5才、夜のインターフォン。
あれは札幌市の東区に住んでいたときの話だから間違いなく私が5才のときのこと。
夜、家のインターフォンが鳴った。記憶の中では父は仕事に出ていて、母は夕飯の準備をしていたから、あれは夜だ。
インターフォンに応答したのは当時4才の妹だった。ソファでは2才の妹と1才の弟が飛び跳ねている。私は4人兄妹の長男だから本来ならインターフォンに出るべきは私のはずだが、動物と恐竜の図鑑を読むのに必死だったので妹に出てもらった。
インターフォンに応答した妹はそのまま玄関に向かって消えていった。かと思ったら、ドタドタとリビングに血相を変えて戻ってきた。なにやら焦って騒いでいる。私は手に持った図鑑を置いて「なんやねん?」と聞いた。妹は顔を紅潮させ両手をバタバタしながら言う。
「外に! 外に!」
「外に?」
「外にモグラがいるらしい!」
えええ!? モグラぁ!?
インターフォンを押したのはとなりに住むショウタくん(仮名)だったようだ。おそらく日が暮れるまで外で遊んでいたのだろう。モグラは当時の我が家の目の前の空き地に出現したらしく、ショウタくんはわざわざそれを私たちに教えにきてくれたのである。なんてやさしい子どもだろう。そういう子どもを育てたい。
正直、モグラを見たことはなかった。第一、北海道にモグラがいるのか? とちょっと怪しんだ。モグラが北海道にいるかどうかは図鑑にも書いてなかった。はて。
「ダーキも見に行こうよ! モグラ!」と妹は言うが、なんだか気乗りしなかったので私は見に行かなかった。
数分して戻ってきた妹に「モグラいた?」と聞いてみると「モグラいた!」と言っていて、いいなぁと思った。
そういうわけだから、私は人生でモグラを見たことがない。
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