vol.6「自分の頑張り次第でどうにかなる。」ロッジ山水(牡蠣養殖・渡船・民宿)上地建一郎さん
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今回の「しごとカード」インタビューは、釣り好きの間で「チヌ(クロダイ)釣りの聖地」と呼ばれている紀北町・白石湖畔で、渡船・牡蠣養殖・民宿を営む『ロッジ山水(さんすい)』の上地 建一郎(うえち けんいちろう)さん。
太陽の光を浴びながら体を動かして汗をかく。お客様の「おいしい!」という笑顔を楽しみに、時には冬の海の冷たさに耐えて作業する。そんな紀北町の自然と共に仕事する気持ちよさと、人と関わる仕事の喜びをステキな笑顔で語っていただきました。
この記事は「しごとカード」に登場していただく“紀北町で働くひと達”に、地域おこし協力隊・豊川がインタビューしていくシリーズです。
あなたは、どんな風に働きたいですか?どんなところで、どんな人たちと働きたいですか?あなたが、自分に問いかけ、自分の中にある答えと出会っていく。そのきっかけに、この note がなれたら嬉しいです。
※しごとカードは、紀北町でいきいきと働いている人たちが「仕事との出合いかた」「仕事の魅力や喜び」「紀北町のスキなところ」等を、これまでの人生のエピソードを交えながら、若い世代の人たちに向けて語ってくれたことをカードにしたものです。
1.チヌ釣りの聖地
ーー今の仕事に就くまでの経歴を教えて下さい。
上地さん(以下、敬称略) 1987年(昭和62年)紀北町相賀(きほくちょう あいが)生まれです。地元高校を卒業後、福祉を学ぶために大学(三重県名張市)へ進学。大学卒業後は伊賀市で数年間福祉関係の仕事をした後、地元へUターンし家業を手伝い始めました。
ーー上地さんの仕事を教えて下さい。
上地 家業である『ロッジ山水』は、民宿・渡船・牡蠣養殖を営んでいますが、自分は主に牡蠣養殖と渡船を担当しています。
ーー渡船の仕事は、どんなことをするのですか?
上地 釣りのお客さんを、白石湖(しらいしこ)に浮かんでいるイカダ(釣り場)まで、船で送迎します。お客さんは、今の時期だと朝5時半頃から夕方5時頃までイカダにいて釣りをしています。その送り迎えとお弁当が必要な人にはお弁当を運んでいます。それが渡船の仕事になります。
チヌ(クロダイ)
白石湖では、チヌ(関東では「クロダイ」と呼ばれている)がメインターゲットで釣れます(上部写真)。テレビでも時々紹介されているんですよ。白石湖は冬でも水温が下がりにくいので『チヌ釣りの聖地』と言われています。
2.強い牡蠣の子ども
ーー牡蠣養殖は、どんなことをするのですか?
上地 秋は、牡蠣の子ども(タネコ)の出荷で忙しい時期です。
タネコは、牡蠣の子ども。指の爪先ほどの大きさ(約0.3mm)で、ホタテ貝の殻に付着させて生育し、1年ほど経つと出荷します。白石湖のタネコは、世界遺産熊野古道の神々の森林茂る、本州一番の雨量の尾鷲地方から流れ込む綺麗な水と、黒潮躍る熊野灘の海水がミックスされた『汽水域(きすいいき)』で育まれるため、海水変化(真水・潮変化・濁りなど)に強いタネコとして評判が良いそうです。(『ロッジ山水』さんHPより一部引用)
うちは、白石湖で育ったタネコを岡山県や石川県へ出荷しているんです。地域によっては、潮の流れが速すぎてタネコが取れないところもあります。白石湖は流れが緩やかで(牡蠣が)子どもから大人まで育つので、タネコが取れない地域に販売しています。
ーータネコが紀北町から岡山や石川へ?
上地 そうです。三重県産の牡蠣(タネコ)が岡山県や石川県で育ち、その地域で食べられているんですよ。ちなみに、タネコはホタテの殻に付いたままの形で出荷されます。そのホタテの殻(上部写真参照)は、青森県や北海道からやってきます。牡蠣養殖に関連したものが、日本国内でいろいろと行きかってますね(笑)。
白石湖の牡蠣は強いと言われています。海水だけで育つ牡蠣と、真水が入る汽水域で育つ牡蠣では、厳しい環境で育つ牡蠣のほうが丈夫なんでしょうね。事業者としては環境負荷に強い牡蠣の方が良く育って出荷率も上るので「ここのタネコじゃないとダメだ。」とおっしゃる方もいます。必要としてくれるお客様がいるんだと思うと、やりがいを感じますね。
ーー白石湖で大きくなるまで育つ牡蠣もあるんですよね?
