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妖精たちの仕事。

13時過ぎからのアポイント中に「こんな大変な仕事を頼めるのはイトーさんしかいません」と言われて自尊心があがった。俺ってば、仕事してるんだなぁとありきたりに思った。

アポイントがおわって、どうしようもなくお腹がすいていることに気づいた。そういえば朝からなにも食べていない。ここいらで胃の中に何かを入れたい。そういうわけで、セイコーマートに行った。

セイコーマートは北海道が誇る、原点にして頂点の、知る人ぞ知る、最強ローカルコンビニである。どこかのお店に入ってランチでも食べようかとも思うが、どういうわけか時間がない。時間がないのでセイコーマート。ここにはホットシェフがある。

母なるホットシェフ。要はあたたかい店内調理。ホットシェフというくらいだから、おにぎりやお弁当はほかほかしている。なぜならコンビニ内のバックヤードで何人かのスタッフがいつも食材を調理してくれているからだ。

むかし付き合っていた恋人がケーキにひたすらイチゴを乗せるというアルバイトをしていたことがあった。彼女はこう言っていた。


「ダーキくん、あたし、イチゴ乗せすぎて、自分がイチゴ工場の妖精になっているみたいだった。すっごく楽しかった。イチゴの妖精ってかわいくない?」

ホットシェフには、ほかほかの唐揚げ詰め合わせが売っている。ザンギ味、うま塩味、なんとか味と分かれており、私はうま塩味が好き。それで商品陳列棚の窓をあけてうま塩味の唐揚げを手に取ろうとした。すると、うしろからセイコーマートのおばちゃんがやってきて「はい、お兄さん、出来立てホヤホヤ! おいしいよ!」と言う。おばちゃんが私の手にうま塩味の唐揚げを持たせてくれた。ありがとうございます! と元気に答えてレジに向かう。

レジには誰もいなかったのだが、商品陳列をしていたスタッフがレジ前の私に気づいてパタパタ走ってきた。40代くらいのお姉さんだったが、笑顔で接客をしてくれたので私も笑顔で会計をする。


この人たちはセイコーマートの妖精みたいですね。

店を出て、目の前にあったベンチに座った。それでできたてのうま塩味の唐揚げを食べていく。周りに目を向けると、ある居酒屋さんの店先に食品サンプルが並んでいるのだが、その位置を微調整するおじいさんがいた。となりの道を見るとトラックが停まっていて、知らないおじさんが荷台から大きな荷物をエイサと運んでいる。

あれ? と思ったので、座っていたベンチのうしろを見てみた。道の落ち葉を掃き掃除しているおじいさんもいた。私が座るベンチの前をスーツ姿のお兄さんが横切ったかと思うと、お兄さんは電話で誰かとしゃべっている。

みんな何かの仕事している。

この人たちみんなの背中に羽が生えていたとしたら、きっとカラフルな色味の鱗粉をまき散らしながら仕事をしている。みんな働いている。往年の名作キャッチコピー「世界は誰かの仕事でできている」を思い出す。

むかし付き合っていた彼女から「イチゴ工場の妖精ってかわいくない?」と言われた私は、工場の中でたくさんの小さな妖精たちが一生懸命にイチゴをケーキに乗せている姿を想像した。きっと甲高い声で「たいへんだ! たいへんだ! 急げ〜!」と言っている。そういう妖精たちの姿を思い浮かべて、それはとてもかわいいことだと思った。


自分が妖精だとしたら、どんな姿だろうなと考える。

どんな表情で、どんなコミカルさで、どんな一生懸命さで、どんな鱗粉をまき散らしながら働いているんだろうなぁ。


<あとがき>
「イチゴ工場の妖精かと思った」と言われたとき、私はおおいに笑ったもので、その豊かな想像力と表現力に脱帽したものであります。このあともカフェにいったり、まただれかと会ったりしたのですが「この人が妖精だったらどんな姿だろう?」と想像すると、妙な愛くるしさがあって、世界を抱きしめたくなりました。今日も最後までありがとうございました。

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