チェックリスト
義父の四十九日で会食をした際、私が飲食店に忘れ物をしてしまったのだけど、気付いて持ち帰った親戚の方が、後日郵送で送ってくれた。
娘にお菓子も付けてくれて、本当にありがたく、私もすぐお礼をしたのだけど、「お礼をしなくては」より先に、自然と「嬉しい」という気持ちが湧いたことに、自分でびっくりした。
私の実母は、そういう時、真っ先に
「ちゃんとお礼はしたの?」
と聞いてくる人だった。もしくは、
「また忘れ物したの?」。
母なりに私をちゃんと育てようとしたとか、初めての子育てで必死だったとか、何とか良いように解釈しようとしてきたけれど、もういいよ。私は、ただ疲れてしまったんだ。
母の中には、常にチェックリストがあった。幼い頃なら「挨拶はできるか」「ハキハキしているか」「公共の場で大人しくしていられるか」、学生時代は「他所様に言えるような学校に通っているか」「中高生なのにメイクをしていたりしないか」「帰宅時間は遅くないか」、大学卒業後は「派手な格好をしていないか」「いつまでも未婚でいないか」。
孫である私の娘が生まれてからも、過剰なまでに電車内で目を光らせている母を見ていたら、疲弊はピークに達してしまった。うちの娘は幼少期から全くうるさくなかったし、言葉も遅くなく、人見知りでもなかった。母のチェックリストは順調に埋まっていたことだろう。
それでも、一緒に電車に乗った時に他人の子を見て「やあねえ、◯◯ちゃん(うちの娘)はあんなのじゃなくて良かったわ」と言っているのを見ていたら、もう私は気持ちが折れてしまった。
それでいて、弟の方には甘々なのも、呆れた。弟の子供は二連続男子で、なおかつ弟本人も嫁も放置系の人達だったので、よりによってホテルのレストランで赤ちゃんが泣きっぱなしだった。それ以来、私は、一緒に食事に行っていない。
チェックリストをつけられていたのは、私だけだった。そして、そのチェックリストは、埋まって当たり前のもので、何ら褒められるものでもない。
知らず知らず、本当に疲れていた。
私は、去年のあの日に、母からのチェックリストを破り捨てた。
今の私は、以前よりはのびのびしていると思う。