3歳から始まるブラジルの多様性教育
はじめに
ブラジルは多民族国家です。
歴史的に南アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、中東などさまざまなルーツを持つ人たちがいてブラジルのわが町を街を歩いてもさまざまな人種の人たちを当たり前に目にしていました。
ブラジルで暮らす中、さまざまな見た目や文化背景を持つ人たちが共存する智慧があることに気付き、興味深く学んできました。今回はこのうちの一つの幼少期の教育について取り上げたいと思います。
多様性を受け入れるブラジル人たち
私たちのブラジル生活で本当に多くのブラジル人が外国人である私たちにとても優しかったことを思い出します。
ただ折々で手助けをしてくれたり微笑みかけてくれたりしただけでなく、外国人やその文化に敬意を持ってくれる方たちがとても多かったです。
私が暮らし始める前の2010年代中ごろは多くの中東からの難民がブラジルに移住していました。
私自身は最近ブラジルに移住した中東出身者と面識はありませんでしたが、親の代や二代前くらいにシリアから移住した知り合いが何人かいました。彼らも特に何の問題もなさそうで快適にブラジルで生活している印象でした。
そして彼らがいうには、「ブラジルは難民など困っている人を積極的に受け入れている」とのことでした。良いか悪いかは別として、この点も日本とは違うなあという印象を受けました。
息子の通っていた幼稚園について
次男が通っていたのはブラジルの地元のお子さんが通う私立幼稚園でした。
当時息子は3歳でしたが、同じクラスには2020年3月時点で2歳から4歳までの子どもが在籍していました。
この幼稚園では日本のように年齢や月齢によって厳格に学年が決められるわけではなく、習熟度やクラスの空き具合などの都合によって幼稚園が園児の学年を決めていました。
話が脱線しますが前年に息子と仲良しだったお友だちの親御さんが次年度の幼稚園の登録手続きを忘れてしまい、遅れて手続きをしようとしたところ、もう次の学年のクラスは満員になってしまっていてそのお子さんは同じ学年をもう一度することになってしまっていました。
他にも習熟度や出席率などさまざまな理由で同じ学年にもう一度なるお子さんをこの幼稚園でも他の幼稚園でも何人も見てきました。ブラジルではその辺りはとても柔軟というべきかしっかりと決めていないようです。
またブラジルでも幼稚園によって遊びがメインのところもあればお勉強をメインでするところといったようにさまざまな特色がありました。そのような中でも息子の幼稚園は適度に遊び適度に学ぶというタイプの幼稚園でした。
ですので遊びの時間は充分にありながらも授業めいたことも行われ、遊びの延長線上のような形で言葉や数字の勉強、またお絵かきやダンスなどさまざまなことをやっていただいていました。
コロナのため幼稚園でもオンライン授業
息子の幼稚園の特色を大まかには知っていたとはいえコロナ以前では息子が幼稚園でどのような教育や保育を受けているのか、細かい内容まではわかっていませんでした。
コロナになってからすぐさまオンライン授業が実施され、親としてはフォローが大変だったのですが、先生とのやりとりも増えて授業内容も分かり嬉しいことも多くありました。
ブラジルのわが町では3月半ばにロックダウンとなり、次男はそこから7月末まで幼稚園に在籍したので約5ヶ月ほどオンライン授業を受けていました。
その間小さな子でもわかるようなやんわりとした多様性教育めいたものが、子どもが興味を持てるような形で何度か行われていました。以下にその授業で使われていた本や歌を紹介します。
Todd Parrの"Tudo bem ser diferente"
こちらは絵本です。例えばカラフルなシマウマの絵に「違う色でもいいんだよ」という言葉が添えられており、他にもポップな可愛らしい絵とともに「どのような容姿でもいいんだよ」といったメッセージがふんだんに盛り込まれています。さらに「ひとりでダンスを踊ってもいいんだよ」「自分の気持ちをひとに打ち明けてもいいんだよ」「恥ずかしいという気持ちなってもいいんだよ」といった自分の選択や内面が自由であっていいというメッセージまでわかりやすい絵と言葉で書かれてあります。
(※これらの本の写真はアマゾンのサイトから引用しました。)
息子のオンライン授業では読み聞かせのあと、先生は黒人のクラスメイト、白人のクラスメイト、そして黄色人種である息子の写真を並べて「この子もこの子もそしてこの子(息子のこと)もみんな違っていて、すてきですばらしいよね」とポルトガル語ならではの強い抑揚ながらも軽やかで穏やかな語り口で言っていただきました。説教めいた気難しげな雰囲気はなく子どもたちも楽しい気分で先生の言葉に聴き入っていたのではと思います。
この絵本の作家はアメリカ人なのですが、この内容が私にはブラジルにピッタリすぎてブラジル人だと思っていました。思えばアメリカもさまざまなルーツの人が住むので、アメリカらしい作品でもあるなとも思います。
Grandes Pequeninos の"Normal É Ser Diferente"
こちらは歌です。タイトルの意味は「人と違っていることが普通なんだよ」です。
そして歌詞の内容は意訳も含みますが
あなたと私は同じではない。そんなことは重要ではない。お互いのことを好きだという気持ちこそが大事なのだ
という意味です。
軽快な音楽に合わせ、深い意味の歌詞が歌われるーーブラジルの歌ではよく目にしますが、この歌も同様であると思います。
さらに子どもたちにもわかる易しい言葉で具体的な表現満載で歌われているので、子どもたちにもストンと腑に落ちるのではと思います。
まとめ
以上が幼い子どもたち向けの多様性教育で用いられていた本や歌でした。
これらは子ども時代をはるか昔に通り過ぎ、生粋の日本人でもある私の心にも響き、励まされるような作品でした。
上記の本の方は英語版では"It's ok to be different"というタイトルで、日本語版では『ええやん、そのままで』というほっこりな関西弁のタイトルであります。ぜひ本屋や図書館などで手に取って見てみてください。また歌は上に置かせていただいたYouTubeをぜひご視聴いただけたらと思います。
私と同様に皆さまにとっても、これらの作品が自分や周囲のことを認め明るい気持ちになるきっかけになればとても嬉しいです。
※最後に冒頭の写真にpastelplanetさまの作品を使わせていただきました。素敵な絵をありがとうございました。