私をコテンパンにした人。
小学生のころ人口2万人の小さな町に住んでいたのだが、町内には小学校が5校くらいあった。
私は5校の中で最も大きな小学校に通っていたのだが、5年生のときに町内の小学校対抗ドッヂボール大会があった。各学校からドッヂボール強者を選抜し、5校で優勝を争う対抗戦である。
私の所属していたチームは危なげなく決勝戦まで勝ち進んだが、決勝の相手は町内でもド級の田舎で知られる地区、裏東小学校(仮名)のチームだった。
裏東小学校は学年人数が10人以下であり、全員が農家の息子である。なぜかはよくわからないが、相手メンバーは全員スポーツ万能で知られ、あまり言葉を発さない奴らだった。当時の私たちからみると異質というか、ミステリアスな連中だった。
白熱の決勝戦は私以外のメンバーの活躍もあり、勝利に終わった。試合中の私はというと、相手チームを数人ボールでめったうちにしたが、途中、相手男子から投げられたボールが顔面に直撃し鼻血を出した。一度出た鼻血は全く止まらず私はおいおいと涙目で途中交代。
相手メンバーの中にひときわイケてる顔の男の子がいた。名前を藤堂(仮名)という。スラリと伸びた身長、ドッヂボールをやらせればうなる剛腕。彼の実家の農家は裏東地区で最も大きな農園を経営していると聞く。私の顔面にボールを無表情でぶん投げたのが藤堂その人である。
中学校にあがると、散らばっていた5校の生徒はみな同じ中学校に進んだ。裏東小学校の連中も同じ学校に通うことになる。
いざ同じ学校に通い始めるとわかったのは、藤堂がとても素晴らしいハイスペック野郎だということだった。色白で高身長、爽やかな性格。勉強をやらせれば学年で5本の指に入る秀才。それでいて敵を作ることもなく誰とも分け隔てなく接する。そんな藤堂だから女子もほっとかない。
つまり藤堂は、町内のほぼ全ての男子の上位互換のような男だった。かといって誰からも妬まれていない。
中学2年生のころ、私にはじめての彼女ができた。付き合っていた期間は半年に満たなかったような気がするが結局フラれてしまった。理由は「つまんないから」だった気がする。それはもうとてもショックだった。
風の噂で元カノが私と別れてすぐ、藤堂と付き合っているらしいということを聞いた。
私は藤堂と話したことがない。同じクラスになったこともないし、部活もちがったからだ。
また少し時が経って私にまたも彼女ができた。でも案の定すぐにフラれてしまった。理由はまたまた「つまらないから」だった気がする。
するとまたまた風の噂で次の元カノが私と別れてすぐ、またまた藤堂と付き合っているらしいという話を聞いた。なんだ? なんなんだ? 俺は藤堂の専門予備校か?
先ほど私は「藤堂は町内のほぼ全ての男子の上位互換のような男」と書いたが、厳密に言うと「私の上位互換のような男」だったということになる。
小学校のときまではキラキラしていた私なのに、中学校にあがるとやってきた藤堂。全ての項目で私を上回る藤堂である。
強がりで書くが、当時の私は藤堂のことを妬ましいとは思っていなかった。全くうらやましくもなかった。こいつには勝てないんだと思ったものである。
同じような構図がどこにでもある気がする。
歌、文章、創作、演技、仕事、起業、家族にエトセトラ。
誰にだって勝てなかった相手がいるはずなのだが、胸の奥にしまいこんですっかり忘れて腫れ物のような扱いになっている。
同じような構図は大人になってもあるような気がしている。つまり、上を見ればキリがないわけである。
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