上地 はい、あります。それは、販売用の牡蠣です。販売用の牡蠣は、ロープを付け替えてから、引き続き育てます。
ーーこれからの時期は、どんな作業になりますか?
上地 冬に向かっての作業は、育ってきた販売用の牡蠣を綺麗にしていく作業があります。牡蠣殻にゴミなどがついているので、ゴミをナイフで削り取って見た目を美しく仕上げていきます。
ーー地道な作業ですね。
上地 そうなんです。見た目が綺麗じゃないと売れないので、手間がかかりますが、ちゃんと掃除をしていきます。
ーー牡蠣の出荷はいつ頃から始まりますか?
上地 昔は11月頃からだったようですが、今は12月ぐらいからですね。そこから、3月いっぱい位までです。
ーー私は牡蠣が大好きなんです!Uターン移住してきて、冬の楽しみは渡利がきなんですよ。今から本当に楽しみにしています。
上地 牡蠣の美味しさが本格的になるのは、年を越えてからの1月2月になります。ぜひ、年明けに食べにきて下さい。
3.よそでの修行はだいたい3年ぐらい。
ーー仕事は、だいたい何時から何時までやっていますか?
上地 朝5時から夕方6時ぐらいまでかな。
ーー朝5時ですか?!
上地 はい、釣りのお客さんは日の出から日没までになりますので、その時間帯になりますね。ただ、1日中仕事が詰まっているわけではないので、客足によって適宜休みを取ったり、お客さんがいなければ休日にしたりしています。
ーー企業に勤めている時と今の仕事では生活ペースが全く違うと思うのですが、今の仕事を始めた当初はいかがでしたか?
上地 この仕事は肉体労働なのでUターンしたばかりの頃は大変でしたが、今となっては楽しいです。
ーー福祉の仕事を辞めてUターンされたとのことですが、時期を予定していたとか、親御さんから何か言われたとか、きっかけがあったのですか?
上地 自分の中で『よそでの修行は、だいたい3年ぐらい』という目途を立てていました。親父も年をとってくるので、自分も加わって家業を手伝えたらいいな、と思っていました。
ーー小さい頃から家業を継ぐことをイメージしていたのですか?
上地 そうですね、「自分もこの仕事をするんやろな。」と思っていました。最近は地元に帰ってきて後を継ぐ人が少なくなってしまって「寂しいな」という気持ちはあります…
ーー自営業・家業があるということに対して、何か思うことはありますか?
上地 「責任は自分にある」「自分の頑張り次第でどうにかなる」いう思いでやっています。責任感は培われていきますね。雇用されていると給料は決められているけれど、自分でやっていたらそこは自分の頑張り次第なので、やりがいも結構あります。もちろん、リスクもありますけど(笑)。
4.まぁ、帰る。
ーーUターンを決めたとき、親御さんにはどうやって話をしたんですか?
上地 「まぁ、帰る。」(そろそろ帰ります、の意)と言いました。自分の中で『3年経ったら帰る』と決めていました。加えて、屋内の仕事よりも外で身体を動かす仕事の方がしたいと思っていたのもあって、自分で決めた時期がきて、自然に「帰る」と親に言ったという流れです。
ーー「まぁ、帰る。」と伝えた時の、親御さんの反応は?
上地 特にこれといった反応は無かったです。ちなみに、それまで親は「継いでほしい」とも「帰ってこい」とも1回も言ったことがありませんでした。
ーーそれはすごいですね。
上地 自分にとってはそれが良かったです。福祉の仕事は「辞めた方がいいんじゃないか」と思うこともあり、自然環境が悪くなってきたのもあって、「もう帰ろう!」と決めました。自由に考えさせてもらって、自分で決めさせてもらったのは本当に良かったです。
5.お客さんの反応が楽しい。
ーー小さい頃は、家業の手伝いはしていましたか?
上地 はい、親父のうしろについて船に乗ったり、どんな仕事をしているかは見ていました。イカダもスーッと渡れていました。
ーーそれなら即戦力になりますね。親御さんも建一郎さんが帰ってきてくれて心強かったでしょうね。
上地 親は口には出しませんけど、きっとそうでしょうね(笑)。ゼロから人を育てるよりは、だいたい分かっている人間が来てくれた方がいいと思います。
ーー今の仕事(渡船・牡蠣養殖・民宿)は、それぞれに楽しさは違いますか?
上地 大きくまとめるとすべてお客さん商売になるので、やっぱりお客さんの反応が楽しいですね。
釣りのお客さんには、釣ってもらいたい。お客さんの釣れて嬉しそうな顔を見ていると自分も嬉しいし、「また来るね。」と言ってもらえると嬉しいですね。
牡蠣のお客さんも「美味しかったよ」「また買わせてもらうね」と言ってもらえると嬉しいし、やりがいを感じます。
ーー釣り客のかたは、釣れる前と釣れた後では表情が全然違うんでしょうね。
上地 そうなんですよ。だから、釣らせてあげたいと思うんですけど、お客さんの腕も必要なので、そこはどうにもならない部分もあります(笑)。
釣りのお客さんが釣ったときの顔や、牡蠣を食べて「美味しい!」と言ってるお客さんの顔を見ているのが楽しいんですよね。
ーー仕事に於いて、大事にしていることや、こだわりは?
