と心を無にして耐え忍ぶ日々。
まるで理不尽な上司に振り回される部下の気持ちだった。

そんな娘ももうすぐ3歳になる。
1歳半頃「ないない」と言う返事を覚えたころから徐々に始まり、2歳半頃にピークを迎えたと思われるイヤイヤ期。

気がつけば、娘の情緒はこのところずいぶん落ち着いた。説明すれば「そうなんだ」「わかったよ」とか言って納得してくれることが多くなり、外出もかなり楽になった。
あんなに手をつなぐのを嫌がっていたのに、最近は自分から「おててつなご♪」と言ってくれたりする。
長かった髪も自宅での散髪に成功し、今はもうキジムナーには見えない。
忘れ物が多い母に「じゃあ、明日はちゃんと持ってきてね」と釘を刺してきたりする。
しっかり者で、お喋りもいっちょまえ。

イヤイヤ期の間、親が能動的に何かした記憶はまったくなく、ただただ受け流したり振り回されたり、一緒に泣いたりしているうちに、本人がすくすくメキメキと成長して、嵐が過ぎ去ったようだ。
「いつかは終わる」と渦中にいる時は信じがたいけれど、本当にそうなのかもしれない…と今は思えつつある。
(一方で、これは次の嵐の前の静けさなのかもしれないぞ、と疑っている自分もいるけれど…)

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