【前編】vol.13「どんどん挑戦して、いろんな自分を見つけてほしい。」まおちゃんのおつかい便 世古真央さん
「好き」という気持ちが、お客さんに通じるんじゃないかなぁ。
地元の人(特に漁場の人)は、めっちゃ気前がいい。
「あれもこれも、全部買うわ!」と、値段も聞かずに買ってくれたりする。
そんな人だと余計に好きになる(笑)。
「きほくる | 紀北町魅力ナビ」にお越しいただき、ありがとうございます。
今回の「しごとカード」インタビューは、まおちゃんのおつかい便の世古真央さん(せこ まお)さん。
紀北町長島(きほくちょう・ながしま)で、移動販売やスーパー・喫茶店などを運営する『まおちゃんのおつかい便』を経営。
やりたいことが見つからないまま迎えた就活時期に、ある出来事がきっかけで起業を決めた真央さん。
起業のエピソードや仕事を通じて知った自分の能力、出産後の自分の変化など、飾らずに真っすぐ語ってくれました。
この記事は「しごとカード」に登場していただく“紀北町で働くひと達”に、地域おこし協力隊の豊川がインタビューしていくシリーズです。
あなたは、どんな風に働きたいですか?どんなところで、どんな人たちと働きたいですか?
あなたが、自分に問いかけ、自分の中にある答えと出会っていく。そのきっかけに、この note がなれたら嬉しいです。
1. 部活一色の高校時代
ーーこれまでの経緯を教えて下さい。
真央さん(以下、敬称略) 平成2年(1990年)生まれです。紀北町東長島で生まれ、育ちました。
東小学校、紀北中学校、木本(きのもと)高校、皇學館(こうがっかん)大学と進み、『まおちゃんのおつかい便』を起業しました。
ーー紀北町から離れた木本高校(熊野市)に行った理由は?
真央 オープンキャンパスに行った時に吹奏楽をみて「すごい!入りたい!」と思って、入学しました。
ーー楽器が好きだったんですか?
真央 音楽が好きだったんです。中学時代も音楽部に入っていました。高校の吹奏楽部では、クラリネットをやりました。
ーーやってみてどうでしたか?
真央 面白かったし、めっちゃ強かった。
私が3年生の夏の吹奏楽コンクールで(県大会から2~3校しか出られない)東海大会に進み、全国大会には行けなかったけど、金賞を取りました。
強いだけあって練習も大変で、朝5時過ぎの始発で行って授業が始まるまで練習。
授業が終わってからも練習して、帰宅するのは夜9時ごろでした。
ーー高校卒業後は、大学に?
真央 はい。私の高校時代は部活一色で、バイトもしたことなくて…
親がそんな私を見て「人間的に成長するための時間として大学に進学させてあげる。」と言いました。
「でも、一人暮らしするとお金もかかるから、家から通える大学を選びなさい。」とのことで、伊勢市にある皇學館大学に入学し、自宅から通いました。
2. やりたいことが見つからない。
ーー大学に入るとき、目標のようなものはありましたか?
真央 「これをやるぞ!」的なものは無かったです。
高校生の時はやりたい仕事や入りたい企業がなくて、「やりたいことが見つかるかも…」と思って大学に入ったけど見つからなかった。
見つからなかったと言うより、私はやったことがあること(経験)が少なすぎた。
実際、大学内よりも、当時やっていたコンビニバイトの方が社会勉強になったと思います。
ーーやりたいことが見つからない中で、どうして起業することに?
真央 大学3年生の秋に就職活動が始まって、先生から「新聞とニュースを見て、世の中で何が起きているのかを把握しておきなさい。」と言われて…
その頃、私はやりたいことが見つかってなかったから「先生の言うことだけはちゃんとやろう」と思って、新聞やニュースを一生懸命見ていました。
当時の私の祖父母の家は、祖母は免許がなく、免許をもっていた祖父も高齢になり運転が危なくなり免許返納することにしました。
ちょうどその頃、私は運転免許を取ったので、祖母の通院や買い物のための運転手をしていました。
そしたら、ある報道番組で山奥の地域で移動販売をしている男性の特集があって…
私は、その番組で初めて「買い物弱者」という存在を知ったんです。
買い物弱者とは
住んでる地域の過疎化が進み、近くの商店が廃業したり撤退したほか、足腰が弱くなって買い物をしたり生活に必要なサービスを受けるのに困難を感じる人たちのことをいいます。(技研商事インターナショナルHPより引用)
3. 長島でやったら売れるかも!
ーー報道番組が真央さんの起業のきっかけに?
真央 その番組をみたとき、『買い物弱者=うちのおばあちゃんのことだ!』と思ったんです。
車なら1、2分で行ける所でも高齢者は歩いていけないし、自転車も乗れない。
そんな人たちが、自分が住んでいる地域にはたくさんいるんじゃないか?と。
実際、祖母の家の周りにも同じような人達がいて「長島で移動販売をやったら売れるかも!」と思いました。
ーー「売れるかも!」だけで、起業しようと思ったのですか?
