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ハラスメントに耐えなければ起業できない社会?

2024年7月に開催された、日本最大級のスタートアップ・カンファレンス「IVS 2024 KYOTO」では、「EmpowerHER」という新しい企画が注目を集めました。

これは、女性起業家を巡るビジネス環境や、スタートアップ業界の多様性・公平性をテーマにしたセッションに特化したステージです。まだまだジェンダーギャップの大きい起業の世界で、どうすれば女性の起業家や決裁者がもっと活躍できるのか、3日間にわたって熱い議論が繰り広げられました。

▼参照/EmpowerHERに関する詳細はこちら

また、別のステージで行われた「起業家・VC・資金の多様性が照らす10年後のスタートアップエコシステム」というセッションでは、登壇者のひとりから「スタートアップの世界では、皆さんが思っている以上にセクシャル・ハラスメントが横行している」という話が飛び出し、改めて多様性やジェンダー平等に目を向ける機会となりました。


ここ数年、起業家や経営者に占める女性の比率は徐々に高まってきていますが、まだまだ男性が多数を占めています。

日本政策金融公庫「2023年度新規開業実態調査」より作成


起業家が新たにビジネスを起こし、それを成長軌道に乗せるまでには大変な苦労が伴います。その過程で、投資家や支援機関、業界のキーマンなどに頼らざるを得ない状況も生まれ、どうしても権力構造が発生してしまいます。

その権力構造がハラスメントの温床となってしまう、という指摘が以前からありました。そして最近、このような現状を裏付ける調査結果が発表されました。

それは、企業や社会人向けにイノベーション教育を提供する「アイリーニ・マネジメント・スクール」が発表した、「スタートアップ・エコシステムにおけるセクシュアル・ハラスメント:予備調査2024」というものです。

まず調査から見えてきたのは、下記のような現状でした。

・調査対象のうち、女性起業家の52.4%がセクハラ被害を経験
・被害者からの回答で判明した中では、加害者の44.4%は投資家・VC
・被害をすべて周囲に報告した人は14.8%のみ

被害の内容としては、以下のような結果です。

・不適切な発言(59.3%)
・回避困難な環境での不快な言動(44.4%)
・不適切な身体的接触(30.9%)
・望まない関係や見返りの強要(28.4%)
・デジタルツールでの不快な連絡(16%)

など

(自由回答コメント)
紹介画像より実物の方がかわいいね、と言われた
・起業支援組織メンバーから『ビジネスパートナーを紹介する』と言われて呼び出されたが、実際は合コンだった
・男性アドバイザーから『ただのおばさん』『ダサい』などと言われ続け、事業に対するアドバイスは一切もらえなかった
・(VC代表者から)『女性なのになぜ一人で起業したの?早く男性の共同設立者を見つけなよ』と言われた
など

これらの被害によって、どのような影響があるのでしょうか。調査によると、被害を受けた起業家は「精神的苦痛」「起業家・専門家としての自信低下」「仕事の意欲低下」「人間関係の悪化」など、事業に支障をきたすような悪影響を受けています。中には「経済的損失」と回答した被害者もいます。

ただでさえ、綱渡り状態を乗り越えるのに必死なスタートアップ経営者が、このような被害で事業を阻害されたら、たまったものではありません。

スタートアップ起業家の中には、世の中の課題を解決し、より豊かで生きやすい社会を実現しようという理想に燃えている人も数多くいます。あるいは、革新的な技術で世の中を進歩させようと命を削って研究している人もいます。

そんな起業家たちの理想が、ハラスメントによって途絶えてしまうというのは、あまりにもったいないですね。

このような状況が続いてしまう背景には、まだまだ男性優位な日本のビジネス環境があり、被害者を救済する制度の不足があります。

EIRENE Management School「スタートアップ・エコシステムにおけるセクシュアル・ハラスメント:予備調査2024」より

もちろん、すぐに解決できるものではなく、制度改革と意識改革の両方が伴わなければなりません。当事者だけでなく、社会全体で変えていく必要があります。

この調査レポートでは、解決に向けた提言のほか、予備調査の結果を受けての今後の取り組みなども紹介されていますので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

最後に、調査レポートの最後のメッセージから、印象に残ったフレーズを紹介します。

目指すゴールは明確です。「精神的・経済的なコストとリスクに耐え続けて活動する」か「夢を諦めて起業の世界から立ち去る」かという不公平な二択を完全に根絶することです。

ごく当たり前のことを言っているのですが、起業家がいかに不利な立場に置かれているか、それゆえに支援する側の意識改革がいかに重要か、改めて意識させられる表現ですね。



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