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闇バイトにひっかかりそうでひっかからない純粋なヤツ。

ある日のこと、ネットで見つけた「高収入・誰でもできる簡単な仕事! 安心のホワイト案件!」にまんまと釣られて応募した純粋くん

彼の元に、怪しげな人物から早速連絡がくる。少し高圧的なのによどみなく話してくる詐欺師に純粋くんの純粋さが炸裂する。


詐欺師「おっ、応募ありがとう。早速だけど、身分証明書の写真を送ってもらえるかな?」

純粋くん「分かりました! 今撮りますね!」


—しばらくして—


詐欺師「届いた写真、これ、ちょっと…...おでこしか写ってないけど」

純粋くん「あ、免許証って、全部撮るものだったんですね!」

詐欺師「そりゃそうでしょ、全部だよ。じゃあもう一回お願いね」

—数分後—

詐欺師「今度は下半分しか写ってないけど…...」

純粋くん「あれ? 鏡に反射させたらこうなっちゃって。アートっぽくてよくないですか?」

詐欺師「いや、そういうのは求めてないんだわ。…...まあいいや。次に君の家族情報も必要なんだが、父親、母親、それに兄弟とかね」

純粋くん「家族ですか? ちょっと複雑ですけど…...」

詐欺師「複雑? まあ、それでもいいよ。とにかく、分かる範囲で頼むよ」

純粋くん「実は、父はフランスに出張中、母は母方の祖母の家に仮住まいしてて、弟は…...あっ今タイにワーホリで行ってるんですよね。で、猫が1匹いるんですけど、家族扱いしていいですか?」

詐欺師「いや、猫は…...まあ、それでいいか。じゃあ、家族の住所は?」

純粋くん「んー、みんな別々の住所なんで」

詐欺師「ちょっと待って。もう少しシンプルな家族はいないの?」

純粋くん「あ、あんまり近い親族じゃないけど、おばあちゃんが一人暮らししてて」

詐欺師「それ! それでいいよ! じゃあ、そこの住所を頼む!」

純粋くん「でも、おばあちゃんもこの前引っ越したばかりで、まだ新しい住所知らないんです…...おばあちゃんの家の住所ってみんなわからなくないですか?」

詐欺師「いやあるあるだけど…...君、これ本気で言ってるのか?」

純粋くん「もちろんですよ! でも、もっとちゃんとした書類が必要なら、父が帰国したときに頼んでみます!」

詐欺師「もういい…...次に進もう」


詐欺師がいくら手を尽くしても、純粋くんはそのまっすぐな天然さで見事にすり抜けていく。彼が詐欺に気づかないまま、詐欺師も無駄に労力を費やし続ける。


詐欺師「まあ…...なんとかしよう。じゃあ、次に銀行口座を教えてくれるか? 振込先がいるからな」

純粋くん「分かりました!…...えっと、僕、通帳どこ置いたっけな」


—ガサゴソ—


詐欺師「探さなくていいから、ネットバンキングとかで見れるんじゃない?」

純粋くん「あ、ネットバンキング? 実は、パスワードを忘れてロックされちゃってるんです。銀行に行って再発行してもらおうかなって」

詐欺師「じゃあ、クレジットカードでもいいよ」

純粋くん「クレジットカードですか? あ、これも上限いっぱいで使えないんです。いやー、サブスクいっぱい登録しちゃって! あいの里見すぎまして」

詐欺師「......どれか一つくらいまともに使えるのはないのか?」

純粋くん「そうですね、あ、ペイペイなら少し残高ありますよ! QRコード送りますか?」

詐欺師「QRコードじゃなくて…...いや、もういい。次だ! じゃあ、今度は君が住んでるところの住所を教えてくれ」

純粋くん「いま住んでる場所ですね。住所は確か…...あ、でも今月末に引っ越す予定なんですよね」

詐欺師「なんなんだよお前。引っ越す? いや、現住所でいいんだよ、今の住所を教えてくれ!」

純粋くん「今の住所って、あ、僕、引っ越し準備で住所書いた紙がどこかに行っちゃって......もう少し待ってもらえれば、新しいところに引っ越すので、その住所を伝えられるんですけど」

詐欺師「......頼むから、今すぐにでも教えてくれないか?」

純粋くん「わかりました、えっと確か…...あれ? 番地がどっちだったか忘れちゃって」

詐欺師「ちょっと待ってくれよ、これじゃ何も進まないじゃないか! 君、本当に応募したいのか?」

純粋くん「もちろんですよ! 高収入のバイトには憧れてて! ラクしたいんで!」

詐欺師「もういい、今度は次の仕事を紹介してやるから、とにかく絶対に遅れるなよ。明日、指定する場所に来てくれ」

純粋くん「分かりました! でも、ちょっと道に迷いやすいんで、駅から近いところがいいです」

詐欺師「まあ、駅から近くにするよ。あとは時間通りに来るだけだ」


翌日、詐欺師が待ち合わせ場所で待っているが、純粋くんは現れない。



詐欺師「あいつなんなんだ? まさか、本当に来ないのか?」


その頃、純粋くんは友人と駅の反対側で道に迷っていた。彼は詐欺師を困らせるつもりはなかったのだが、どういうわけかいつも最後にはうっかりかわしてしまう。


詐欺師「もうやめた! こんなに手間のかかる奴、見たことない!」


純粋くん「あ〜ラクして稼げるかっこいい仕事したいなぁ!」


[つづく]

〈あとがき〉
ダメ、ぜったい。簡単に稼げる仕事はこの世にありません。ちゃんと働こうね。今日も最後までありがとうございました。

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