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Jenseits von Gut und Böse
かつては人は自然界の力に対して無力であり、巨大火山の噴火や感染症のパンデミックによって膨大な数の人が短期間に亡くなった。
人にとって自然界は、不条理に命を奪う畏るべき暴君であるとともに、自らの努力をもって征服し、制御するべき対象だった。
時代が下り、人が人以外の世界をすべて制御可能だと思い込んだとき、その鏡像として「自然は善」「人工は悪」と考える思想が増殖した。
地表を改変するための土木工学や、新生物を作り出す生命工学は蔑まれ、生物社会に調和を見出す生態学や、多様性を創出しようとする環境工学がもてはやされた。
しかし、嵐や津波といった巨大な力は、人が何を考えていようとお構いなしに、無慈悲にその命を奪う。
また、自然界の生き物は予定調和に従い理想の枠に閉じこもった存在ではない。
そこには子殺しもあるし、代表個体しか繁殖しない種もあれば、移入先で食物を食べ尽くそうとして激減する個体群もいる。
とすれば、自然界は全ての可能性を含んだ分母「∞」である。
そして、私達が「善」や「悪」と名付けたものは、私達が観念として自然界からつまみ上げた分子のひとつに他ならない。
「Jenseits von Gut und Böse」 von Friedrich Wilhelm Nietzsche