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六曜社のドーナツ

お昼過ぎから無性に六曜社のドーナツが食べたくなってしまった。六曜社は、京都河原町三条のアーケードに突如現れるレトロ喫茶。扉を開ければ、喧騒を忘れ、時の流れが止まる。あの空間で、六曜社のドーナツが食べたい。どう捌けば太らないだろうか。年中ダイエッターの私は、いつものように考え始める。

夜は飲み会がある。昼は秋の定食を目の前にして、いつもよりたんまり食べてしまった。つまり、調整できない。

仕事が終わってから飲み会まで、2時間ある。当初は図書館で時間を潰す予定だったが、この空腹感とドーナツへの想いを抱えた状態で、落ち着いて本を読める気もしない。

向かってみよう。並んでいたらやめよう。ドーナツも数に限りがある。お店に入れて、かつドーナツが残っていたら、今日はドーナツを食べる運命だったということだ。それなら、仕方あるまい。

お店に入ったら、ラスト1席。吸い込まれるように座り、自然な流れでドーナツとブランデー入りコーヒーを頼んだ。

この大きさで250円。安い。おなかいっぱいになった。

ブランデーコーヒーは、やさしくブランデーを漂わせる香り。だけど、口に入れた途端アルコール感がずっしり来る。どうしたらこんなにアルコールを閉じ込めておけるんだろう。

この日常では味わえない感覚をどうにか留めておきたくて、写真を撮ってみる。だけど、写真ではただのコーヒーにしか見えない。こんなに強烈に私へ語りかけているのに、写真に何もおさまらないなんて不思議。この感覚を自分の記憶の中にしか閉じ込められないなんて。きっと翌日には記憶は薄れているし、翌々日にはほとんど覚えていない。そんな自分に今からがっかりする。

ドーナツは、相変わらず弾力があってぼそぼそしていて、食感がいいとはお世辞にも言えない。けど、そこから噛むほどにあふれるほんのりとした甘さが癖になる。揚げたてとはいえない、何とも言えない温度感なのも、憎めない。完璧じゃない、だけど悪くないところがお店のレトロ感と合わさって、味が出ている。

その後の焼き鳥のお店も楽しみにしていたのに、おなかいっぱいになってしまった。六曜社でもっとゆっくりしていきたかったけど、30分早めに出て、歩いて消費することにした。また近いうちに来よう。ごちそうさまでした。

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吉野千明
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