上地 お客さんとのコミュニケーションを大事にしています。ちょっとしたことでも話しかけるようにして、コミュニケーションをとるようにしています。他には、釣りを安全に楽しんでもらえる、牡蠣を安心して食べてもらえるように、「安全・安心」を大切にしています。
ーー今までで印象に残っているお客さんは?
上地 釣りのお客さん同士で仲良くなって、チームが出来ています。そのチームで、ここに集まってバーベキューしたり肉を食べたりして交流しています。
ーー山水さんに来て釣りをして、友だちが出来て、釣り以外でも集まって遊んで、ということですか?
上地 はい、そうです。うちによく来て下さる方同士が顔見知りになって、気が合う人たちで仲間になって遊んで、という「つながり」が出来ていくのを見ているのも楽しいです。
6.自然に続けられること。
ーーこの仕事を始めて、嬉しかったことは?
上地 チヌ(クロダイ)は、50cm以上のものは釣れるんですけど、60cm以上のもの(別称:ロクマル)は、なかなか釣れないんです。10年間釣りをやっていて2枚3枚釣れる程度の珍しさなんです。それが、ここでロクマルの大型のチヌを釣り上げてもらいました!それを見られた時は本当に嬉しかったです。感動したのと同時に、「こんなデッカイのがおるんや!」とビックリしました。
ーー仕事でつらいことはありますか?
上地 辛いことは…(しばらく考えて)寒い!冬場は、牡蠣を収穫するために海に出るので、その時は寒いですね。冬の海の冷たさが辛い、ということで(笑)。
ーー上地さんにとって、仕事とは?
上地 うーん、自分にとって、仕事とは『自然に続けられること』かな。
自分の場合は、この仕事は家業なので小さい頃から馴染みがあったし、よそへ出ても帰ってきて従事しようと思っていたことだし、身体を動かすことが好きで、自然な流れでこの仕事に就いて、無理せず楽しんで出来ています。だから『自然にやれること・自然に続けられること』が仕事かなって思います。
ーー好きな言葉は?
上地 『明日は、明日の風が吹く。』です。
ーー紀北町の好きなところ、好きな場所は?
上地 紀北町の好きな場所は、白石湖かな。好きなところは、ひとが優しい。時間の流れがゆったりしているところも好きです。
7.紀北町に帰ってきたらええよー。
ーー二十歳の頃の自分に言葉をかけてあげられるとしたら?
上地 「地元に帰ってよかったよ。しっかりやれてるよ。」と言ってあげたいです。
二十歳の頃は、大学の専攻を活かした会社勤めの社会経験を3年して、地元に帰ろうと思っていました。あの頃の自分に「地元に帰ってしっかりやれているよ。」と言ってあげたら安心するかなと思って、この言葉を選びました。
ーー若い世代のひとたちに声をかけるとしたら?
上地 『身体を動かして、自然の中で太陽の下で仕事をしたい』というひとには「紀北町に帰ってきたらええよー」と言いたいです。絶対おすすめです。自然相手の仕事は大変さもありますが、人間関係の煩わしさが少ないし、早寝早起きで身体を動かして汗をかいて気持ちいいです。
都会で仕事や人間関係のストレスを抱えて参ってしまっているひとは、ぜひ紀北町に帰ってきて身体を動かす仕事をして、気持ちよく美味しいビールを飲んでもらえたら、と思います。
ーー上地さんのお話をうかがい、美味しい空気や美しい景色、太陽の光など、身近にある恵みを改めて味わおうと思いました。シンプルな喜びを大事にしていきたいです。今日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
【渡船・牡蠣養殖・民宿『山水 』 上地 建一郎さんからのメッセージ】
・お客さんの喜ぶ顔を見ているのが楽しい。
・すべて自分次第。自分の頑張り次第でどうにかなる。
・仕事とは、自然に続けられること。
・明日は明日の風が吹く。
・外で体を動かして仕事した後の風呂上りのビールは美味しい。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回の ロッジ山水(渡船・牡蠣養殖・民宿)上地 建一郎さんのお話はいかがでしたか?あなたの中にある仕事に対する思いや大切にしていることを感じるきっかけになったら嬉しいです。
【取材先情報】
ロッジ山水 http://www.lodge-sansui.com/
〒519-3400 三重県北牟婁郡紀北町相賀122 TEL:0597-32-0573
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