波の音が聞こえる部屋で、神様の下した罰とは? ロマンティックコメディ『さよなら、チャーリー』ゲネプロリポート
概要
東池袋駅直結の劇場あうるすぽっとにて、2024年2月16日ロマンティックコメディ『さよなら、チャーリー』が幕を開けた。
こちらの作品はブロードウェイ・ミュージカルとして1959年に上演され、日本でも度々上演されてきた名作ミュージカルのひとつだ。
主人公のチャーリー・ソレル役は山本一慶。チャーリーの親友で映画監督であるジョージ役には、山本との共演も多い井澤勇貴。そのほか、ルー大柴、大湖せしる、神谷敷樹麗、枝元萌、柳内佑介が脇を固める。
今では、いわゆる『なろう物』と呼ばれる一大ジャンルとなった転生もの。なおかつ、主人公のチャーリーは性別まで変わって転生してしまう。
バスに轢かれるわけでもなく、救世主として神に召喚されるわけでもない。ひたすら女癖が悪かったチャーリーは友人のヨットの上で、友人の妻ラスティとの情事を見つかり射殺されたのだ。神はそんなチャーリーに罰を下した、女性として転生するという罰を。
今回は本番直前2/16に行われたゲネプロの様子をリポートする。
リポート
作品の舞台はカルフォルニアの海辺にあるチャーリー(山本一慶)の自宅。友人のジョージ(井澤勇貴)は彼のための葬式をひらくが、なんと参列者は自分を含めた3人……、仕事上の付き合いのあったエージェントと会社の社長夫人だけ。あまりにもわびしすぎるが、彼の行いを考えれば仕方ない。
ジョージは葬儀が終わった後も、チャーリーが遺言執行人に指定していたせいでパリの自宅には帰ることができない。彼の女癖は分かりつつも、友人として長年の付き合いがあったジョージは、チャーリーの死にさみしさを抱えている。
葬儀が終わった後、様子を見てラスティ(大湖せしる)が顔を出す。自分のナイトガウンや化粧品などが家中にあること告げ、処分をしておいてほしいとジョージに依頼する。夫がチャーリーを殺してしまったこともあり、葬儀の時間は避けて弔問にきたのだ。
チャーリーは愛される存在なのか、トラブルメーカーか。ジョージは頭を抱えながらも、亡き友人を思う。そんな時、トレンチコート姿の謎の女性が現れる。弔問というには格好も、様子もおかしい。目を見張るような美女なのだが、動きがどう見ても男そのものなのだ。
ジョージにも馴れ馴れしいその女は「どうしたんだ、俺だよ! チャーリーだよ」と衝撃の告白をする。
今回、主人公であるチャーリー役は1997年池畑慎之介以来男優が演じることとなった。山本一慶は様々な舞台を経験し、今では演出などにも挑戦中だ。
チャーリーは登場してからずっと、すでに『女性』として、板の上に立っている。様々なシーンや出来事を通して、自分の状況への葛藤、いままでの人生についても振り返ることとなる。
山本は、ともすれば嫌われ者になりそうなチャーリーを愛嬌たっぷりに演じ、徐々に変化していく姿を繊細に演じていた。
普段はパリで生活しながら映画監督として活躍するジョージは、奔放であるチャーリーに振り回されつつも、過去に3年一緒に暮らしたことがあるほどの親友。彼は、とにかく優しい。面倒見がよく、冷静だ。
女性になって混乱したり、今度は投げやりになってハイになったりするチャーリーを支える。井澤が投げかける言葉はずっとやさしく、「このふたりは恋に落ちるだろう」と妙な納得を覚えた。共演回数の多いふたりのロマンティックなシーンの息もぴったりで愛らしい。
そして、チャーリーの死の原因にもなる愛人、ラスティは大湖せしるが演じた。宝塚歌劇団時代から様々な役を演じ続けている彼女は内心の吐露などで場面を大きく転換させる難役を演じきる。
夫である大物プロデューサー、メイヤリングがチャーリーを殺してしまい、「家と妻を守るための正当殺人である」と釈放されたことに戸惑い、今後のことも考えてホテル暮らしをしている。
ジョージたちとも積極的に関わる中心人物のひとりだ。
ルー大柴は、友人であるチャーリーに裏切られてしまい衝動的に殺人を犯してしまったメイヤリングを演じた。出番としては少ないが、見境なく周囲の女性に手を付けるチャーリーの被害者のひとりでもある(といっても殺人はいけないが)。チャーリーへ追悼の思い、ラスティへの感情、葛藤が渦巻く役だが、ルー節を交えてトゥギャザーしてくれた。
コミカルな演技に思わず吹き出してしまい、彼のペースに持って行かれること間違いなしだ。
作品全体としては、『ジェンダー』が横たわっている。
舞台自体は1950年代なので、現在の感覚とはまた違う部分もあるが、共通する部分も多く感じられた。結婚後の女性の立場や、男女での感覚の違い……見ていて頷くシーンや共感するシーンも多い。
基本的に、文学や舞台などが再演を繰り返し現在まで演じられている場合、根底には『普遍的なテーマ』が含まれている。
今回の作品であれば『愛』だ。
チャーリーは女性遍歴はとてつもなく派手だが、彼を取り巻く環境にはどこか軽薄さが拭いきれない。チャーリーは自分の本当に欲しいものを知らずに38歳まで生きて、気の向くままに周囲を引っかき回した。そのツケを払うそのとき、彼は自らが目を背け続けていた『愛』というものの重要性を知ることとなる。
神に向かって懺悔するシーンが何度か訪れるのだが、その変化も見所の一つだと思う。
潮騒が響く海辺の家。
その中でたゆたうようにチャーリーの心情もジョージの心情も揺れ動く。
彼らが選ぶ物語の結末も、そして、その『愛』がたどり着く場所も是非劇場で見届けていただきたい。
公演情報
ロマンティックコメディ『Goodbye Charlie さよなら、チャーリー』
日程:2024年2月16日(金)~2月25日(日)
劇場:池袋あうるすぽっと
作:ジョージ・アクセルロッド
訳:小田島恒志
演出:岡本さとる
製作:アーティストジャパン
出演:山本一慶、井澤勇貴/大湖せしる、神谷敷樹麗、枝元萌、柳内佑介/ルー大柴
お問い合わせ:アーティストジャパン 03-6820-3500
【アーティストジャパン公式サイト】
https://artistjapan.co.jp/