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おみくじのルーツを探しに:エピソード2

二、良源上人と藤原安子

その夜、二人はそれぞれの家に帰り、正月のテレビ番組を楽しんだ後、自分の部屋で布団に入った。しかし、心の中でおみくじの始まりが少し気になっていた。やがて眠りにつくと、二人の夢の中にかわいらしい妖精が現れた。その妖精は、小学生くらいの女の子の姿で、髪にはおみくじのようなリボンをしていた。

「ねえ、起きて。おみくじがどうやって始まったのか、気になるでしょ?その秘密を一緒に探りに行きましょ!」

眠気まなこの二人は目をこすりながら、その妖精を見上げた。すると不思議なことに、二人は今日行った寺の境内に立っていた。

二人は驚いて妖精に尋ねた。「君は誰?」

「私は、おみくじの妖精ミクよ!あなたたちが今日、疑問に思っていたおみくじのことを教えてあげる。だから、一緒におみくじのルーツを探る旅に出かけましょう!」

二人は好奇心で胸がいっぱいになり、「わあ、面白そう!」と声を上げ、ミクとともにおみくじのルーツを探る旅に出かけることにした。

「今日お参りしたお寺にあったおみくじは『元三大師(がんざんだいし)みくじ』と言って、日本ではとても有名なものなの。このおみくじが、日本のおみくじの基礎になったのよ」

「へえー!でも、どうして日本ではこの元三大師みくじがそんなに有名なの?元三大師って誰?おみくじって、どこで引いても同じじゃないの?ねえ、海ちゃん!」良介はこんな真夜中にまた海と一緒に過ごせて、さらに一緒に映画のような冒険に出かけるなんて、心の中で跳び上がるような気持ちだった。

「慌てないで。それを今から教えてあげるわ。さあ、今日引いたおみくじを結んだ『吉むすび』を握りしめて、『オン・アロリキャ・ソワカ』と心の中で唱えてみて」

「えっ?何だって?」良介とミクは同時に聞き返した。

「『オン・アロリキャ・ソワカ』よ。これはマントラの呪文なの。その言葉を心の中で唱えてみて」

少し戸惑いながらも、海も『吉むすび』を握りしめ、「オン・アロリキャ・ソワカ」と心の中で唱えた。

すると、三人はなんと平安時代へとタイムスリップしていた。

「あれっ?ここはどこ?それに服装も昔のものになってる!」良介と海は戸惑いながら、ミクに尋ねた。

「ここは千年以上前の平安時代よ。天皇や貴族たちが住む宮中にいるの。この時代で、元三大師は良源上人(りょうげんしょうにん)と呼ばれていたの」

周囲を見渡すと、女性たちは十二単(じゅうにひとえ)をまとい、男性たちは束帯(そくたい)や衣冠(いかん)など、時代劇に出てくるような服装をしていた。そして、どこからか女性たちがざわざわと話している声が聞こえてきた。

「いらっしゃったわ!」「あの素敵なお顔をまた拝めるのね」そんな話し声があちらこちらから聞こえてくる。

「素敵なお顔」という言葉に反応して、海の「イケメン好きアンテナ」がぴーんと立った。「えっ?誰が来るの?昔のアイドル?」海は、他の女官たちよりも華やかな着物をまとった女の子に聞かずにはいられなかった。

「あいどる?それは何?良源上人様のことよ!あのお方のお顔はすごく凛々しくて、宮中の女人たちは皆、上人様に夢中なの。それで今日は、父上に会いに来たのよ。ところで、そなたたちは誰じゃ?」

「私たちは良源上人に会いに来た者で、私はミク、この男の子は良介、そしてこの女の子は海です。どうぞよろしくお願いします。今日は良源上人様が作られたおみくじについて教えていただきたくてやって来ました。あなたはどなたですか?」

「ああ、上人様が民を救うために作られたあのお札(ふだ)のことね。わらわは藤原安子(ふじわらのやすこ)です。それでは、後で一緒に良源上人に会いに行きましょう。でも、上人様に変なことをしたらダメよ」安子は、ちらりと海の方を見て念を押した。

この藤原安子という人物は、後に第六十二代天皇となる村上天皇の妃となる女性である。この時、安子は十三歳で、成明親王(なりあきらしんのう)(後の村上天皇)との婚儀を挙げたばかりだった。そしてその父は、朝廷内で多大な権力を持つ右大臣、藤原師輔(ふじわらのもろすけ)である。安子は、成明親王の妃としての責務を十分に自覚していたが、多くの女官が夢中になる良源上人にも同じように興味を持っていた。

良源上人は、後に天台宗第十八代天台座主(ざす)となるが、この時はまだ二十八歳であった。良源上人は十二歳で比叡山に上り、仏門に入った。そして、若くして多くの高僧と法論を行い、論破していたため、宮中でも一目置かれる存在であった。しかし、仏に仕える身として、女人たちが自分の顔に関心を持つことには、ほとほと困惑していた。


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