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中村彩乃 / 『小町風伝』 応援コメント
太田省吾さんの戯曲言語を舞踊化するシリーズ2作目、『棲家』を拝見した時のことです。演目の後半、馬頭琴という楽器が奏でるワンフレーズが「お父さーん」と聞こえ震えました。セリフが発されない、楽器と踊りだけの舞台から不意に戯曲のことばが聞こえ、それを受け取れたように感じて感動したのです。この観劇の帰り道、「あれをされたら俳優はもう…。セリフを喋るってなんなんだ。」と考えこんだことを覚えています。
舞台俳優がもつ業(わざ)としてまずあげられるのは、セリフを喋ることだと思います。セリフは、あっという間に観客を舞台の世界に運んでくれる、大きな力を持っています。しかし同時に、意味という枠に私たちの感覚をはめこんでしまう力も持っている、なんとも諸刃の剣のような業です。
「セリフは、ことばは、人をつなぐ橋渡しにも窮屈な器にもなる」そんなことを考える機会をもらった上演でした。
きたまりさんのこのシリーズ作品は、戯曲の文字面だけでなく、戯曲のことばを取り巻く言い様のない存在を注意深く見つめ、敬意を持って舞台にあげようとしているように感じます。
その態度は、ことばよりもっと前、互いの眼差しや気配や震えで私達生き物は豊かに交流できるんじゃないと問うてくれているようで、それはドキリと刺さりながらも希望ある問いです。
そんな問いを、〈沈黙のことば〉を、どうぞ感じに行ってみてください。
きたまり / KIKIKIKIKIKI『小町風伝』公演詳細はこちら
2024年11月2日(土)3日(日) 両日とも17:00開演
会場:大江能楽堂 (京都市)
チケット絶賛発売中!!
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