真央 「私はひとと関わるのが好き」と気づいたこともきっかけの一つかも…
私は高校時代までは人見知りだったのに、大学時代にバイトしたコンビニでお客さんとのやりとりが楽しくて…
「私はひとと関わるのが好きなんだ」って気づいたんです。
そんな中で買い物弱者のことを知って…
自分のおばあちゃんと同じような買い物に困っている高齢者と関わる移動販売の仕事を始めたいと思いました。
ーー「やりたい!」という気持ちが湧いたあと、どうしましたか?
真央 私は父が大好きで、「父の考えは私の考えです!」と言えるぐらいなので、まず父に相談しました。
そして、父は「失敗したとしてもそれは絶対自分の力になるから、やってみればいい。」と言ってくれました。
ーーお父さんが応援してくれたら心強いですね!
真央 お客さん探しから仕入れ先の確保など、起業の準備のほとんどを両親がサポートしてくれて、おつかい便を始めることができました。
4. おかずを売っているのに、おかずを貰う。
ーーおつかい便を始めたのは、いつですか?
真央 大学3年生の2月です。他にも、おつかい便を始めた年の10月に居酒屋を始めて、2017年からはスーパーも始めました。
ーーおつかい便をやりながら、自分の中心にあるものは?
真央 「お客さんが好き」という気持ちかな。
起業しようと思った時は「収入」や「儲かる」という視点だけでした。
でも、おつかい便をやっているうちに、お客さんがおつかい便を本当に必要としてくれていることや、私を待っていることが分かってきました。
起業時は「もしも失敗したとしても、自分の力になるから」と思っていました。
でも、おつかい便を始めてから「困る人がいるかもしれないから、休んではいけない。」「中途半端に辞めてはいけない。」と思うようになったんです。
ーーお客さんが待っていてくれるって、すごいですね。
真央 高齢者のひとは決まった時間に私が行かないと「事故とか、(私に)何かあったんじゃないか?」と心配する。
だから、いつもの時間どおりに行かなければいけないんです。
ーー心配させてしまうのは申し訳ないですものね。
真央 でも、私はお客さんと少しおしゃべりしたり、お客さんの「これやってほしい」に応えたい。
でも、それをやっていたら時間どおりに回れない。
そんな訳で、午後の空き時間に子どもをつれて、またお邪魔したりして(笑)。
(真央さんは2021年1月に出産されました)
ーー仕事が終わってから、また行くんですか?!
真央 お客さんと友だちみたいな関係になるのが楽しいんです。
ーーお客さんと仲良くなる秘訣は?
真央 自分の「好き」という気持ちが、相手に通じるんじゃないかなぁ。
地元のひと(特に漁場)は、めっちゃ気前がいい!「あれもこれも、はい、全部買うわ!」みたいな。値段とか聞かないし。
そんな人だと余計に好きになる(笑)。
私にコーヒーをくれたり、おかずをくれたりするんです。
私がおかずを売ってるのに、おかずを貰うって!(笑)
そして、おばあちゃんが作るおかずって、めっちゃ美味しい。「めっちゃ美味しかったよ!」というと、また作ってくれたりする。
ーー最初から仲良くなれたんですか?
真央 最初は人見知りもあって、どんな感じで接すればいいか分からなかったけど、すぐに慣れたかな。
たぶん、私はその人の顔色というか性格みたいなものを瞬時に分析しているんだと思います。
その人に応じた距離感で、この人には「これ、買ってよー」と言えるけど、あの人にはそれを言ってはダメ、みたいな。
おつかい便をやりながら、その人その人の距離感を分析したり、ひとによって距離の縮め方を変えることも出来るようになったんじゃないかな。
5. お客さんが減り、スタッフも辞めてしまったけれど…
ーー仕事をしていて嬉しかったことは?
真央 お客さんの遠くに住んでいるご家族がたまに帰ってきて、私と会った時に「お世話になってます」と言われると嬉しいです。
おつかい便のことをご家族に話してくれてるんだなぁって思うから、ご家族から言われると余計に嬉しい。
ーー仕事をしていて大変だったことは?
真央 おつかい便を始めた頃は、若いお客さんも結構いたんです。
でも、若い家族にとってパック売りの惣菜は割高だったのか、次第に若いお客さんが減りました。
その頃、惣菜づくりを頼んでいた業者さんが1軒でメニューが増えないこともあってか、だんだんと高齢のお客さんも減って…
そして、たくさん売れ残ってしまった。
当時は従業員がいたんだけど、その人の分しかお給料が出ずに辛かったです。
ーーお客さんが減ったのをどうやって改善したのですか?
真央 当時はおつかい便のフランチャイズを考えていて…
【後編】につづく・・・
後編では、辛い時期をどうやって乗り越えたのか、第一子の出産を経て芽生えた仕事に対する気持ちの変化などを語っていただきました。
後編はこちら ↓↓↓
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