手作りお菓子の恨みつらみ
夜中にケーキを焼くのが好きだ。
休日の明るいうちに焼くのとはまた違う達成感がある。
とりかかるのが夜遅い時間になってるだけなんだけど。
それでも、なにもうまくいかなかった日
お菓子が無事に焼き上がれば、やり切った疲労感でぐっすり眠れたりもする。
一番よく作るのはパウンドケーキで、材料は小麦粉、さとう、たまご、バターの4つだけ。
シンプルなレシピで材料もすぐ揃うから気に入っている。
2か月くらい前、やるせない1日の終わりにパウンドケーキを作った。
生地を混ぜているとき思いだすのは何年も前にお付き合いしていた人のこと。
彼のために焼いたパウンドケーキが美味しいと
あちらのご家族に好評だったのが嬉しくて今度は家族の皆様にとはりきってまた1本焼いたことがある。たしかシナモンとかぼちゃを混ぜ込んだやつだったと思う。
でもそのケーキは「俺に作ってくれたやつよりおいしくなかった。ちゃんと気持ち込めて作った?俺の周りの人も俺と同じくらい大事にしてよね。」と言われてしまうような出来だった。
後で思えば傷つく価値もないような失礼すぎるヤツなんだけど、その時は調子に乗って作ってしまった恥ずかしさと、美味しくないものを押し付けてしまった申し訳なさで、うつむいて謝るしか出来なかった。
結局1年ぐらいでその人とは別れたのに
深夜にひとりパウンドケーキを焼いていれば、嫌でも彼の事を思い出してしまう。
そして毎度ムカついている。
自分の正義を押しつけてくる時の語気が強い話し方、意味不明な理由でくどくど怒られる、ご自慢の黒い四駆の助手席。
何より、そんな男の理想の彼女になろうとしていた23歳の自分に腹が立つ。
そんな気持ちで焼いたのに、その夜のケーキはふんわり優しく出来上がった。
レモンの皮の黄色いとこだけすりおろして生地に混ぜ込んで、仕上げに果汁のアイシングをかけた、素朴なレモンのパウンドケーキ。
ウィーク・エンド・シトロンという素敵な呼び方もあるお気に入りの、ケーキ。
いわくつきスイーツ、どこへでも焼いて持っていきます。
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