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僕なりのエッセイ#1 「新宿」

ここは僕が小さい頃から憧れを抱いていた非現実な空間。寝ている間も時間が止まらず、酔っ払いと外国人と少し闇を抱えた人たちの欲望が渦巻きあっているディープな海底。ビジネス街であり歓楽街であり観光地でもあり、様々なカルチャーや思想が混じり合ってごった返しているカオスなスポット。そして僕が東京に移り住んで初めに望んだ街である。

きっと僕は自分が抱えている少しの闇も、この場所に溶け込み融和していくと信じていたのだろう。そして実際に、少年の頃から抱いていた漠然とした夢と小っ恥ずかしい主張が、人混みに紛れるだけでそれが消えていくと錯覚していた。あたかもこの街のイメージを作り上げる人物のひとりかのように演じることで、その魅惑の空間に浸っているのである。

このまま抜け出せなくなってしまったらどうしよう。酔っ払いのケンカや悪質なキャッチ、ドラッグ、暴力団、殺人。この場所は僕が本当の意味で足を踏み入れるには一回の人生では足りない。しかし現実になる前のその舞台から降り、ふと我に帰ると思うのである。

「新宿は綺麗だ。」

僕は今まで明るい新宿を知らなかっただけなのだ。案件が取れて生き生きとしている上司と部下。限られた休日で特別なディナーを楽しむカップル。ショッピングや観光を楽しむ家族。なんてことのない日常。これが真にリアルな新宿だ。僕が抱えていた闇は、闇でかき消されていたのではなく、光で照らされていたのだ。

今日も僕はここで夢を描く。ここは漠然とした夢と小っ恥ずかしい主張を叶える場所。偽られた空間で演じ続ける必要はない。新宿はリアルな主役となれる街だ。

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