iF×キッズデザイン ~いま、デザインが社会に問うこと:子どもという視点
第16回キッズデザイン賞は、世界的に権威あるデザインアワードであるiF DESIGN AWARD2023と連携した。キッズデザインの考え方を世界へ発信する意味、SNSで「いいね!」が交錯する時代、アワードという仕組みの役割はどこに向かうのか。双方に語り合ってもらった。
(髙田)iFは1953年から団体がスタートしていますので、70年の歴史があります。かつては工業製品の産業振興から始まりましたが、現在ではデザインの領域の垣根が低くなっているので9分野にまで広がってきました。世界的な新型コロナウイルスの影響がどう出るか心配もありましたが、今年はエントリーが増えていて、世界60か国から11,000点近い応募がありました。近年はアジア、特に中国からの応募が非常に多く4,000~5,000点、そのほか台湾から1,000点、韓国から1,000点、これだけで全体の6割程度を占めています。日本からは500点の応募があり、昨年の400点からは増えていますが、全体ではまだまだ少ないと私は感じています。一方、欧州圏は減ってきており、ブラジル、東欧、北欧圏が伸びています。日本ではiFを知っている方が多いわけではないので、待っているのではなく積極的に日本の優れたデザインを掘り起こし、日本のデザインをもっと世界へ発信したいと思っています。
(高橋)キッズデザイン賞は今回で16回を迎えており、「子どもたちの安全・安心」「子どもたちの感性・創造性育成」「産み育ての支援」の3つのデザインミッションを持っています。分野は幅広く、建築・空間からプロダクト、近年増加しているアプリケーション・サービス、活動や仕組みなどのコミュニケーション、ユニークなところではキッズデザイン製品開発につながる調査・研究などを対象にしています。この2年は新型コロナウイルス対策で子どもが健全な成長をサポートする「Beyond Covid-19特別賞」も設けています。
(髙田)iFも、当初は家電など輸出のプロダクツ中心で100~200点ほどのエントリーでした。もちろんこれらも優れたデザインでしたが、ドイツから与えられたミッションはそうではありませんでした。日本オフィスができた2013年当時は、日本のデザインに陰りが見えてきた頃で、本当は日本にはもっといっぱい良いものがあるから探してこい、というものでした。そこで、地方の中小企業やスタートアップ企業の技術、素材をもっているものを探してエントリーをお願いしてきました。普通に待っていたら出てこないもので、良いものがまだたくさんあります。特に「日本人らしいもの」、日本的な考え方がデザインに体現されているもの、ものの見方や日本人の感性が込められているものがもっと増えて欲しいと思いました。例えば、照明やキッチンツールなどの分野にアプローチして、エントリーしていただいたら、結果、受賞につながったものも多かったのです。日本のデザインの力を世界に見せることができたらと思います。
(高橋)デザインに多くの枕詞が冠される今の時代、キッズデザインは子どものためのデザインであるだけではなく、子ども目線で製品や仕組み、広くは社会そのものを見直していこうとしています。その点ではだれにも優しいユニバーサルデザインにもつながりますし、2030年を目標年とするSDGsでも、子どもという時間軸を持つ未来志向のデザインとして、その根幹は共通するものがあると考えています。
(髙田)キッズデザインのテーマである「子どもの視点」は日本独自のものだと思います。でも受賞作品の多くは黙っていたらiFには出てこないでしょうし、国際アワードのハードルは高いと思われているかもしれません。こちらが望むものが待っているだけで自動的に応募されるわけではないので、各国ともパートナーシップ連携を昨年から始めました。まず台湾、韓国で連携を始め、テスト的に実施したところ、うまくはまりました。日本でも空間デザイン賞と去年連携しました。iFでは、空間・建築は後からできた分野で、まだ審査対象数が少なかったので、特に期待が高かった分野でした。
(高橋)子どもの学び、発育を支えるとこの国のものづくり力もあがると思いますし、予防安全の考え方は結果として、この国の社会保障費を下げることにもつながります。さまざまな企業、分野が関係するのがキッズデザインです。高田さんがご指摘されたように、日本的なデザインの考え方だと思います。日本のものづくりはテーマが与えられれば、とてもクオリティの高いものがつくれると思いますが、未来を見て何をつくるかを考える、バックキャストの面が弱いと思います。そこに子どもという視点を据えると未来志向のデザインができる。世界的にも新しいデザインの考え方である、キッズデザインが世界から見てどう映るのか、とても関心があります。
(髙田)iFにはユニバーサルデザインというカテゴリはあっても、子ども目線でデザインを考えるという発想はありません。それが逆に斬新でした。市場は間違いなくあると思いますし、iF自身がそういう枠で考えていなかった。環境や空間を子ども目線でくくるという新しい考え方は、日本らしいデザインです。例えば欧州では子どもはひとりで寝かせるのが当たり前です。デザインはその国の文化や政策の違いが色濃く表れます。そういったことを吸収できることもメリットのひとつと考えています。将来的に、iFのなかにキッズデザインというカテゴリができるかもしれません。日本のキッズデザインを積極的に掘り起こして、ウェブや展示で発信したいと思っています。また、iFは中国成都に大きな展示場を持っています。例えば中国では「日本の安全・安心」はものづくりの鑑になっているので、こうした場で発信することで新たなマーケットができるのではないでしょうか。
この記事の続きは、キッズデザインマガジンへ遊びにきてください!