時間よ、止まれ。
時間は止まってくれない。
どんどん仕事が押し寄せてくる。
昨日。平日の帰り道、いつものように札幌市内中心部の大通公園を歩いていた。1人で。テクテク。とぼとぼ。
全国各地の大きな公園がそうであるように、大通公園にはベンチがある。
つめれば4人は座れるベンチが等間隔でならんでいる。休日になるとそれらのベンチは全てが人で埋まる。
私が歩いていたのは平日の夕方で、仕事終わりのサラリーマンらが歩いている時間帯だった。ベンチを見ると、人はまばらなものの、キレイに横に並んだベンチに座って休む人もチラホラといる。
仕事終わりに缶チューハイを飲みながら談笑する人たちもいて、私は心からうらやましいなと思う。
テクテクと大通公園を歩く。
私の左側にはベンチが並んでいるが、5メートル先のベンチにカップルが座っている姿が目に入った。制服を着ている。高校生のようだ。
男の子が右手を大きく伸ばし、女の子がその腕に包まれている。なんなら女の子の頭は男の子の首もとにうずめられている。
GOOD!
ラブラブじゃん。
と思って、男の子の顔を見ると、無表情で空を眺めていた。女の子は男の子の首もとに顔をうずめてじっとしている。つまり会話をしていない。
恋人たちの時間ってやつだね。
よくあるやつ。なんか女の子が顔をうずめて、男の子は黙って胸を貸している。そこに会話はないあの感じ。たぶんだけど、誰もが経験しているあの感じ。思わず変顔したくなるあの感じ。
そー、GOOD。
いいものを見させてもらった、と思いながら大通公園を歩いていると、またベンチに座る男女が目に入ってきた。私が歩く7メートル先に座っている。別の男女だ。カップルだ。
これまた男の子は右腕を伸ばし、女の子を包んでいる。うすいガラスを持つように、やさしく女の子を包み込んでいる。
女の子を見てみると、先程と同様、また男の子の首もとに顔をうずめてじっとしている。全然動かない。
またかぁ。
「てことは?」と思って男の子の顔を見てみた。
これまた先ほどと同様、空をまっすぐに見つめて無表情だった。女の子はじっとしている。男の子は空を眺めてじっとしている。
またかぁ。
いいねぇ。
変顔は我慢してるのかなあ。
2連続で同じ光景を見たねぇ、と思って胸をほくほくさせた。「どうして会話をしないんですか?」という野暮な質問はしない。恋人たちの時間を邪魔するおじさんにはなりたくない。
と思って、また大通公園を歩いた。
「あぁ、疲れたかもなぁ」なんて思いながらズンズン歩みを進めると、またベンチに座るカップルが目にとまった。私が歩く先4メートルにいる。
男の子は私服で、女の子も私服。
夏らしく白いTシャツを2人で着て座っている。
大学生だろうか。
そして、
男の子は右手を伸ばし、女の子はその腕にそっとくるまれている。女の子の顔は男の子の首もとにうずめられ、これまたじっとしている。
これは……
と思ってワクワクしながら男の子の顔を見る。
無表情で空を眺めていた。
当然、会話はない。
恋人時間だ。
笑けてきた。
3連続で恋人時間を見た私が思うのは、
ベンチに座る恋人たちは、なぜか男の子が腕を伸ばし、女の子は彼の首もとに顔をうずめる。
ということであり、
なおかつ、そのときの男の子は空を眺めて無表情になる、ということである。
2人とも無言で。
そこに会話はいらないのだ。
……これって
カニを食べている時間に似ている。
カニをほじくり出すとき、私たちは無言になる。それ以外考えられなくなる。世界の行く末とか、将来の展望、ドル円レート、いま抱えている悩みなどは全て消し飛び、手元のカニのことしか考えられなくなる。
蟹時間だ。
恋人同士が抱き合ってる時間と、人がカニを食べている時間ってのは、限りなくその時間感覚が近似するものなんだなぁ、と思う。
これぞ、ストップザタイム。
まさしく「時間よ、止まれ」である。
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