怪談No.05 命の重み

これは僕が短期のアルバイトで知り合ったバイトの先輩の話。その人は40代男性。

僕がバイトで氷の入った袋40kgを次々と運ぶ作業をしてるときに重い重いと愚痴をこぼしていたら、先輩が作業を手伝いつつも話してくれた話です。

これは先輩の知人Aさんが体験した話。

Aさんには長い間同棲している彼女がいた。最初2人とも結婚前提で付き合っていたそうだが、長い間同棲していると彼女がどんどんお金にだらしなくなっていったらしい。

その彼女は最終的にAさんが結婚資金を貯めていた口座から内緒で金を引き下ろし、ブランドものの服や化粧品などを買うようになったとか。

これが発覚したときAさんは怒りを通り越して諦めの感情が湧いてきてため、同棲しているマンションで彼女に別れ話を持ちかけた。

しかし彼女は別れ話を拒否して、泣きながらAさんに謝った。でもAさんの意思は固く彼女の涙の訴えに対しても決して揺らぐことなかった。

すると彼女が落ち着いたかと思うと、「Aくんと結婚出来ると思ってたのに、結婚出来ると思ってたから同棲してきたのに、全部無駄だね、ごめんね、、、私なんて最初からいなかったらよかったね。」と呟きベランダへと向かった。

このときAさんは彼女がケンカしたあとよくベランダでタバコを吸うから、また煙草かとしか思っていなかった。Aさんはイライラして少し彼女から目を背けた。

Aさんは彼女に目を向けると、彼女はベランダの外へ身を乗り出そうとしていた。

Aさんは焦ってベランダへ向かい今にも落ちようとしている彼女の腕を掴んだが、彼女は本気で身を投げようとしていたためAさんの差し出した手に捕まろうともしなかった。

Aさんは耐えきれず手を離し、不幸にも彼女はベランダから落ちてしまった。

Aさんは救急車を呼ぶが、彼女は帰らぬ人となった。

しかしAさん自身も彼女を掴んだときに腕がかなり引っ張られて腕神経叢損傷になったので、Aさんは入院することとなった。

この腕神経叢損傷は交通事故等で外から強い外力が腕に働いて腕の神経が損傷するというもので、指や肘、肩等が動かせなくなるというものだった。治療をしても全快することなどほとんどないというものだった。 

それにも関わらずAさんは腕神経叢損傷の手術が上手くいき、徐々に腕も動かせるようになった。

しかしAさんは日に日に顔がやつれてきた。

Aさんは医者にずっと「腕が重い、ずっと重い、彼女を掴んだときの重み抜けない!」と訴えていたそうだ。

現在も治療中らしい。


とここで話が終わった。

しかしバイトの先輩が上記の内容を話しているとき、なぜかウキウキしているように見えた。

僕はそんなテンションで話すことじゃないでしょうと軽くツッコんだ。すると先輩は笑いながら

「たしかにそうだな、でもAはこれからも妹の重みを忘れず苦しんでほしい。」

と言った。





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