河原鶸
Twitterでたくさんの人がカワラヒワの俳句を発表していた。どうやら春の季語である河原鶸がお題として出されたらしい。
一野鳥を愛する者としてはこの「どこにでもいるけれど普段あまり注目されることのない小鳥」がにわかに脚光を浴びたのは大変嬉しかった。
何せ彼らは電線などの高いところにとまっていることが多いし、ぱっと見れば普通の人はスズメと思ってやり過ごすような地味な野鳥なのである。しかしよく見ればその深いオリーブ色の体はなかなか味わいがあるし、太いピンクのくちばしも愛くるしい。それに何といっても羽や尾のつけ根の黄色は目にも鮮やかだ。
それから彼らは声がいい。高いところでコロロコロロときれいな声で囀っている。いや、うっかり囀っていると言ってしまったが、これは彼らの囀り(つまりラブソング)ではなかった。
このコロロというきれいな鳴き声はカワラヒワたちの日常会話であり、時たまふと電線の上から聞こえてくる「ビ〜」というあのヘンな音こそ彼らのラブソングなのである。
私はしばし彼の音楽的センスを疑うのだが、実際は歌を求めるのはメスであり、オスはあくまでメスの好みのままに歌っているのである。彼らの普段のコロロという声とその美しい黄色い羽からして、カワラヒワに芸術のセンスが乏しいとは考えにくい。オスたちは「ビ〜」などというヘンな歌を歌わなければいけないことを内心不服に思ってはいまいか。私には電線にとまって囀る彼らの顔が不満げに見えて仕方ない。
ところで先だって本屋で作家の群ようこさんのエッセイをぱらぱらと立ち読みしていると、たまたまカワラヒワのことを書いておられた。群さんのお母さんは大変な生き物好きらしく、巣から落ちてケガをしたカワラヒワを拾って育てたら、これがとてもよくなついて可愛いのだという。ちょうどそのころ道で迷子になった迷いウサギも拾ってきて飼っていたそうなのだが、このウサギがなかなかのわんぱくで、たびたびゲージを脱走する。すると必ずカワラヒワが大きな鳴き声でウサギの逃亡を知らせてくれるのだという。それにあんまりウサギばかり可愛がりすぎるとすねて不機嫌になるそうだ。これは意外なカワラヒワの一面であった。
そのあと私は無性に彼らに会いたくなって、本屋からの帰り道をきょろきょろと見回しながら歩いていたが、とうとう出会えないまま家に着いてしまった。しかしきっとまたそのうちに会えるのだからかまわないのだ。
今日もカワラヒワたちはどこかの電線の上にとまって、不満げな顔で「ビ〜」と鳴いていることだろう。
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