大人のダッシュって怖くね?
仕事を終えて車を運転していた。
札幌市内を南北につらぬく、通称「石狩街道」を南に向かって車を走らせた。時刻は20時を過ぎている。太陽はとっくに西のはるか向こうに沈んで、夜の闇が札幌を包む。
石狩街道は片側3車線で交通量が多い。当然、信号も多い。
鼻くそをほじくりながらアクセルに右足をのせた私は、前方の信号が赤信号であることを確認した。
ブレーキをゆっくり踏む。
むかし付き合っていた元カノと、付き合うか付き合わないかのときのドライブデートで、イキり倒してそう言ったヤツがいた。
私だ。
いまなら思う。運転が本当に巧いヤツは、ブレーキとアクセルではなく、車内の温度調整が巧いんだよ。
なんてことを思いながら赤信号で停止する。青信号を待つ車列の最前列である。後ろにも隣にも、ヘッドライトが煌々と光る車だらけだ。
横断歩道を歩く人たち。
自転車も目の前の横断歩道を通過する。
…
目の前の信号が、まもなく青に変わるか変わらないかのときだった。
私の視線の左側から、一人のサラリーマン風の男性が猛ダッシュしている姿が目に入った。点滅する歩行者用の青信号を確認し、この石狩街道を横断したいのだろう。
繰り返すが、石狩街道は交通量が多い。片側3車線だ。石狩街道を徒歩で横断しようとすると、割合ながい時間がかかる。点滅する青信号の中で、この道を横断するってのは至難の業。
が、サラリーマンは猛ダッシュ。
もう、横断したくて仕方ないんだろう。
どれくらいの猛ダッシュだったかというと、そうだな。
引くほどの猛ダッシュだった。
小学生のころ、徒競走で100mを走ると、学校で一番足の速い子で13秒台だった。高校生になるとたまに11秒台のヤツもいた。
横断するサラリーマンの猛ダッシュは、限りなくそれに近いような猛烈ダッシュ。奥さんの出産に立ち会いたいのだろうか。そうに違いない。なら仕方ない。
なんて考えながら、暗闇の中をダッシュするサラリーマンを見て私が思ったのは、
大人になってから、
猛ダッシュする人ってなかなか見ない。
小学校、中学校、高校のときは毎日ダッシュしていたのに、大人になってからはぱったりダッシュなんてしなくなる。
大人のダッシュって、とてもおもしろいな。
ダッシュする人って、
ダッシュのことしか考えてないよな。
とにかく怖いよ。
道を歩いていて、後ろからドッタラドッタラと音が聴こえてきたとする。走る人の気配だ。この気配を感じたら、次に想起する感情はこうだ。
怖い。
大人のダッシュって怖いなぁ。
と思いながら、前を見ていると、サラリーマンはきちんと石狩街道を横断できたようだった。息が上がっているのかどうかは暗いので確認ができない。
そう考えて、運転をしながら次に思ったのは、
なんでだ?
何を急いでいるんだろう?
学校の廊下には張り紙があった。
大人になってから廊下を全力でダッシュしている人を見たことがない。オフィスビルの中でも見たことがない。子どものころはみんな走っていたのに。
なぜだろう。
子どものときの私は、いったい何に追いかけられていたんだろう。
時間かな。
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